魔力についての考察
魔力とは……
私達がよく言っている魔力とは、どういうものかと説明すると、火とか氷とかの所謂属性の乗っていない、純粋な魔法力の事を言っている。
それは、見た目、単純な物を動かしたり操作するだけの力に見える。
実際、そんな認識で間違っては居ないけれど、実は、魔法のフィールドと言った方が適切かもしれない。
フィールド、つまり、場です。電場とか磁場とか重力場とかの『場』ね。
魔力は言うなれば、『魔力場』『魔場』って感じかも。
磁場や電場の中で偏りを作ってやったりすると、物を動かしたり閉じ込めたり出来る様に、魔力場の中でも色々出来るんです。
これって、地球で言う所の『念動力』、『サイコキネシス』と同じ物なのかも。
そう考えると、火炎魔法=パイロキネシスとかになるのかな?
だけど、『透視』、『予知』、『テレパシー』とか、超能力と魔法ではちょっと分類方法が違うみたい。
だけど、根幹の力については同じものなんじゃないかと睨んでいます。
まあ、どっちも不思議な力には違いないのだけど、超能力の方は、距離に関係無く力を発揮出来るイメージはあるよね。
無い? テレパシーとか、透視は距離に関係無く使えるイメージが有るんだけど、違うかな?
魔法の方は、以前にも言った様に、射程距離は200から300ヤルト程度。
これは、術者の出力の違いによって違うね。
私なんて、もっと届くもん。
多分、超能力の方の距離無制限なイメージは、昔の超能力捜索番組で、地球の裏から行方不明者を探したりするのを見たからかもしれない。
テレパシーとか透視みたいなのは、出力が微弱でも受信出来るおかげっていうのもあるのかも。
例えて言うなら、無線の短波と長波みたいな?
方や情報量は多く乗せられるけど、パワーの減衰が激しいので到達距離は短め。
方や到達距離は長大だけど、乗せられる情報量は少なめ、みたいな?
私の見解だけどね。
そう、魔力は距離の自乗に反比例する形でエネルギーが減衰するのだ。
魔力に限らず、あらゆるエネルギー、例えば音でも光でも磁力でも重力でも全部そう。
魔力だけが特別にこの法則から逃れられるというのは有り得ない。
点から放射され、空間に拡散してゆくエネルギーは、どんなものでも全て同じ。
じゃないと、学問として成り立たなくなるから。
こっちの人も、物を投げた時にそれが永遠に飛び続けないでやがて落ちる、つまり、到達距離がなんとなく存在する程度には認識していると思う。
魔法もなんとなくそんな感じだろうと漠然と知ってはいる。
所謂経験則ってやつだ。
それが学問体系になっていないだけなのだ。
リーダー格の少年が金貨の袋に手を伸ばして来た。
でも、彼の手は金貨には届かない。
伸ばした手が袋の1パルム程度の距離まで来ると止まる。
何度やっても止まる。
そう、私が阻力を放射しているからだ。
距離の自乗に反比例して減衰して行くのなら、逆に遠くから近づく場合には、幾何級数的に力が増大してゆくという事。
まるで、ふかふかのクッションを手で押して行くと、最初はとても柔らかく抵抗が小さいけれど、押し込む程に急激に抵抗感が増して行って、ある程度以上には押し込めなく成る、みたいな感じ?
「て、てめえ! 魔法使いだな!」
「魔法使い? あ、うん、そんな感じ。」
都市部ではそう呼ぶんだっけ、魔法って。
お師匠の所では、魔導って言ってるけど、どっちでもいいか、方言みたいなものだし。
呼び方がどうたらこうたらなんて、私はそんな事には拘らない女なのさ。
「てめえ! きたねーぞ!」
きたない……のか?
「その妙な力を引っ込めろよ!」
「私から取れたらやるって言ったんだけど? 抵抗しないなんて言ってないじゃない。」
「ちくしょー! そっちがその気ならなあ!」
あ、ナイフ構えちゃったよ。
ふりかぶってーの。
顔面! 女の子の顔に向かってナイフ突き出すとか、ないわ!
私は、そのナイフを止めると、右手を魔力で絞り上げた。
雑巾の様に。
バキバキバキバキ!!
「「あっ……」」
お師匠と私が同時にハモった。
「ぎゃああああああああ!!!」
絶叫が狭い路地に響く。
やっちまった。
手加減難しい。
「こら、手加減しろと言ったじゃろうが!」
「ごめんなさい! したつもりなんだよー。」
お師匠の拳骨が飛んできた。
普通に見たら、こっちが被害者なんだから理不尽に見えるかも知れないけれど、これだけ力の差が有ると弱い者いじめもいいところだから。
だってさ、バズーカ砲撃って怪我させないように気を付けろとか言われているみたいなもんだよ?
