第97話 奇襲
前半はアクア視点、途中から三人称でのユウ視点になります。
また、グロいシーンがあるので食事中の方等はご注意ください。
いつ聖軍が来るのか、冒険者だけが不安に過ごしている日々。
それでも急騰している生活費を稼ぐ為に依頼をこなし、何とか衝突の日まで生きようとする僕達の中で最初にその異変に気付いたのは不気味な仮面冒険者のシキだった。
その日は確かにいつもより様子が可笑しかった。
朝から『嫌な予感がする……この感じ、《直感》か……?』と呟いていたり、いつも通り、依頼を受けようとする僕達や受付嬢のセーラに『そう遠くない頃に何かが起きる。当分の依頼は無しにした方が良い』と忠告してきたり……
決定的だったのは昼間時。
シキの言う通り、依頼を受けずに武器や防具の点検、回復薬等の調達をしていた時だ。
誰もが腹を空かせ、飯屋を探す為、あるいは食事場所を求めて騒々しく歩き回り、そんな道端の人に声を張り上げて品をアピールする商人やそれらを脅かす者が居ないか厳しい眼で見回る憲兵。
いつだったかシキが『バスみたいなもんか。面白い文化だな……』と小声で言っていた、町中で駅を定めて走り回る定期便の馬車がガタガタと音を立てて走り、町はいつも通りの日常といった様子だった。
僕達もそんな光景に混ざり、昼飯は何にするかと談笑しながら歩いていたその時。
シキが立ち止まった。
そして、一瞬大きく身体を震わせたかと思った次の瞬間には何やら忙しなく辺りを見渡し、何か焦った様子で周囲の人達に『静かにしろッ!!』と怒鳴った。
いきなりの声に思わず黙る僕達と静まる日常。
それらを無視するかのようにしゃがみ、地面が軽く揺れるほど強く飛び跳ねたシキはそのまま近くの民家の屋根に上がると、耳を澄ませるかのように辺りに集中した。
僕達もそれを見習って耳を澄ませてみるが何も聞こえない。僕の《気配感知》にも何かを捉えるということもなかった。
それでもデジャブのように似た光景を見たことがあり、シキの〝勘〟の鋭さを知っている僕達は直ぐ様、近くで騒ぎ始めた人達を静かにさせようと走り始め……確かに聞こえた。
――ゴゥエゴエッゴギェアァッ!
という、一度聞いたら当分忘れないであろう独特の奇声を。
その音が何なのかを想像し、一気に顔を青ざめさせたリーフは「何で町中に……い、いや、それより……お前ら建物の中に入れぇっ! ジンメンだあああっ!」と叫び、背中の大剣を抜く。
ただでさえ気配の薄いジンメンを人が大量に居る町中で探すのは難しい為、僕は『何故ジンメンがこんなところに居るのか』という無駄な思考を止め、リーフに指示を求めた。
「チッ……誰も動きやしねぇ。シキにビビってんのか、放心状態か……だが、確実にパニックになるな。お前らは今動いてくれる奴だけで良いから避難させろ。この数だ。死人も出る。確かシキの話だとジンメンは人を認識すると襲ってくるらしいから……冒険者ギルドならそこそこの人数も入るだろ、誘導兼自分達も避難って感じで行くぞ」
リーフは屋根の上で「あ、いつら……ここまでやるのかッ! ぁんのクソ共、ぜってぇぶっ殺す!!」と叫んでいるシキを見上げながら答える。
「わかった」
肯定を返しつつ、辺りを見てみればリーフの言葉に反応する人達は皆無と言って良いほどおらず、寧ろ殺気を撒き散らしているシキの方に注目が行っている。
シキもそれをわかっていたらしく、屋根に蹴りを入れて破壊し、より注意を引くと「とうとうジンメンの襲来だ! 布か手で口や鼻を覆い、出来るだけ呼吸をしないように冒険者ギルド等のでけぇ建物に避難しろ!」と叫んだ。
「「「「「……………………」」」」」
しかし、そんなシキの言葉も虚しく空を切る。
殆どの人は動かないし、大工のような職人連中からは「いきなり何だテメェ!」、「何様のつもりだ!」等と怒鳴られている。
多分、ジンメンの怖さを人伝にしか聞いてないからわからないんだろう。
あの奇声も一度聞けば忘れないし、ピンと来るものがあるけど、初めて聞く人からすれば変な音としか認識出来ない。だから誰かが動かないと他の人達も動こうと思わないし、気の強い人は反発する。
