魔族のクーマイルマ
普通に門から入って、王城敷地内にある、植物園に行ってみた。
まだ、ヴィヴィさんとウルスラさんは居るかな?
あ、居た。
なんか、庭師の人やら工事関係者やらがいっぱい居る。朝からずっとやってたんだろうか。
「ヴィヴィさーん!」
「あっ! ケイティーちゃん、ソピアちゃん、良い所へ来たわ。」
聞いてみると、巨大マンドレイクを移植するための穴を掘るのに苦労していたみたいだ。
そんなの、魔力で地面の土を引っこ抜けばいいじゃないと言ったら、深さ20ヤルトもある穴を掘れるのは、あなただけよと言われてしまった。あれ? そうなの?
「どの位なら出来るの?」
「そうねー、直径3で、深さも精々3が良い所かしら?」
「じゃあ、それを何回かやれば良いんじゃないの?」
「そうもいかないのよ、掘ってる傍から崩れてくるの。なので、人を集めて手掘りでやってるんだけど、穴の壁を保護しながら20も掘るとなると、結構日数もお金もかかっちゃうみたいで、困ってたのよ。早くしないとマンドレイクちゃん、枯れちゃうしー。」
マンドレイクちゃん、だと?
まあいいや、ツッコムのは止めておこう。
「じゃあ、地面を引き抜くから、皆避けてて、後そこ、土砂置く所もちょっと退いてて。」
私は、魔力にちょっと力を入れて、直径3、深さ20ヤルトの円筒形に地面を引き抜いた。
へー、地層こうなっているんだね。地層観察するの楽しいよね。え? 楽しくない? 私だけ?
引っこ抜いた土を横へ置くと、地層が崩れてしまった。あーあ。
「この穴の中に、マンドレイクちゃんを出して。」
「それがねー、重すぎて動かせなく成っちゃったの。土ごとだから、結構な重量があるのよー。」
「仕方ないなー、じゃあ、倉庫開いておいてね。私が取り出すから。」
ヴィヴィさんの倉庫から、よっこいしょーいちと、土付きマンドレイクちゃんを取り出す。
直径3、長さ20ヤルトの黒の原生林の地層が見える。
ふむふむ、なかなか興味深い。こっちの赤茶色の土と比べて、全体的に黒っぽい土なんだね。
それを、今開けた穴にそっと降ろす。
直径2ヤルト程もある、超巨大マンドレイクちゃんだ。
「直射日光に弱いので、直ぐに覆いを。それから、清流を再現するために、新鮮な冷たい水の流れる水路と、専用井戸の掘削。麻痺絶叫を防ぐための、二重の防音壁の建造。急いで!」
ウルスラさんが、テキパキと工事関係者に指示を出す。
少し離れた所で、工事の人に混じってヴィヴィさんが手招きをしている。
行ってみると、ここに井戸を掘って欲しいとの事。
直径1で、深さ50の穴を掘って欲しいというので、希望のサイズで地面から土を引き抜く。地層が楽しい。
「ソピア、あなたって本当に便利よね。」
「もう、運送屋でも土方でも、将来の職業には一切困らないよ。」
ヤレヤレだ。
一体何しに来たんだっけ。
あ、そうだ、王室御用達のお菓子だった!
ヴィヴィさんにエウリケートさんに持って行くお菓子を用意してもらい、ケイティーの首根っこを引っ掴んで、森の工事現場へ直行。あ、また門から出るのを忘れた。もう、いいか。
もう日も落ち掛けてるから、急ごう。
「ねえ、私も行く必要ある?」
「あるよ! 親友なんだから。一人じゃ寂しいじゃないか!」
ケイティー、ニヤニヤしている。頼られて嬉しいお年頃なんだろう。
「こんな時間に訪ねて行って、迷惑じゃないの?」
「大丈夫だよ。ドリュアデスは眠らないから。でも、私が眠くなるからちょっと急ごう。」
「ちょ、加速、ヤバイって! 中身出ちゃうから!」
加速も雑に、音速飛行で森の工事現場へ到着すると、エウリケートさんにお菓子を渡す。
「あらー、まあー、申し訳ないわねー。催促しちゃったみたいで。」
「しましたよね。」
「あら、おほほ。所で、さっき、魔族の女の子があなたを訪ねて来たのだけど、会ったかしら?」
「ん? いえ、会ってないけど。その子は?」
「ソピアなら、王都に住んでいるって教えてあげたら、そっちへ走っていったわ。」
「きっとあの子だ。名前なんて言ったっけ?」
「クーマイルマだよ。あなた、本当に人の名前覚えるの苦手ね。」
それにしても、私達が魔族の村を出たのが今日の早朝で、この工事現場はかなり黒の原生林側へ近づいているとはいえ、人間の足だと丸二日はかかりそうな距離だよ? 魔族の足は凄いな。
「って、感心している場合じゃない! 魔族が人間の町へなんて行ったら、大変な事になるよ!」
下手すりゃ戦争に成りかねない。早く見つけないと!
