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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第3章 冒険者編
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第102話 止まらぬ死と思わぬ再会

引き続きグロ注意なのと前半はセーラ視点、途中から三人称でのユウ視点です。



 この世の終わりを思わせる轟音と爆風に吹き飛ばされ、ギルドの建物に叩きつけられた私は「がはぁっ!?」というとても女とは思えない悲鳴を上げながら床に倒れ込みました。

 ゴホゴホと咳き込み、肺の空気だけでなく、時折赤い液体を吐きつつ辺りを見渡した私は視界に広がる光景に愕然とします。



「ひ、酷いっ……」



 先程まで、ジンメンから逃れてきた町民の方達には酒場と冒険者の方が持ってきた魔物の解体を行う解体場を臨時の避難所として使ってもらっていました。

 そこには急いで走ってきたせいで転んだり、逃げ惑う人に踏まれたりして重軽傷を負った人達やリーフさん達のような冒険者の方の誘導によって集まった人達がごった返していた筈です。



 しかし、今、そちらの方向にあるのは原型を留めていない誰かの死体や半壊した机、椅子等の備品のみ。

 そして、私がこちら側に吹き飛ばされたのなら……と、同じ方向を見た私は激しく後悔することになります。



「い、痛いっ……痛いよぉっ……!」

「う、うわああああっ! 誰かっ、誰か助けてくれえぇっ!」

「お母さんっ……返事してよ、お母さんっ!」

「うえええんっ」



 腕や足が折れていたり、顔や上半身が焼き爛れていたり、全身が黒焦げだったり……人が多く集まっていたその場所にはおおよそ軽傷では済まない人達が大量に産み出されていました。

 壁を突き破って外まで飛ばされた人、その近くで倒壊を始めているギルドの瓦礫の下敷きになっている人まで居ます。まさに地獄のような光景。



 軽く見ただけでも避難民の半数以上の方の姿が見えません。代わりに染みで一色に染まっている壁や同じ色――真っ赤な地面があるばかり。

 私のようなギルド職員は冒険者を相手にするので、ある程度の強さを身に付けさせられます。恐らくですがレベルが低い人は先程の爆発の余波だけでそうなる、ということなのでしょう。



「そ、そうだっ、回復魔法っ……!」



 私は回復魔法が使えます。

 お陰で聖神教から守ってくれた両親と一緒に周囲から迫害されたり、病院や冒険者ギルドで魔力が尽きても回復魔法を行使させられたりと色んな不幸に見舞われてきましたが、今こそ誇らしくも忌まわしいその経験を生かす時です。



 しかし、そんな私を嘲笑うかのように事態は悪化していきます。



「早くっ、み、皆さんの……ところ、にっ……? ……っつぅ! あ、あれ……? おかしいな……立て、な……い……?」



 先ず、絶え間ない全身の痛みに悶絶しながら何とか立ち上がった直後に転けてしまい、それでもと再び立ち上がろうとした瞬間、カクンッと足に力が入らなくなりました。

 見れば私の足も折れています。しかも何かの破片が右足のくるぶし辺りに刺さっていて、その周辺は赤黒く変色していました。



 一度だけであり、近くの壁にもたれ掛かっていたとはいえ、よくこの状態で立てたものです。



 次に「ゴゥエゴエッゴギェアァッ!」という変な鳴き声みたいな音と共に、頭に首に胴体、腕のような蔦やら茎やらがあるその見た目からジンメンと名付けられた植物型の魔物が()()()()()()続々と現れ始めました。

 北の方で長らく斥候をしていた冒険者の人が描いた絵とそっくりな見た目ですし、聞いていた特徴も一致します。間違いなく、アレはジンメンでしょう。



「ひっ……じ、ジンメンっ!? ど、どうやってギルドの中にっ! 出入口どころか窓まで閉めてあるのに……!」



 それに逃げてきた町の人達の治療に呼ばれるまで居た受付の方から来たということは私の同僚や友人、先輩、上司は恐らく……

 


「がはっ、ごほっ……ごほっ! く……そっ……な、にが……起き、やがったっ……」



 続けて次から次へと起こる事態に混乱する私を追い詰めるようにこうなった全ての原因と思われる人物が私の前に立ちました。



「ひぃっ……!? し、シキさんっ……や、止めてっ、助けてください! 殺さないでっ!」



 三日月のように大きく湾曲した刀身の特徴的な剣を持ったオーガ種の魔族が居たからか、思わず悲鳴を上げた私にシキさんは初めて見せた素顔を一瞬だけ悲しそうな顔に歪めると、私を無視して近くで倒れていたリーフさん達の介抱に向かいました。