それに対し、シキは……
「このっ……馬鹿共、ぶっ殺されてぇのかッ!? 良いから早く逃げろっつってんだろっ!」
凄まじい殺気と近くにあった煙突の破壊で答えた。
僕達ですら肌がビリビリと震える殺気に拳一つで建物の一部を崩壊させる膂力。
当然……
「キャアアアアッ!」
「うわああああああっ! こ、殺されるうぅっ!!」
「何なんだあいつ! 化け物かよ!」
「誰か助けてええっ!」
と、辺りは大パニックになった。
「あいつ、ここに来て一番やっちゃいけないことしてないか? ……まあ、皆逃げてったから良いけど」
「本気の殺気なら気絶する人も出るだろうし……計算してビビらせた?」
シキが少しでも肌を露出する時、何となく目で追っていた僕だからこそわかる。
彼は成人して少しくらいしか歳を食ってない。多分、二十にも届かない。
だから不気味な仮面で顔を隠していても、年相応の至りや反応が出ていてもおかしくはない。
けど、幾ら何でも今のはないと思う。
「リーフっ、アクアにフレア! 胞子避けと誘導頼んだぞ! しらみ潰しに殺していく!」
リーフと一緒に「いやまあ、結果オーライだけどさ……」とシキの乱暴な退避のさせ方に引いていると、当の本人は相性的にジンメンと正面から戦えない僕達に指示だけ出して屋根から屋根へぴょんぴょん……いや、着地した屋根を次々に蹴り壊してるからズガンズガン? 跳ねて何処かへ移動していった。
……と、思ったら追加の声が聞こえてくる。
「……あっ、前も言ったけど噛み付いてこないで、ひたすら頭振ってる奴さえ殺せばその周囲に胞子は降ってこなくなる筈だから見つけたら殺してくれよーっ! 後、殺しても胞子避けは常にしておけぇーっ!」
多分、『風』の属性魔法で声を届かせたんだ。何かぐわんぐわんして聞こえたし。
「あいつキレてんのか、冷静なのかどっちなんだ……」
「ていうか思いっきり素出してたね」
シキは出会った当初から少し固い口調だった。
エルティーナやシキの恋人? らしき赤毛と隈が目立つ女の人みたいな話し方。悪く言えば偉そうな感じ。
「視線だけ見ると当たり前の光景に驚いてたり、感心してたりと大分感情豊かだからな。かなり若いだろうに、何で素顔を隠してんだか。……まあ何となく想像はつくけどよ」
「……賞金首とか?」
「全身に大小問わず大量の剣を全身にぶら下げておいて軽々と人ん家の上を跳ねる奴とか絶対に追いたくないな」
「……っ!」
「っと、そうだったな。アクア、あいつの指示聞いたろ。お前らは当初の指示通り、誘導だ。道は俺が作る!」
「了解」
あっという間に姿を消していくシキの背中を見ながらぼんやりと話していた僕達はフレアに促されて我に戻ると直ぐ様行動を開始した。
◇ ◇ ◇
(まさかここまでやるなんてな……)
シキは属性魔法で作り出した微風を纏った身体で全速力のダッシュとジャンプを交互に繰り返すことで屋根から屋根へと跳び移りつつ、思考に耽っていた。
聖軍ではなく、ジンメンの襲来。
これに対し、アクアやその他大勢は先ず疑問と驚愕で内心が埋め尽くされていたが、シキやリーフ等の一部の者は別のことを考えていた。
ジンメンの襲来に限って言えば驚愕が最も強い感情だろう。
だが、「ジンメンが何故ここに?」というものではない。その思考に囚われ、数秒とはいえ固まってしまっていたアクアとは別の意味での驚愕だ。
そもそも転移魔法を扱える聖軍が敵という時点で『何故』という疑問は自ずと消える。
人や物を飛ばせるのだから魔物だって例外ではないと考えるのは妥当だろう。
しかし、聖軍がここまで思い切った策を使ってくると考えていた者は皆無だった筈だ。
それ故の驚愕。
ジンメンの襲来そのものではなく、聖軍のやり方に驚いていたのだ。
(確かにジンメンを先に飛ばせば必然的にこちらの戦力は減るし、町の奴等も半数以上は確実に死ぬ。自分達はその手間が省ける上に既にジンメンに滅ぼされていたという大義名分が出来、強行することが出来るある意味で最も合理的な手段……けど、だからってそこまでするか……?)