私達は、挨拶もそこそこに取って返す事に成った。
上空から、私は魔力サーチで、ケイティーは目視で探す。とはいえ、もう日も暮れ始めているので、見つかるかどうか……
私達は空中だから、最短距離を飛んでいるけど、下を走るなら一直線とは限らないよね。
人間に見つかる前になんとか見つけないと。
もっと低空飛行して、呼びかけてみる事にした。
「おーい! クーマイルマー。おーい!」
「クーマイルマー!」
この広い大森林の中で一人を探すのがこんなに大変だとは思わなかったよ。
「もっと、街の近くまで行ってみよう。おーい! クーマイルマー!!」
「しっ! ちょっと耳を澄ませてみて。」
「ぉーぃ……」
「おーい、女神様ー!」
「居た!!」
声で呼びかけたのは正解だった。魔族は耳が良いからね。
あぶなかったよ、マヴァーラの町まであと少しだった。
「だめじゃない! 一人で人間の世界に来ちゃ!」
「うう、ごめんなさい! でも、女神様がドリュアデスに挨拶したらまた会えるって仰ってたから。ああ、本当にこうして会えました。感激ですー!」
えええー、そういう解釈するかー。
でも、どうしよう。このまま追い返すのも可愛そうだし。
「村の人にはちゃんと言って出てきたのね?」
「はい、村の皆に女神様にお使えする旅に出ますと言ったら、快く送り出してくれました!」
はあーー、頭痛い。
「とりあえず、もう追い返せないので、屋敷に連れて行こうか。私は一晩貫徹しているのでもう眠いよ。」
「そうねー、私も。この事は明日考えましょう。」
私は、ケイティーとクーマイルマを持ち上げると、王都の屋敷へ向けて飛び立った。
クーマイルマは初フライトに感激していた。
本当は外郭門から入らないと怒られちゃうんだけど、魔族の子も居るしで、直接屋敷の玄関前に降り立った。
出迎えに来たメイド長は、魔族の女の子を見てちょっと驚いた顔をしたけど、態度には一切出さず、丁寧に扱ってくれた。
「メイド長さん、私は夕飯はいいや。お風呂に入って直ぐに寝ます。」
「じゃあ、私も要らないわ。」
「あたいは女神様のお体をお清めする役目を致します。」
「じゃあ、三人で入ろう。あと、自分の体は自分で洗いますので結構です。」
クーマイルマはしゅんとしていた。
この屋敷には、各客室に個人用のバスルームが付いているのだが、1階の調理場の隣には、大浴場が有るのだ。サウナとマッサージ室も完備しているぞ。ちょっとした健康ランドみたいな豪華さだ。
実は、三人でオフロに入ったのには理由が有るんだ。
多分、生まれてからこの方、一回もお風呂に入っていないであろうこの子、クーマイルマを丸洗いしてやろうという目論見です。
ケイティーと二人がかりでクーマの衣服を全部取り除き、頭からお湯をかけて石鹸を塗りたくる。魔族は半分毛皮なので、石鹸の消費量が半端ないです。てゆーか、全然泡が立たない。
「はわわ、あたい、こんなの初めてですー。」
だろうね! 2回流して3回目でやっと泡が立ち始めた。どんだけ汚れているんだこの子、と思ったんだけど、良く聞いてみると、風呂へ入らない代わりに小川で体を清めて、動物の油を体に塗る習慣があるみたいで、多分その油のせいで泡が立たなかったんだ。通りで獣臭いと思ったよ。
二人がかりで頭の角の先から足の爪の先まで綺麗に丸洗いして、湯船に浸かる頃にはへとへとになっていた。
そうそう、言い忘れていたのだけど、この世界では地球の日本みたいに湯船に浸かる習慣が有るんだよ。不思議だねー。
最初、茶色い肌の種族なのかと思っていたのだけど、それは油の色で、洗い流したら結構色白だよ。驚いたな。
風呂上がりに皆で食堂でハーブティーを飲んでいたら、ヴィヴィさんとウルスラさんが帰って来た。
「おかえりー。」
「ただいまー。あら、羊の獣人の子? あ、あらあら、よく見たらこの子って確か……」
「そうそう、魔族の村のクーマイルマだよ。」
「あらー、どうしちゃったの? すっかり可愛らしくなっちゃって。」
ヴィヴィさん達に、クーマイルマがここへ来た経緯を説明した。
「それで、これからどうしようかと思って。」
「んー……、そうねえ、あなたお歳はお幾つなのかしら?」
「あたい、14だよ。」
「衝撃の事実。私より年上か。」
「魔族は確か、数え年よ。」
年齢の数え方が、日本の昔の数え年と同じ方式なんだそうだ。
生まれて直ぐに1歳、その後は年を超す毎に1歳ずつ歳を取っていく方式で、誕生日という概念は無い。なので、年末近くに生まれて年を越すと、0歳児なのにいきなり2歳だ。年始め近くで生まれていれば、プラス1歳、年末近くの生まれだと、プラス2歳という事になってしまう。
--何で1から始まるのかと言うと、0の概念の無い文化もあるから説とか、物を数えるのに、1個2個と数える様に0から数えないので、年齢も1から数え始めているという説。諸説あります。--
「という事は、12か13ね。……そうねえ、マヴァーラのサントラム学園に入れましょうか。」
「おお、いい考え。学生の身分なら、公然とこの国に居ても不自然じゃない。」
「ちょっと待って、でもあそこは全寮制よ? この子が納得するかしら?」
「あたいは、女神様にお使えするためにここへ来ました。」
「ほらね、難しいんじゃない?」
さて、どうしよう。