「リーフ、大丈夫かっ!? アクアは……フレアはっ……!? ふ、フレアっ……おい、しっかりしろフレアっ!」



 リーフさんとアクアさんはそれぞれ頭と腕から血を流し、至るところに変色している痣が出来ているくらいで回復薬か回復魔法さえあれば何とかなるくらいの怪我でしたが、フレアさんは……



「クソっ……クソクソォッ! 回復薬は聖騎士との戦いで使い切っちまった……! リーフ達の回復薬も割れてて使えねぇっ……それにこの傷じゃあ……ち、畜生ッ! 何でここまでする必要があんだよ!!」



 多分、立っていた位置が悪かったのでしょう。

 フレアさんは先程の謎の爆発に巻き込まれたらしく、身体の左半身が焼き爛れているか、あるいは黒ずんでいました。



 そんなフレアさんの右側に居たリーフさん達が吹っ飛ばされるだけで済んでいるということは爆発の盾代わりになってしまったということ。

 完全に気絶しているリーフさんとアクアさんとは違い、意識が朦朧としているらしいフレアさんは口をパクパクとさせながらシキさんに何事か呟いているようでした。



 フレアさんは先日の合同討伐時の負傷で喋れません。

 しかし、唇の動きをよく見れば何を言いたいのかわかる筈です。



「ふ、フレアさんっ………………ぇ? キャアアッ! マスター!? バッカスさんっ!?」



 遠目だったこと、目の前に倒れていたギルドマスターとバッカスさんとおぼしき焼死体に意識を半分以上奪われていたこともあり、殆どわかりませんでしたが……



『リーフ達を頼んだ』



 そう言っているようでした。



「くっ……!」



 私が知るシキさんは不気味な魔物の仮面とは裏腹に私の忠告やお願い、愚痴などを聞いてくれる冒険者らしからぬ人であり、現実を直視出来、必要な取捨選択を即座に行える人です。



 こんな時でも……いえ、こんな時だからこそ、その判断力は遺憾無く発揮され、シキさんは悔しそうな顔をしながらも急激に全身から力が抜けていくフレアさんの手を掴みながら小さく「わかった、任せろっ……俺があの二人を守る……!」とだけ声をかけると、足早にリーフさん達の元へ行ってしまいました。



 恐らくフレアさんの容態を一目見て致命傷だと見抜いたのでしょう。

 あの傷では例え回復薬があったとしても効くかどうか……少なくとも私の回復魔法は役に立たないと思います。



「わ、我……求めるは、癒しの……光っ……我、求めるは……奇跡の見業……」



 無理やり立ち上がったせいか、出血と痛みが酷くなったところをシキさんに驚いて座り込んでしまった私は激痛を訴える足に顔を歪ませながら何とか回復魔法を自分に掛けました。