表向きは正義を騙っているくせに……と毒づきつつ、視界に入ったジンメンを縦一閃に斬りつける。
口のような穴や身体に該当するであろう部位の中から真っ赤に染まった何かが出てきたが気にせず切り捨て、後ろから噛み付いてきた一体を振り向き様に真っ二つにする。
――ゴゥエゴ、エッ!?
「ちぃっ……こいつもか……!」
それからどのジンメンを斬っても中から赤い液体と布地で包まれた肉片が出てくることに怒りを覚えつつ、再び屋根に上がって一息つくシキ。
「抵抗する冒険者が死に絶えた頃を見計らって突入してくるか、さも助けに来たかのように町の奴等を救うか……どっちにしろ腐ってやがるな、っと!」
地面から屋根まで首を伸ばして噛み付いてくるジンメンを斬り払い、距離をとりつつ、一番近くにあった時計の役割を果たしている鐘に乗り移る。
「……いや、救うってのはないか。あるとすれば……」
そのまま時計台の屋根へと上がったシキは遠目に町を囲う壁から次々と人が落ちているのを視認した。
火や水、土に風等、様々な属性魔法の輝きが見えることから交戦状態にあることが窺える。
「混乱に乗じての奇襲……挟み撃ちに近い形で――」
「――キャアアアアッ! あ、あなたぁっ!!?」
「……やられたな」
下から聞こえてきた悲鳴にチラリと目を向けつつ、今後の動きを決めていく。
「取り敢えず……」
頭から落下するように空中に身を投げ出し、タイミングを見計らって空中で一回転。その勢いを乗せて長剣を一閃した。
ザンッ! という轟音と共に地面もろとも斬れるジンメン。そして、その中きら嫌な音と色の液体を噴き出しながら出てくる人の上半身。シキの斬りつけにより、肩半ばから二つに分かれている若い男の死体だった。
シキは女性の悲鳴で気付いたが、今現在シキの後ろで腰を抜かしている女性の夫と思われる。
悲鳴に視線を向ければ視界に入ってきたのは人が喰われる瞬間と来た。
自身も喰われた経験がある為にシキとしては中々複雑な心境である。
「あ……ぁあ……な、た……っ! いやっ……いやああああっ!?」
現在進行形で発狂している若い女性に狙いを定めたのか、後ろから続々とジンメンが現れる。
あるいは建物の中から、あるいは広場から、あるいは上から降ってくる。
「見境なしかよ……おい、あんた。気持ちはわかるがさっさと逃げろ。死にたいのか」
「あぁ……ぁ、あ……か……はっ……」
右手に長剣、左手に短剣を構えながら注意を促したが、女性はあまりの現実に気を失ってしまったらしく、その場に倒れてしまった。
「チッ、なら勝手に死ね……っと、そうだ。良いこと思い付いた。どうせなら……」
連続する面倒事に苛立ちを募らせたシキはその女性の服を短剣を掴んだまま引っ張り上げると真上に投げた。
ふわりと数メートルは軽く飛んでいく無防備な身体。
それに吸い寄せられるかのように大量のジンメンの首が迫る。
余程人肉が好きなのか、ジンメンの首は完全に伸びきっており、真下から見ているシキからすれば良い的だった。
「ほら……よッ!! うしっ、当たった。悪ぃな、ちょいと身体借りたぜ」
目にも止まらぬ早さで放たれた爪斬撃と長剣による斬撃は見事、ジンメン達の首を直撃し、ボトボトとその先を落としてくる。
それらを軽く避けつつ、落下してきた女性をキャッチし、近くの建物に隠れていた住民に渡すと、直ぐ様屋根へ上がる。
「ジンメンが即死する胞子を出すのは知っているだろう。さっさと冒険者ギルドに逃げろ。冒険者の誰かが守ってくれる筈だ」
「なんだと!? お前冒険者だろ、守ってくれないのか!?」
「見てたぞ今の戦いっ! あんだけ強いんだから俺達を守るのも簡単だよな!? なっ!?」
「……こ、これ止めんかお前達ッ! 悪いね、あ、あんたはどうするんだい?」
恐らくただの民家であろう建物からはやたら強気な若者が二人、そして、老婆が一人出てきた。
若者達が護衛しろと勝手なことを宣った瞬間、ピクリと反応したシキに気付いた老婆は即座に若者二人の頭を殴り、話を進めた。
気絶しているとはいえ、人間を囮に使うような者を信用出来ないのだろう。
