ケイティーの剣
「ちょっとまってくれ!」
ハンターズの建物を出ようとした時、走って声を掛けて来たのは、ロジャーとヘンリーだった。
「ん? どうしたの? 何か用?」
「い、いや、用という程じゃないんだが、お前の、その剣を見せてくれないか?」
「はあ?」
剣士は普通、他人に自分の武器を見せたり触らせたりなんかしない。奪われる危険があるし、自分の手の内を他人に晒す事に成りかねないからだ。
「いいよ、はい。」
「……」
ケイティーには後で小一時間説教だ。
もっとも、今ここで奪われたところで、私が捻り潰すだけだけどね。
ロジャーが剣を受け取って鞘から抜いてみると、銀色に美しく輝く刀身が現れた。
光を反射すると、僅かに青みがかっている様に見える。
刃先にそっと親指を添わせてみると、何の抵抗も無く指の腹に赤い筋が走って血が流れた。
「いっつ! いや、痛くない。痛くないのに切れたぞ。」
「すげえ、なんて切れ味なんだ。オークと戦った後だというのに、刃こぼれ一つしていない。」
こんな業物、何処で手に入れた、いくらするんだ、と矢継ぎ早に質問が飛んで来た。
「柄の所紋章を見てご覧?」
「!……ああ、この剣もか」
「そう、サントラム上級学府の以下同文。」
「そっか、じゃあ俺達じゃどう足掻いても……」
剣をケイティーに返して、がっくりという風に落ち込んでいた。才能さえ有れば誰にでも手に入る既成品。だけど、才能が無ければどんなに欲しくても手に入らない宝剣だからだ。
「でもさ、あなた達二人共、マヴァーラのサントラム学園の卒業生だよね?」
「お? 知ってたのか?」
「そりゃあ知ってるよ。サントラムのおバカコンビ。同期で知らない人なんて居ないでしょ。」
「そっか、俺達そんなに有名かー、あはは。……はーあ。」
「でも、あなた達だって割と順調にランクアップしてるじゃない。」
「そうなんだけどよー、試験でも見て分かる通り、俺達結構怪我して帰って来る事が多くてよう、なかなか金が貯まらないんだよな。」
「そうそう、みんな治療費や薬代に消えちまう。」
「もう少し、回避に重点を置いた立ち回りを身に着けたほうが良いよ。」
「攻撃は最大の防御って言うだろ? だから、お前のみたいな良い剣があればなーって思ったんだが……」
うーん、それはある意味は正しいけどね。攻撃に全ステふりして、防御力ゼロなんてしても駄目でしょう、普通。逆に、魔物相手だと、例えフルプレート着込んだ所で動きが遅くなるだけで、その防御を容易く突破してくる攻撃を受けるなんて日常茶飯事なんだから、それも意味は無いよね。防御よりは回避に力を入れた方が賢明だよね。
ケイティーは、割と臆病な方なんで、昔から回避は一流だったんだ。
「冒険者は、防御でも攻撃でもなく、回避な。」
「「回避かー。」」
そうだぞ、某モン○ターハンターだって、あれは攻撃ゲーじゃなくて、回避ゲーなんだぞ。(偏見
「ところで、あなた達は、魔力は全く無いの?」
「いや、全く無い人なんて稀だろ? 多かれ少なかれ誰だって魔力は持っているよ。」
「そうそう、それと、魔法を覚えられるセンスな。」
「……」
悪かったね、私だって最近赤玉と青玉は普通に使える様には成ったんだ。
「どの位使えるの?」
「魔力か? まあ、荷物をちょっと近くに引き寄せられる位かな。すぐに魔力切れ起こすから、殆ど無いも同然だけどな。」
私はケイティーと顔を見合わせた。
「だったら、半年後に出来るサントラム上級学校の魔導剣術科の試験は受けられるはずだよ。私の魔力も同じ位だもん。」
「「マジかよ!」」
「うん、マヴァーラの学校の卒業生は、受験資格が在るはずだよ。卒業すれば、この剣とか魔導倉庫の鍵なんかが貰えると聞いているよ。」