 内臓や足以外にも傷はあったらしく、幾分か楽になったものの、足に刺さっている壁か何かの破片を取り除かないと治るものも治りません。



「い、痛ぃっ……!」



 ですが、そうすべきとわかっていても私の手は動いてくれません。



 理由は単純。

 痛いから。



 ただでさえ震えが止まらない痛さなのにその元凶に触れるだけでなく、肉を貫いているソレを抜かなければならない。



 私には……到底出来そうにありませんでした。



 しかし、そんな苦行を易々と行える人も居ます。

 その人からすれば多分、私の葛藤や恐怖は関係なかったのでしょう。フレアさんという仲間、友人が目の前で亡くなったのです。気持ちはわかります。わかりますが……



「ひっ……し、シキさん、何をっ……ま、まさか……いやっ……止めっ――」

「――フレアがっ……人が死んでんだぞッ!? 何ボケッとしてやがる! さっさとっ、立ちやがれッ!!」

「ぁっ……~~~~っ!! ィャアアアアアアアアアッ!!! あああああああああああああっ!!」



 痛がる私を無視して無理やり破片を取り除くなんて。



 見た目通りの鬼……いえ、悪魔としか思えません。



 外から見ると大した大きさでないように見えましたが、私の足に刺さっていた破片は存外大きく、恐らく骨にまで達していたようです。

 ズボッ! と勢いよく抜かれた破片によって出来た穴の中に一瞬、白いものが見えた気がしました。



 目の奥がチカチカする激痛。最早、極痛と言っても過言ではありません。

 痛すぎて何を叫んでいるのか、どのくらい叫んでいたのかもわかりません。



 覚えているのは近くで倒れていたリーダーさんらしき人が黒い角の生えた悪魔に何かを手渡し、その何かを私の患部に掛けていたこと、でしょうか。



 想像を絶する痛みが少しだけ薄れ、視界がクリアになっていく中、見えてきたのはジョボジョボと音を立てて回復薬を当てられている自分の足でした。



「……回復魔法で比較的軽傷の冒険者を優先して治癒、その後は動けそうな奴だけ治してやれ。魔力回復薬は持ってきてやる」



 ギリッと歯軋りが聞こえてきそうな形相をしていたシキさんは静かにそう告げると奇声を上げるジンメンの方に行ってしまいました。



 恐らく冒険者の方を優先するのは避難民の救助に向かう人間を増やす為。軽傷の方と限定するのは一人でも多くの人間を生かす為でしょう。

 こんな現状では明らかな致命傷の方だけでなく、足が折れている方やどこかを欠損した方等も見捨てなければ全滅だと考えたんだと思います。

 


「うへぇ……こっちも血が止まってねぇってのに、無茶言いやがる」

「り、リーダーさん……?」



 私の足の傷は深すぎて回復薬でも出血を止められていません。恐らく回復魔法を掛けても治ることはないです。間違いなく後遺症になる傷……今後、歩くことも難しいでしょうね。

 リーダーさんも私の足を見て顔を歪めたところを見るに同じことを思ったらしく、現れたジンメンを次々と斬り刻むシキさんに対し、小さくタメ息をつきました。



「あいつから渡された清潔な布だ。痛いだろうが我慢してくれ」

「へ……? ちょっ……あっ……ぃ゛っ゛だぁっ……!!」

「ないよりはマシだろ?」



 いや、だとしても大きな穴が空いている患部を強い力で縛られたら痛いに決まっています。



 私は綺麗な白い布が巻かれていく光景に連なって襲ってくる頭の芯を貫くような痛みに頭や足をピンとさせながら耐えました。



「ほれ、俺のなけなしの魔力回復薬だ。先ずは自分を癒しな」

「は、はぃ……んくっ、んくっ……ぷはっ、あ、ありがとう、ございますぅ……」



 そうして再び自分に回復魔法を使っていると、涙目で震えていた私の肩を持ち上げてくれたリーダーさんは新人冒険者のレド君に「動ける奴等を集めろ。泣いてようが嫌がろうが無理やりだ」と声を掛け、軽傷の避難民の方を集めさせました。

 やり方はシキさんと同じように乱暴ですが、その行為はやはりシキさんと同じように善意によるものです。



 魔族は人類の敵。

 家族だけでなく、周囲から、私が生きる世界そのものからそう教わってきた私は思わずシキさんの正体に恐怖を覚え、敵対の道を迷わず選んだギルドマスターやバッカスさんの言うことを聞いてしまいました。



