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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第3章 冒険者編
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第99話 戦術的撤退

グロいシーンがありますので食事中の方等はご注意ください。



「「なっ!?」」

「――へ……? あっ、ああああっ……! っ、あああああああっ!!?!?」

「――ぐっ!? おおおおああああぁっ!?!?!?」



 薄気味悪い笑みを浮かべていたゥアイとソーシが平然と上半身を起こしたシキの姿に同時に驚き、同時に転び、そして、また同時に悲鳴を上げた。

 二人は地面に尻餅をついており、一様に苦痛に満ちた声を上げている。



 理由は二人がどす黒い深紅色に染まった両膝を抑えていることからわかる。

 加えて、二人が激痛に悶えながら地面でもがいているにも関わらず、二人の膝から下に当たる部位が未だに地面の上にあることからもだ。



「チッ……外したか」



 今までの演技をレーセンに見抜かれたシキが刺された脇腹を抑える振りをしながら魔法鞘からもう一本の長剣を逆手に抜刀して放った『風』の斬撃は二人の胴体から上の何処か、という狙いは大きく外したものの、見事二人の足を捉えた。

 必殺の斬撃は脚甲を装備している筈の二人の足を何事もなかったかのように通過し、そのままレーセンへと迫ったがそちらは躱されてしまった。



 尚、口では惜しい等と言っているシキだが、全身を絶え間なく襲う異様な熱や痛み、出血多量で意識が朦朧とする中、寧ろよく当てたものだと内心では自身を激しく称賛していた。

 実際のところ、レーセンの質問による否肯定限定の読心スキルを使われれば一瞬で瓦解する演技だったのだ。そもそも毒自体も完全に予想外の出来事であり、気付いた瞬間は本気で死を覚悟したくらいだ。思わず自画自賛してしまうのも当然と言えよう。



 (最初から動けるかどうかだけ訊いときゃ良かったものを……傲ったな、盲目ジジイ。欠損のような怪我こそないものの、まともに動けなくなるほどの大怪我を全身に負わせた上に致死性の毒を食らわせたんだ。気持ちはわかるがな)



 最初は何の演技でもなく、バンの毒に苦しみながら【抜苦与楽】で『抜』いていた。

 即効性がなかったからか、過去に同じような経験をしたからか、徐々に楽になっていったので虚空を見つめたり、全身の力を一気に抜いて無防備になったりと演技系スキルを総動員して死んだ、あるいは死にかけている振りをして今回の戦果を上げたことになる。



 過去の経験と使われた毒の種類、レーセンの傲り。



 致死性の毒を身体に摂取させられた経験があったからまだ死なないという明確なラインが見えて冷静で居られたし、使われた毒が適度に遅効性だったからレーセンやゥアイ達が怪しまない程度に苦しめられ、【抜苦与楽】で『抜』くことも出来た。

 レーセンに関して言えば、自身が今まで築いてきた経験という積み重ねが『炯眼』と称されるレーセンの目を曇らせた。これまでに見てきた仲間や敵の死で『この容態では直に死ぬだろう』と思わせてしまった。



 結局、《直感》によって演技はバレてしまったが、結果として二人の聖騎士を狙った攻撃は直撃したのだ。

 〝凡人〟と揶揄した者達を相手にプライドを捨ててまでみっともなく死んだ振りをした結果とはいえ、この辛勝は大きいだろう。



「クハッ……今のも避けんのかよ。やっぱ見えてるだろ」

「……この目は光を失っているが、感知スキルを鍛えれば目に頼らんでも見える。ただそれだけのことだ。それより毒はどうした? まさか効かない等とは言うまい」

「あぁ、ちゃんと効いたし、今も効いているとも」

「スキルか? 今の発言は真実か? ……成る程、無効化するようなタイプか?」

「…………」

「……ではそのスキルは固有スキルか? ほうほう。散々苦汁を舐めさせられたが……代わりにお前の正体、見えてきたぞ」

「チッ……好き勝手に人の情報を覗きやがって。読心スキル強すぎだろ」



 一度倒れたせいで上手く力の入らない足を悟られないよう、再び演技をしながら悠々と立ち上がったシキは読心スキルを多用してくるレーセンと話しつつ、ゥアイ達に近付いていく。