「マジか!! おー、なんか希望が出てきたぞ!」
「だから、無理して難しいクエスト受けないで、身の丈にあったクエストでコツコツお金を貯めておきなさい。学校に入れれば学費は無料なんだから。」
「そっかー、ありがとう! 良い事聞いた。恩に着るよ。」
ロジャーとヘンリーは、ハンターズへ戻って行った。
「あ、そうだ、ちょっとそこら辺で腹ごしらえして、王宮へ寄って行きたいんだけど、いい?」
「良いけど、王宮?」
「そうそう、巨大マンドレイクがちょっと気になるし、エウリケートさんにお菓子も持って行かないと。」
「なーるほど、了解。」
ハンターズの向かいにある御飯屋さんでパスタでも食べようと入ってみると、ギルド長が先に食べてた。
私達を見つけるやいなや、手招きしてこっちへ来いと誘う。
「おっさんと飯食っても美味しくない。」
「口の悪いガキだな。まあそう言うな、奢ってやるから。」
「そういう事なら話は別だ。」
まあ、目的は、ケイティーの剣について聞きたいんだろうね。
「なあ、お前の使っている剣の事なんだが。」
「やっぱりな!」
「お? なんだ? どうした?」
「さっき、外でロジャー達にも聞かれたばかりなんです。」
「まあそうか、やっぱり気になるよな。」
ケイティーは、鞘ごと外して、テーブルに置いた。
ケイティーさん、自分の得物をそんなにホイホイ他人に触らせるもんじゃありませんよ。
ギルド長は、剣を鞘から抜いて、眺めてみる。
「うーん、このブレードの鋭さは、一体……」
「これね、サントラム上級学校の……」
「それは知ってるよ。この柄の紋章はそれだろ? 卒業特典の魔導倉庫やら、飛行椅子やら、この剣やら、豪勢なこった。」
ギルド長は、ひとしきり眺めると、剣を鞘に戻して返してくれた。
「こういう性能の良い剣があれば、ハンターの事故率は下がるんだろうな、と考えていたんだよ。」
ほう、意外とハンター達の事を考えてくれていたのか。
てっきり、自分の所で販売して、利益をせしめようと考えて居るのかと。
「まあ、それも無いと言ったら嘘になるんだが、たとえ薄利だろうと販売して皆が持つ事が出来れば、それは良い事だろう?」
うーん、一理有る……のか?
「この剣は王都内で作られているんだろう? マヴァーラの町も怪しいんだが、鍛冶ギルドへ問い合わせてみたんだが、知らないと言われてしまってな。知っていて隠しているのか、本当に知らないのか……」
「私達は学園関係者に貰っただけで、何処で作っているとかいう所までは知らないんですよねー。」
「まあ、そうだよなー……」
嘘でーす。本当は知っているんだけどね。
あ、今の声に出てないよね?
『!--声に出てた?--!』
『--ううん、大丈夫。--』
「何処か外国から輸入しているという可能性もあるな。うーーむ……」
考え込んじゃったよ。
私達は、そそくさとパスタを平らげて、お暇する事にします。
「では、私達はここでドロンしますので。」
「え? あ、おう、すまんかったな。また試験の時には頼むよ。今度はギャラ出すぞ。」
「考えておきまーす。」
私達はお食事処を後にした。
お金貰っちゃったら、責任が付いちゃうじゃない。面倒臭いよ。よっぽど暇な時なら良いけどね。
自分かケイティーが試験を受ける時ならやってもいいかな。
私達は、王城へ入る為に通りを歩いていたが、ふと疑問が沸き起こった。
「王城へ入るのって、正門以外でも良いのかな?」
「そうだね、これだけ大きいのだから、他からも入れるんじゃない?」
よく見てみると、というか、よく見なくてもでっかい門が東西南北に有るんだけどね。
何時も飛んで入るので、門衛さんに怒られるんだ。今回はちゃんとした手続きで入ろうと思う。
なんかさ、中庭にも手続き出来る所を設けて欲しいよね。