 ですが、シキさんは仮面で素顔を隠してきた今までと同じように良い人です。



 普通に話し、普通に笑い、普通に怒る……〝普通〟の人間です。



 私には最早何が〝普通〟なのかわかりません。

 人類の敵であるシキさんが散々聖軍が攻めてくるから逃げろと忠告してくれたにも関わらず、私はそれを邪険に扱ってこの有り様です。



 そして、ジンメンという恐ろしい脅威が突如として現れた直後、神の使徒足る聖軍が正面からこの町を攻撃してきている。

 転移魔法を持った聖軍と合わせるかのようなタイミングです。十中八九、ジンメンの出現は聖軍の手によるもの。



 訳がわかりません。

 絶対的な悪である人類の敵が私達を助けようとしてくれて、絶対的な正義である神の使徒は私達を滅ぼそうとしているなんて。



 ギルドマスターは死にました。同僚達も恐らく死んでいるでしょう。町に住んでいる私の家族も……。



 だから私が何をしようと文句を言ってくる人は居ない筈です。

 避難民の方だって自分の命が懸かっているのに助けようとしてくれている人を相手に魔族がどうのとは言わない……いえ、言わせません。



 もし聖軍の行動が神様の思し召しだとしてもこんな虐殺を、非道を許せる筈がありません。



 それに……



「エル、ティーナ、さん……」



 先程、シキさんやリーフさん達が倒れていた場所の近くに目を向ければ右半身が殆ど失くなっているエルティーナさんの姿がありました。

 爆心地の目の前でリーフさん達と対立し、向かい合っていたエルティーナさんです。フレアさんと対を成すように身体の半分が酷い有り様になっています。フレアさんよりステータスが高いので息はあるようですが、あの傷ではもう助からないでしょう。



 聖神様の信者の方達も同様に右半身が消えている人、壁に叩きつけられて潰れた人、潰れた人と爆発に挟まれて更に潰れている人で溢れていました。

 おおよそ避難民の方と同じような状態です。



 いきなり現れてはシキさんを殺そうと息巻いていたエルティーナさんと聖神教の信者の方達。

 シキさんの正体を知るや否や、攻撃を仕掛けたギルドマスター達。



 シキさんと敵対しようとした人がこうまで死に絶えていて、回復魔法を使える私は生きている。

 この結果には何らかの意味がある筈です。



 なら現状で唯一の力を持っている私に出来るのはその力を行使することのみ。



 例えシキさんが人類の敵であろうと、神の使徒に逆らう形になったとしても。

 私は出来る限り、沢山の人を助けたいと思います。

 





 ◇ ◇ ◇




「町の奴等の死はそこそこで済んだけど……やっぱ知り合いのは来るな……」



 ギルドを崩壊寸前まで追い込んだジンメンを必死こいて身体を振っている散布型を優先的に殺していたシキは独りごちる。



 半ばセーラに当たるような形で怒鳴ってしまったのはフレアの死によって心を激しく揺さぶられていたからだ。

 避難民に関してはやはり「弱いから死んだ」という感想と若干のモヤモヤしか浮かばない。やり方に関しては憤りこそ感じるものの、自分が逆の立場であればと考えればわからなくもなかった。



 しかし、フレアの死は違った。

 今までの悲しみや怒りとは比にならない程度に強く、とても虚しかった。



 (これが……仲間の、死……コーザやリーン、盗賊に堕ちた子供達の時と似ているようで……違う。嫌な感じだ……こんな思いは二度としたくない……)



 今でこそ落ち着きを取り戻したシキだが、リーフ達はシキを守るべく近くに立ってくれていたこともあり、リーフ達が倒れているのを見た当初は聖軍に特攻を仕掛けようかと思った程だった。

 それを止めたのもまた、フレアの死。



 フレアが死に際に放った、『俺のことは良い。リーフ達を頼んだ』という音のない言葉は何よりも重く、烈火の如く燃え盛っていたシキの心を急激に冷ました。

 それでも足に立つこともままならないであろう大怪我を負った程度で済んでいるセーラの心が折れているのは看過できなかったが。



「これで……最後っ!」



 ザンッ! と力強く斬撃を飛ばし、言葉通り最後の一匹を殺したシキは外が見えるようになっているギルドの壁から外の様子をチラリと窺った後、一息つく間もなく、近くで倒れている冒険者達の懐をまさぐり始めた。



 (魔力回復薬……誰か一本くらい持ってないのか……ん? これは……チッ、割れてやがる)



 回復薬や魔力回復薬は小さいフラスコや試験管のような形状の瓶に収容されている。

 世界的に普及しているそれらの入れ物が頑丈な筈もなく、人が跡形もなく消えるほどの爆発のせいで例え見つかったとしてもその殆どが割れている。町に残った冒険者が勇気と無謀を履き違えた者達ばかりであることを考えればマジックバック持ちもそう居ないだろう。



 シキもそうなっているとわかっているからこそ、使える回数が限定される回復薬ではなく、魔力さえあれば回復魔法を扱えるセーラを最大限に利用出来る魔力回復薬を探しているのだ。



「漸く……一本、か。まあないよりはマシだな」



 人()()()()()や人の面影があるものに触れるのは決して良い気分がするものではないが、自分がやらなければ生きられる筈の者まで死んでしまう。

 避難民達のそれは『どうでも良い命』であると同時に『なくなってほしい』ものではないのだ。どのみち、フレアの死ほどではないにしろ嫌な思いはする。助けられるものなら助けたいと思うのはシキに残った良心がそうさせたのだろう。