 不気味な仮面の下ではスキルでも隠しきれない苦悶の表情を浮かべていることもあり、今回ばかりは仮面の存在に心から感謝していた。



「ああっ……足がっ……妾の足がっ……!」

「くっ……こい、つ……っ!! 殺してっ、やる……!」



 先日の右腕に引き続き、今度は両足まで失った現実にひたすらパニックになっているゥアイと顔中に汗を滲ませながらもこの惨状を産み出した本人を睨むことで必死に苦痛を耐えているソーシ。

 そんな二人をチラリと確認したシキは小さく呟く。



「出来れば両方とも殺したかったが……仕方ないな……」



 防具があるとはいえ、生身で属性魔法を何発も食らい、致死性の毒を食らいながら当然のように歩き出したシキに恐れを成していたレーセンは「不死身か……」と戦慄しており、その呟きが届くことはなかった。



「こいつはもらっていく。殺されたくなきゃ……わかってるな?」

「ヒギャッ……ひぃっ!?」



 そんなレーセンとは裏腹に色々と限界が近付いていたシキは何とかそれを隠しながら、すっかり小さくなったゥアイの髪を掴んで持ち上げると右腕で身体を脇に挟み、長剣を首に当てた。



「ぐっ! 人を盾にするのか! この卑怯者っ!」



 長剣の当てられた首からだらだらと血が流れて悲鳴を上げているゥアイの姿に激しく憤慨したソーシがこれでもかと罵ってくる。



「クハッ、卑怯だと? お前らも人質とっただろ。自分達は良くて人がするのはダメってのは筋が通らねぇと思わねぇか? んん?」

「なっ……ひ、人だと……? 薄汚い魔族が……劣等種ごときが人を騙るな汚らわしいッ!」

「ひでぇ言われようだなァ。ビビって思わず手が滑りそうだぜ」

「ギャッ……グゲゴッ!?」

「ゥアイっ……! や、止めろ! 止めてくれ!」

「クハハッ、最初からそうやってお願いしておけよ。そういう立場だろうが」

「くっ……!」



 勝手に勘違いして攻撃してこないレーセンを良いことに強気に出ながら身体の調子を確認する。 

 凄まじい切れ味を誇るジルの爪仕様の長剣が首に食い込み、ゥアイの喉から変な声と生暖かい真っ赤な液体が漏れてくるのも気にせずにステータスを開いたシキは愕然とした。



 (HPの残りが六割でMPの残りは一割ちょっと……魔力が尽きかけてるのもヤベェが、HP項目も大概だな。頭部は肉が削られ、右足は歩くのも難しいほどの裂傷。左足も他より目立ってねぇだけで『土』の塊をぶつけられたからな。どっかが折れてるか、ヒビが入ってるだろうし……一番酷い左腕は関節がぐっちゃぐちゃ。こりゃマナミの【起死回生】じゃないと後遺症になるレベルだな……挙げ句には脇腹に毒付きの短剣でやられたでけぇ穴が一つ。内臓の方は無事っぽいけど、これだけの傷で四割か……大きいとビビるべきか、小さいと喜ぶべきか……)



「チッ、よく見りゃじわじわ減ってやがる。何で……って、あぁ、出血か……」



 と、小さくぼやきながら思考を続ける。



 (これで五割……丁度半分死んでるってか。……そろそろ潮時だな)



 左腕と頭部の負傷は特に酷いが、全身も火傷に骨折、ヒビ、裂傷にその他、思い付く限りの怪我を負っているのだ。

 シキの増殖、高速回転させられている思考の数々は殆ど痛みへの反応だけで埋め尽くされており、まともな思考が出来るのは一つか二つのみであった。



 とはいえ、寧ろここまでの怪我を負って立っていること自体化け物染みた精神力を持っていることの表れなのだが、流石のシキでも劣勢を悟ったらしい。



 (四対一で一人死亡……いや、腐っても聖騎士だからな、ワンチャン生きてる可能性もあるか。……兎に角、一人再起不能、一人は見ることも立つことも出来ない大怪我、一人は左腕以外欠損状態で人質……最後の最も厄介な一人は回復魔法で前線に戻れるくらいのダメージ、か……逆にこちらのダメージは再起不能に近い……回復薬があれば少しはマシになるんだろうが……マジックバッグ、どっかに落っことしちまったからな……多分、さっきの戦闘で……あぁ、あんなとこに落ちてやがる。幸い、さっき弾かれた剣もあるし、回収しとかねぇと……)