確かに、向こうの攻撃は私達には一切届かないんだから、止めてるだけで良かったんだとは思う。
でも、ナイフを目の前に突き出されて、咄嗟にやっちゃったんだ。
反省はしている。
少年の右腕は巨人に雑巾を絞られたみたいにグシャグシャで、関節も骨も粉微塵だろう。
筋肉も神経もずたずたになっているはず……
骨折した時の様に、変な形に折れ曲がっているというレベルではなく、柔らかい肉の塊をぶらーんと肘から先にぶら下げて居るみたいに垂れ下がっていた。
誰が見ても、もう取り返しのつかない怪我に見える。
その惨状を見て、逃げ出そうとした残りの二人の少年は、お師匠が路地の入り口を魔力の壁で塞いで逃げられない様に閉じ込めた。
次は自分達がやられると思ったのだろう、恐怖を目に浮かべている。
「こ、この腕じゃもう、俺はあいつ等を養ってやれねー……」
右腕を潰された少年は涙を流しながら静かに絶望していた。
自分の怪我を嘆いているのではなく、自分が養うべき他人を思って涙している。
もうこの腕は、回復魔法をかけようがどうしようが元通りには戻らないのを、はっきりと自覚しているのだろう。
今はアドレナリンが分泌されていて、痛みはそれ程感じては居ないが、すぐに死ぬより恐ろしい痛みが襲って来る筈だ。
おそらく、彼はその痛みに耐えられなくて、ショックで死んでしまうだろう。
でも、自分が死んでしまったら、あいつらの面倒は誰が見るんだ……そう他人の将来を悲観して絶望している。
悪い子じゃないのかもしれない。
私の顔目掛けて躊躇無くナイフを突き出したけどね。
ひょっとして、人間に何か恨みでもあるのかな?
早めに腕を切り落として回復魔法をかければ傷口は塞がって、不自由な体でも生きて行く事は出来るだろう。
でも、少年にはそんな怪我を治療出来る程のお金は持っていない。
持っていれば、こんな汚い仕事なんて端からしていないのだから。
こんな事をやっていたら、いつかはこんな事になるんじゃないか、なってもおかしくはないと思ってはいたのだろう。
私も、潰れた少年の右腕を見て、自分がやった事とはいえ、血の気が引いてしまった。
「少年よ、おまえさんは誰かを養っておったのか?」
お師匠が少年に事情を聞くと、少し間を置いてポツポツと話してくれた。
それによると、少年には幼い弟妹が居て、食うに困ってこんな事をしていたと言う。
親や既に無く、町外れの荒屋で同じ様な境遇の子供達で寄り集まって暮らしているそうだ。
少年はその中では最年長で15歳、後ろの二人もその内の年長組で同じく14歳と13歳だとのこと。
なんだ、私と同じ様な歳だったのか、獣人の歳は見かけじゃ判らないもんだな。
そんな事を思っていたら、お師匠が不思議そうに言った。
「お前達、何故王立サントラム学園へ行かなんだ?」
そう、王立サントラム学園は、大賢者ことうちのお師匠が作った孤児院が前身で、今では学問と魔法と剣術を成人年齢の15歳まで無料で教えて貰う事の出来る、全寮制の学校なのだ。
「行ったさ! 行ったけど門前払いされたんだ。俺達が獣人だからだ。それに、俺達獣人は魔法の才能ねーしよ……」
「才能なんて関係無いぞ。全ての人種の15歳未満の子供は等しく受け入れられるはずじゃ。」
「そんな事言ってもよぅ……現に俺等入れなかったんだぞ!」
それが原因か、人間に絶望しているのかもしれない。
お師匠は少し考え事をすると、少年の潰れた右腕にそっと手を添えると、あっという間に修復してしまった。
砕けた骨も断裂した筋肉も腱も血管も神経も全て元通りに繋ぎ合わされ、傷など最初から無かった様に元通りに完璧に治ってしまった。
細胞活性回復と修復復元のプロセスを一つの魔法で無詠唱で行う。
少年は、直った自分の腕をしげしげと見つめ、呆然としている。
「……これは……こんな事って、こんな事が出来るなんて、爺さんはまるで伝説の大賢者みた……」
途中まで言って、はっとした顔に成る。
こんな真似の出来る魔法の使い手なんて、この世に居る訳が無い。
いや、たった一人だけ居た。
どんな傷でも、体の欠損でさえ直してしまえる大魔導師が。
「お前達、済まんかった。このロルフ、この通り謝罪する。この金はお詫びの印として是非受け取って欲しい。それから、わしの事を信じてくれるなら、お前さん達の面倒を見ている子供達、いや、もしも他にも同じ境遇の子供を知っているのならその子等を全員集めて、明日の朝5の刻にサントラム学園の正門前に来て欲しい。」