「フレアっ……勝手に……逝くな馬鹿野郎っ!」

「……フレ、ア……」



 死体漁りをするシキの近くでリーフとアクアが嘆く声がした。

 目を覚ましたらしい。



 シキは思わず身体を硬直させるものの、直ぐ様その手は動き出す。

 既に手は血肉にまみれているがそんなことを気にしている暇はないのだ。



 (フレアが死んだのは俺の……せいだ。俺が魔族だったから……リーフ達が俺を責めてもおかしくない……いや、責めるのが普通だ……)


 

 自分の手が耳障りな音を立てながら誰かの死体に穴を開けた。

 加減を間違えた、というのもある。しかし、それ以上に死体そのものが液体のように柔らかくなっていた。



「うっ……」



 反射的に口を抑えようとして……止めた。

 動かない左手とは違い、右手は誰かの死によって汚れている。そんな手で顔に触れたくなかった。



 ――何で俺がこんな目に。



 ――こんな思いをするのはもう嫌だ。



 ――今からでも遅くない、逃げよう……リーフ達は……運が悪かった。……そう、運が悪かったんだ。



 そんな甘くも苦い己の誘惑に満ちた声が囁く中、声を掛けてくる者が居た。



「よお、シキ……」

「…………」



 リーフとアクアだった。



 二人の顔は何も出来なかった自分達への悲しみと怒りがごちゃ混ぜになったような複雑な顔をしていた。



「別れは……済ませた、か……?」



 シキはこの時ばかりは自分の判断を、そんな言葉しか浮かばなかった自分を呪った。



 (そうじゃないだろっ……何で済ませたか、なんてっ……俺のせいなのに……!)



 しかし、シキのそんな葛藤はリーフ達の言葉によって払拭された。



「あぁ、苦しまずに逝ったようだしな。……仲間、なんだから……せめてっ……死に際くらい、生きて、いて……ほしかった、けどなっ……」

「穏やかな顔だった……後悔とか心残りとか……そういうのも感じなかった」



 否、払拭というよりは上書き、の方が正しいだろうか。

 途中から悲しそうに涙を流し始めたリーフに何て言えば良いのかわからなくなり、声を荒げてしまったのだから。



「何でっ……! 何で俺を責めないっ!? フレアはっ……俺を守ろうとしてっ……お前らだってそうだろ! 俺を庇ってっ、傷……ついてっ……!!」



 あまりにも自己中心的で自意識過剰。



 今のシキが自分を客観的に見ることが出来る精神状態であればそう揶揄しただろう。



 だが、現実は違った。



 シキからすれば自分が魔族だと知れば皆が皆、エルティーナやセーラ達のように拒否、否定の立場をとると思っていた。

 実際はリーフ達三人だけは自分を庇ってくれた。魔族だからどうしたと鼓舞してくれた。



 嬉しくも不可解な事態に混乱する余裕は暴走しかけていたシキにはなかった。

 その余裕が少しずつ戻ってきていたところにこの現状だ。



 自分を庇おうとしたから爆心地の近くに来てしまった。

 自分が魔族じゃなければ、自分が存在しなければ……



 そう、思ってしまった。



 故に大粒の涙が止まらなかった。



 悲しくて、嬉しくて、虚しくて……



 魔族に()()()()、そのせいで何もかも奪われ、失くし、挙げ句には漸く出来た真の仲間と言えるかけがえのない存在の一人を失った。



 シキにとって許せる筈もない悲しい現実だった。



 しかし、それはあくまでシキにとって、だけだったらしい。



「ぶっ……ははっ……恥ずかしい奴だな。大の大人が何情けねぇこと言いながら泣いてやがる」

「ふふっ……シキ。僕達は正しいと思ったから行動した。多分、フレアも。フレアは僕達の中で一番差別意識があった。僕と出会った当初はバカにしてきたし、見下してきた。けど、いつの間にか、そんなフレアが一緒に飲みに行こうって誘ってくれるくらいに仲良くなった。だから……フレアがシキを庇ったのも……」