「あんたらに言う必要があるのか? 見てたんだろ? 人が喰われるのを指を咥えて。俺にはそんな奴等を守る義理もなければ義務もない。冒険者は慈善事業じゃないんだ。金があるんなら別だがな」
「なっ……か、金ならあるさ!」
「このっ、止めんかと言うとろうにっ!」
「ほう? 自分達三人の命分の金か。幾らだ?」
「っ。そ、それ、は…………」
「ハッ、生きてぇんならさっさと失せろ雑魚共」
いつかの自分を先程喰われていた人物に重ねてしまったらしいシキは数秒を無駄にしている自覚を持ちつつも毒を吐くと再び走り出す。
一方、シキの行動次第で自分達が死ぬかもしれないという状況なのにも関わらず、一切の躊躇いがない走りに三人は一瞬ポカンとするものの、置き去りにされたことに気が付くと慌てながら動き始めたのだった。
「たかが数秒、されど数秒ってか……本当に無駄なことしたな、我ながら」
視界に入るジンメン全て殺しながら壁へと辿り着いたシキだったが、加速の為に使った魔粒子ジェットで飛んでいる最中に上から何人かの冒険者が降ってきたことに少しだけ後悔していた。
首がなかったり、胴体に穴が空いていたり、燃えていたり、凍っていたりと死因は様々ではある。が、全て死体だった。先程の数秒のロスがなければギリギリ間に合ったのではないかと考えてしまうタイミングだ。
「ま、死人が出てるのに一言で済ます俺も俺だけどなっ……!」
壁の頂上に上がった瞬間、文字通り目と鼻の先まで迫っていた火の玉を長剣で斬り、後ろから迫る氷の刃をその場に伏せて躱す。
そうして見た壁の外は……まさに絶景だった。
白や黒などの色を除いた多種多様な魔力の光に包まれた幻想的な世界。
その下を巨大な盾を構えたプレートメイルの聖騎士達が一定のリズム、一定のスピード、一定の力で持って進んでくる。
「うわああああっ!」
「く、クソッ、奴等本当に攻めてきやがった!」
「何人殺られたと思ってるんだ! 魔法を使える奴は対抗して撃て! 盾にもなる!」
暴風雨のような魔法の嵐に続々と死人が出る中、生き残った冒険者達は魔法使いを集い、何とか抵抗を続けていた。
「馬鹿がっ! 一塊になったら的にしてくれと言っているような――」
「「「――ぐわああああっ!」」」
「言わんこっちゃねぇ……!」
固まっていた十数人の冒険者が纏めて町の方へと落下していくのを横目に迫り来る魔法を避け、斬り、弾き、門の方へと目を向ける。
そこにはシキの予想通り、武装した冒険者達が特攻していく姿があった。
「協力に連携……その重要性はわかってるだろうに何で……チッ、故郷がやられて冷静さを欠いてるのかっ」
壁の上に居たのではかえって的になると考えたシキは魔法の弾幕が薄くなるタイミングを見計らって飛び降り、魔粒子ジェットを使って特攻隊の元に向かう。
当然、薄いと言っても魔法は途切れないので多少のダメージは覚悟の上である。
(多分、あの様子だと中でジンメンが暴れてることを知らない……! ったく、ギルマス共は何やってるんだ!)
魔力量が全体の八割を切った頃。
特攻隊の真上に差し掛かった時だった。
「お前ら、町に戻っ――」
――ガキイイィンッ!!
未だ空中なのにも関わらず飛来してきた『風』の斬撃に阻まれ、予定していた場所から大きく外れた地点に着地してしまった。
咄嗟に長剣で防いだお陰でかなり耳障りな音が鳴り響いた筈だが、至るところで爆発や爆風が起きているからか、特攻隊達の耳には届かなかったようだ。
「ええいっ、こんな時にっ!」
「見つけぁあああああっ! へめぇらけは! へめぇらけはべっひゃいいおえあころふううっ!」
血走った目で突撃してくる者を確認したシキは思わず毒づきながら長剣を構えた。
「よふおよふおよふおよふおよふおよふおよふおこのおえはまにこんあきふをおおぉぉっ!!」
両手に短剣を携えた男――聖騎士バンは何か特殊な魔道具でも使っているのか、自由自在に宙を浮かび、凄まじい速度で迫っていた。
見れば踵や太股の裏、背中等、様々な部位に装着している開いた傘のような謎の物体から魔粒子らしき輝きを放つ何かが吹き出ている。
「魔粒子ジェット、だと……? 俺の技術を……くっ!」
――ガキィンッ!!