 最早反撃出来る力はないに等しい今のシキからすれば人質なんて無視して攻撃してくれば良いものを、と思ってしまうが、レーセンは意外にも攻撃してこない。

 その隙にいつの間にか止んでいた属性魔法の嵐に気付いたかのような振りをしながら辺りを見渡して状況を分析し、優先事項を立てながら逃げ道を模索する。



 (最悪、薬屋に火事場泥棒でもすりゃある程度は何とかなるが……それよりライ達が居る聖軍の手に日本語で書かれたメモが入ってるマジックバッグが渡るのは痛いな。使ってないだけでショウさんから貰った銃とか日本食入ってるし……)



 レーセンやソーシにチラリと視線をやれば今にも胴体から離れそうなゥアイの首に釘付けになっている。



 (二人とも見えねぇ癖に見てやがる……面白い図だな。感知系スキルで大体はわかるんだろうが……まあ良い。あの様子じゃこれ以上は刺激になるな、なら……)



「そっちに落ちてるマジックバッグを拾いに行かせてもらえるんなら回復薬を掛けてやるがどうする? 少しでも怪しい動きをすれば殺すからな。早めに答えろ」



 それは交渉ではなく、脅迫だった。

 続けて魔法や時間稼ぎもダメだと念を押す徹底ぶりだ。



 演技や思考系スキルで何とか表に出さないようにしているだけでシキは現在、限界を超えて動いている状態なのだ。見栄を張るにも限度がある。現に次倒れれば絶対に起き上がれないと《直感》すらしているくらいだ。

 ならばこそ、卑怯、姑息、卑劣等と罵られようがこうした手段に出るのは最適解とも言えるだろう。



 ただの強がりだと見破られれば問答無用で殺される。

 逆に隠し通せば出血多量でそのうち死ぬことが一目瞭然のゥアイを最低限生きられる程度に治して逃げることも出来る。



 (現状で攻撃してこないということは今後もこの女の命に利用価値があるということ……出来れば生かしておきたい)



 もし仮に人質として利用出来ないのであれば、レーセンは既に攻撃を仕掛けてきている筈である。

 レーセンが情に弱いか、ソーシの暴走を恐れているのか、シキを刺激したくないだけか……考えられる理由は幾らでもあるがどういった理由であろうとも現状から逃亡することが出来れば、あるいは聖軍の結束を瓦解させることも出来る可能性もある。



 今のところ姿はないとはいえ、ライやマナミが居るのだ。二人の人となりをよく知っているシキには人質という手段をとればどういった反応をするかも容易に想像が付くし、軍門に下ることも考えられるだろう。



 また、ライ達に限らず他の聖騎士達も仲間を人質にされて気にしない者や気にする者とで確実に分かれる。

 そうなれば軍としての機能を失わせることが出来る。そして、士気や指揮系統さえ乱せば時間が稼げる。最悪の事態として、町そのものからの撤退を視野に入れればどうしても時間は惜しいのである。