 シキと同じように涙ながらの言葉だった。

 同時にとても暖かい言葉だった。



「良いか? 俺達はお前が思ってるほどお前のことを大事になんて思ってねぇさ。ただ……魔族ってだけで殺そうとするあいつらにムカついただけだ」

「そう。エルティーナはあの盗賊達を殺しただけであそこまで苦しんだシキを知っている筈。……シキは褒められるような聖人じゃないのかもしれない。けど、僕達にとっては良い奴。決して死ぬべき悪い奴じゃない」



 照れ臭そうなリーフの表情とアクアの言葉から感じる暖かさは誰かの温もりを感じさせた。



『シキの望む戦いだし、止めはしない。殺しあいに魅入られた哀れな子だとは思うけどね。でも、死なないで。貴方は周りにとっては〝悪〟でも私にとっては良い子なの。だから……ね?』



 しかし、誰かの温もりに関係なく、シキの心は救われるような思いで一杯になっていた。



 理不尽に次ぐ理不尽の中にもこういう優しい奴等も居る。



 異世界に無理やり召喚され、親友だと思っていた友人達と一緒に居たいというそれだけの思いで死ぬほど努力して、そんな思いも覚悟も何もかも裏切られて拷問され、魔族に堕ちた。

 だが、魔族に堕ちた後も足掻いた結果、見えてきたのは辛い現実ばかりではなかった。



 拙くも儚い、形容のしようがない不思議な思いに包まれたシキ。


 

 しかし、悲しいかな、その余韻に浸る間もなく邪魔者は出てくる。

 それもまた、現実。



 ――ゴゥエゴエッゴギェアァッ!

 ――ゴゥエゴエッゴギェアァッ!

 ――ゴゥエゴエッゴギェアァッ!



 中からだけではない。

 ギルドの建物周辺からも聞こえた。



「……はぁ。俺、こんな気持ちになったの生まれて初めてなんだけどな……アニメとかなら最終話とかでありそうな場面だぞ今……」



 仮面がないからか、今までの努力が少しだけ恵まれたような気持ちに心が少しだけ癒されたからか、奇声を上げながら現れたジンメンに対し、シキは珍しくげんなりしたような顔で嘆いた。



「何言ってんだお前。……胞子避けさえあれば雑魚っつったよな。俺も戦えるってことで良いか?」

「あぁ。だが、アクアは獲物と職業的に向いてない。錯乱は出来ると思うけどな」

「わかった」



 リーフ達はシキの言葉に首を傾げるものの、直ぐに獲物を抜き、戦闘体勢をとる。



「……まあ怖かったら息止めてりゃ何とかなる」

「戦いながらそんなこと出来る訳ねぇだろっ」

「クハッ、そうか?」

「そうだよ、お前みたいな人外と一緒にすんな畜生!」

「酷い言い様だな……」



 初のジンメン戦に心なしか固くなっていたリーフ達の肩を解すように半ば本気の冗談を言って和ませたシキだったが、いざ戦おうと剣を構えた次の瞬間、ポカーンと大口を開けることになる。



「だらっしゃああああああっ!! よぉっし! 七匹同時撃破! 流石アタシっ!」



 いつかのシキのように空から落ちてきて飛び蹴りを放ち、数匹のジンメンを蹴り飛ばした後、踵や脹ら脛、背中に付いている銀色に輝く円錐形の物体から魔粒子を吹き出して身体を急速回転させ、いつの間にか作っていた火球をサッカーボールか何かのように蹴ってぶつけ、外に残っていた個体を燃やした人物の登場に。



 そして、



「これで計三十! ……って、え? ゆ、ユウ? それに……町の、人……達……?」



 シキ達と同様にポカンとしたその人物の顔が知り合いのものであったが故に。



 女性にしては短く切り揃えられた短髪にチャームポイントを思わせる可愛らしい髪留めが一つ、勝ち気な瞳と自信に溢れたその表情からは以前、シキが思ったような『スポーツ少女』という言葉がよく似合うだろう。

 何より、華麗かつ大胆不敵かつ力強い蹴り技。そして、それを成す、柔らかくもよく動き、凄まじいステータスを思わせる身体。



「良かったっ……貴方っ、生きてたのね! えっ……ちょちょちょ、ちょっと待って、それは良いとして……いや、あんまり良くないけどっ! う、嘘でしょ……町の人は……生きて、いた……?」



 ライと一緒に居る筈の異世界人、ミサキ=キヨシ本人だった。




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