思わぬ移動方法に気を取られた次の瞬間、再び耳障りな金属音を撒き散らされた。
今度は斬撃ではなく、両の短剣を使っての攻撃だった。
それを長剣一本で受け止めているが魔粒子ジェットの勢いが強いのか、若干シキは押され気味だ。
「……顎を砕き、舌を切ってやったってのに元気、だなっ!」
「あのふぉきはになっひゃ! だひゃらそのおはえしにに来たんらよ!」
腐っても聖騎士だからか、バンは白い魔粒子を放出していた。
片やシキは紫色の魔粒子。
白と紫の輝きが螺旋を描きながら鍔迫り合いの形で強くなっていく。
「っ、ボロボロの身体でよく言うっ!」
「ほざへっ!」
呂律の回ってない舌もそうだが、見ればバンの顎や頭には包帯が巻かれたままだった。
それはつまりマナミに治してもらえなかったか、マナミに何かがあったということを示す。
「その馬鹿っぷりに再生者に治してもらえなかったのか!? お前のような奴が聖騎士とは笑わせるッ!」
「だあれっ! あのおんらはゆうひゃらへらうっれ れこんれるんら! おえのそほうははんへいへぇ!」
情報を引き出すには良いが、このまま鍔迫り合いを続けるのは魔力の無駄になると踏んだシキは背中の魔粒子ジェットの威力と自らの角度を調整することで長剣に掛ける力の向きを変え、バク転の要領で押してくるだけのバンを往なした。
が、直ぐ様、白い魔粒子ジェットで無理やり迫ってきたので斬り合うことで答える。
――ガキィンッ! ガキイィンッ! ガキイイィンッ!!
と、魔法が飛んでくる中、轟音を響かせながら互いの武器をぶつけあう。
(っ、こいつの魔粒子は何だってこんなに強いんだ……! 俺より魔法の素質があるにしたって、俺は異世界人なんだぞ!? それにっ)
少しずつ少しずつ加速していき、姿を追えなくなってきたバンに防戦一方になりつつも使い捨ての短剣を投げたり、砂の入った布袋をパンパンに張らせて作った砂爆弾を自分に当てることで牽制し、何とか均衡を保つシキ。
しかし、一際力の乗せられた攻撃に吹っ飛ばされ、地面へと落とされてしまった。
――ガキイイイイィンッ!! ズドオオォンッ!
轟音に次ぐ轟音。
落下時に角度を調整し、《金剛》スキルで衝撃を殺したので思ったほどのダメージはない。
土埃が立ち込める中、直ぐ様立ち上がり、思考を続ける。
(ライの奴、マナミを守りきれなかったのか! あのクソ勇者ッ!)
元来、シキは激情型の人間だ。
心の奥底は氷のように凍てついているものの、スキルに身を任せることで冷静でいられるだけで普段は感情に左右される。
現時点で言えばマナミに何かがあったという事実に確証を得てしまった為、少しだけ冷静さを欠いている。
加えて自分や他の異世界人以外の魔粒子の使い手が居ること、その相手が自分よりも強い魔粒子を使うことにもだ。
戦場において冷静な心は最も大切なものだ。
それは師であるジルから教わったことでもあり、これまで自身が強く痛感したことでもある。
だが、それでも。
「ほほっ、先走りおって山猿め」
「全くだ。これでは、ただでさえ足りない頭が余計に阿呆になるぞ? いや、もうなってるのか、なってるな」
「ソーシは相変わらずよのぉ! ほほほ!」
「はぁ……こやつらは本当に……。やれやれ、また会ったな鬼の子」
止まないどころか過激さを増しているように感じる魔法の嵐の中、バンを追ってきたらしい聖騎士ゥアイにソーシ、そして、盲目の老聖騎士、『炯眼』のレーセンの姿はその冷静さを失うほどの焦りを覚えても仕方がないと言えるだろう。