「「…………」」

「だんまりってのはよろしくないな。……五秒以内に答えろ」

「あがっ!? んっもがあああああっ!?!?」

「なっ、ゥアイ!」



 盲目にされた者、元来そうだった者同士でお互いの方へ光を失った瞳を向けて黙ってしまった二人を急かすようにゥアイの喉から長剣を抜き、口の中に無理やり突き刺す。

 舌か歯茎にでも刺さったらしく、口から夥しい量の血を流して暴れるゥアイだが聖騎士とはいえ、後援寄りであり、片手しか無い状態では抵抗もまともに出来ない。



「5……4……3……」

「せ、せめて回復魔法を使わせてくれ! このままではゥアイが――」



 悠然とカウントダウンを開始したシキに対し、ソーシは焦りに満ちた顔で懇願するが、シキはあくまで冷静だった。



「――2……1」

「なっ!? ふ、ふざけるなッ! ゥアイが死んでしまえばお前だって只じゃ済まないんだぞ!?」



 yesかnoで答えろと言ったろ、とでも言いたげな視線に思わず怒鳴り散らすソーシ。

 それでもカウントダウンは止まらなかった。



「ぜ――」

「――了承する! ……さっさと失せるが良い」



 それを止めたのは老聖騎士であった。



「レーセンッ!? 貴、様ぁッ……!」



 「ゥアイを見捨てるのか!」等と地面の上で喚いているソーシを無視し、レーセンは続けた。



「だが、そいつに人質としての価値がある等と思うなよ。俺は兎も角、こいつは死にかけている。上級騎士が三人も殺められたとなれば問題なのだ」



 (……三人ってことはバンは死んだのか? スキルでそれを感知……? いや、嘘って可能性もあるな。チッ、一々スキルの有無で困る)



「クハッ、何だと思ったら言い訳か。お山の大将は大変だなァ?」

「好きに吠えるが良いさ鬼の子よ。……いや、()人間、か? ……ふはっ、当たりか!」

「っ……」

「消えた筈の『闇魔法の使い手』がこんなところに居ようとはな。あの方達に報告すればどうなるか……」

「……好きにしろ。俺を害するんならあの方達とやらも殺す。それだけだ」

「ふっ、やはり青いな小僧」



 目ではなく、スキルで感知しているのならば下手に意識されて気取られるより、気を逸らした方が良いと踏んだシキだったが、これでもかと煽った結果、思わぬしっぺ返しを食らってしまい、動揺しつつもマジックバッグと長剣の方へと歩を進める。



 (……バレちまったか。ならライ達に言い付けるにしろ、教えずに殺してくるにしろ、こいつだけは絶対に殺さなきゃな。……だが、今はまだその時じゃない。落ち着け……今殺ったら殺されるか、死んじまう……!)



 《縮地》持ちに油断は出来ないと背は向けずにゆっくりと進んでいたシキだったが、正体がバレてしまったという状況にドックン……と心臓が跳ね、立ち止まってしまった。



「フーッ……! フーッ……! フーッ……!!」

「っ、失言だったか!?」

「フーッ……ふーっ…………っ、はーっ……」



 息が荒くなり、同時に全身を襲ってくる鳥肌レベルの破壊衝動と殺人衝動を何とか抑える。

 一方で殺気が漏れてしまったことにレーセンが焦ったような表情を浮かべ、瞬時に剣を構えたが、少しすると治まったので身体の力を抜き、再び歩き始めた。



「こ、こやつ、狂人のくせに自らの状況を理解しているというのか。何と歪な……」



(……よし、落ち着いた。危ない危ない、死んでも殺すとか考えてたな今。この悪癖早く何とかしないと……にしてもこのジジイ、隣で騒いでる馬鹿の前でよくもまあ人質にならないとかほざけたもんだな)



 両目に次いで、両足を失い、挙げ句には最愛の人らしきゥアイまで失おうとしているソーシは冷静でいられる筈もなく、今現在行われたシキとレーセンの問答どころか、びちゃびちゃと音を立てて血を噴き出すことすら気にせずレーセンを怒鳴り付けている。

 その光景を未だに『抜』けきらないらしいバンの毒も相まって、先程の興奮で急激に上がったように感じる全身の熱とバランスを保つように冷めた目で見つめる。



 (自分とソーシが生き残れば最悪、マナミに治してもらえると考えたか。マナミに何があったのかは知らないが……死んだってことはない筈だ。ゥアイは蜥蜴の尻尾切り状態。何かの弾みで助けられればそれも良し、人質にされたなら見殺しにして俺を殺せば良いと。今、攻撃してこないのは俺と同じで無理をすれば自分どころかソーシまで殺されるという可能性を恐れたから。多分、体勢を整えたらこの女を無視して攻撃してくる……ソーシは兎も角、こいつはそういう判断を下せる奴だ)



 レーセンもシキも死にかけている獲物が一番恐ろしいことを知っている。

 だから互いに攻撃しない。



 シキは満身創痍の現状でレーセン達を刺激してしまえば出血多量で死ぬか、比較的動ける程度のダメージであるレーセンによって殺されることを理解している。

 レーセンは自分とソーシさえ生き残れば、これ以上の損害を出すことなくシキを打倒出来ると考えた。ゥアイに関してはシキの想像通り、不要と切り捨てたのだろう。出来れば助けたいが自分やソーシの命を天秤に掛ければゥアイの存在は軽く、上がってしまった訳だ。いつマナミに治してもらえるか不明瞭とはいえ、自分達とは違って相手に全回復の手段はないのだ。ソーシは納得出来ないだろうが、ゥアイを切り捨ててでも勝利を得なければならない。軍を率いる者としてそう判断したのだ。



 そして、互いが互いの思惑をわかっているからこそ、そんな愚行を犯さない。

 互いに今退けば、片や策を練れ、片や確実な勝利を得られるのだから。



 睨みあいを続けること数分、ザッザッザッ! という綺麗に揃った足音がシキ達の耳に入り始めた。

 レーセンから身体の向きをずらすことなく、視線だけ向けてみれば見えてくるのは先程、属性魔法の嵐を町に放っていたと思われる後援部隊の姿があった。



 一様に壁の上で見た突撃してくるフルプレート達と同じ出で立ちであり、嫌でも聖軍の一人一人がオールラウンダーなのだと窺える装備だ。



「……クハッ、事はそう上手く進まねぇか。ジジイ、わかっていたな?」

「そうでなければ見逃さん」

「厭らしい老いぼれだな」

「ほざけ小僧が」



 話しながらもマジックバッグと長剣が落ちている場所まで急いで移動したシキは回復薬をゥアイに与えるのではなく、自分に掛けていく。



 しかし、レーセンはそれを咎めない。

 マナミの【起死回生】でなければ、今のシキの重傷は治しきれないということを知っているのだ。



 それ故の傍観。

 あくまで応急処置しか出来ず、攻撃してきたところで後ろから続々と姿を現し始めている後援部隊に対抗出来ないシキと時間さえ掛ければ復活出来る自分達。



 優位なのがどちらなのか、それすらもレーセンは理解していたのだ。



 シキはその事実に短く舌打ちしながら拾った長剣と持っていた長剣を鞘に戻し、マジックバッグから次々と回復薬を取り出しては頭からそれらを被り、飲み、ゥアイにも与えて出血を止める。

 そうして、動かないままの左腕の調子を確かめつつも自分とゥアイの身体を回復薬と一緒に取り出したロープで縛り付けていく。



「次は殺す。あの方達が何と言おうと、だ」

「その言葉はそのまま返させてもらう。次はないと思え、盲目ジジイ」

「貴様らあぁぁっ! 俺を無視するなぁっ! ゥアイを返せ魔族! レーセン! 貴様も見ていないでゥアイを助けろ! 動けるだろうが!」



 二人は喚き続けているソーシを完全に無視し、互いを見据えて忠告する。



 シキは残り少ない魔力を魔粒子に変換し、足や背中から噴き出しながら。

 レーセンは後方でシキの存在に気付き、詠唱を始めた部下達に力の無駄使いだと手で制しながら。



「クソクソクソクソオオォーーーッ!! 貴様あああ! ゥアイにこれ以上傷を付けてみろッ!? その薄汚い皮を剥ぎ、臓物という臓物を抜き取って相応しい姿にしてやるからなああああ!!」

「むがぁっ! もがっ、むもがああああっ!」



 聖騎士とは思えない凄まじい形相で叫ぶソーシに助けを求めて唯一残った右腕を伸ばして泣くゥアイ。



 ある意味で美しい愛を見せる二人の姿に、シキは「クハッ!」と一際大きな声で嗤うと、



「敢えて言っておく。……覚えていろ」



 とだけ言い残し、町の方へと飛んでいった。




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