大惨事
「ふん、先手は与えてやるぞ。好きに攻撃してみろ。」
つまり、防御には自信が有るって事なのかな?
私は、倉庫からオグルを斃した時に使った鉄球を3個取り出すと、身体の周りを旋回させ始めた。
半径1ヤルトで秒55回転で音速を突破する。
パーン!
パーン!
パーン!
それぞれ、音速を突破した事を示す、ソニックブームが聞こえた。
音速で回転する鉄球を纏ったまま、おっさんの方へ歩いて行く.
当てやしないよ。一瞬でミンチになっちゃうからね。脅かすだけ。
ガガガン!!
お? このおっさんの展開した障壁かな? これ防ぐのか。割とビックリ。
おっさんは、見た事の無い形の障壁を展開していた。
他所の国では、その国なりに色々研究されているみたいだね。興味深いな。
「はっはっはっ! 驚いたか。俺は攻城兵器の投石機で打ち出された岩塊をも防いだ事もあるのだ!」
へー、凄いじゃん。
鉄球と衝突する面をよく観察してみると、6角形の小さなプレートが重なった感じの、鱗の様な多層構造の障壁みたいだ。
一部が破壊されても、すぐ後ろに控えているプレートが前に出てきて修復する仕組みだ。鮫の歯みたいだね。
これによって、全部が破壊されて再度張り直すよりも、魔力のコストが少なくて済むんじゃないかな。
でも、今の手応えなら、鉄球の速度を倍に上げたら突破出来る様な気もしなくはない。
同じ回転数で、半径を倍にするだけでいいのだから、こっちもそんなに魔力を使ってないんだよね。
もっと相手との距離があるなら、マッハ17のEML、通称レールガンで、簡単に貫通出来るだろうな。
でも、ここであれを展開するにはスペースが足らなそうだし……いや、物理攻撃で抜く事は出来ても、中の人が無事で済まないじゃないか。どのくらいの力加減で抜けるのかが分からないし、抜けた砲弾で中の人ぐちゃぐちゃだぞ。寸止めなんて出来るわけないし、どうしよう。
そんな事を考えていたら、攻撃しあぐねて困っているとでも思われたのか、挑発してきたよ。
「ほらほら! 攻撃して来ないなら、こっちから行くぞ!?」
あ、そうだ、物理は防ぐけど、魔法攻撃はどうなのかな?
私は、青玉を生成して投げつけてみた。
もちろん、中の人に当たらない様な位置にね。
青玉が障壁に当たった瞬間、薄ぼんやりと全体が光って見えた。コップを伏せたみたいな形のドームで身体を覆っている。
青玉も防がれたか、まあ、想定の範囲内。
さて、どうしよう……
「もう打つ手は無しか? なら今度はこちらから行くぞ。」
いや、出来る事が多すぎて、次に何をしようか考えていただけなんだけどね。
まあいいや、本当の戦争屋がどんな攻撃を仕掛けてくるのか、ちょっと興味が有るよ。
おっさんが集中して作り出したのは、赤玉。世間ではファイアーボールと呼ばれている熱系攻撃魔法だ。
結構プリミティブな魔法だけど、熱と相手に当たった時に炸裂するという、攻撃力が高い魔法だ。
でも私は、これを祖力で押し戻して、相手の鼻先で爆発させる事が出来る。
ハンター試験の時に試験官にやったのと同じに、赤玉を相手側に押し戻してやった。
赤玉は、相手の目の前で爆発したが、同時にそれも障壁で防がれた。
お? このおっさん、防御と攻撃を同時に展開出来るのか。意外と器用だぞ。
でも、流石に自分で生成した攻撃魔法を生成直後に押し戻されて、鼻先で爆発させられたのは初めての体験だったらしく、びっくりしていた。
赤玉なんて、魔法騎士団長の攻撃にしてはしょぼい気もするけど、手加減してくれてるのかな?
それとも、魔法騎士団というのは、王を守って敵の攻撃を防ぐ盾の役割をする、防御特化の部隊なのかもしれない。
だとすると、この異様なプライドの高さは頷けるかも。常に王の傍に控えていて、事が起これば自分の命を以って王を守る、王の一番近くで守っているナイトという自負。
昨日、私がその、地球で言う所の大統領のSPみたいな立場の人間を差し置いて、王様達に接近し、親しげに話し、手を取って飛行させてみせたのが気に食わなかったのかも知れない。
でも、そんなの私は知らないし。
外交官でも無いんだし。
ロイヤルな礼儀とか作法とか知らないよと予めことわってるし。
そっちの勝手なプライドで絡まれて迷惑しているのはこっちだし。
外国の使節に対して礼儀がなってないのは、向こうだし。
私、怒ってもいいよね?
だけど、どうやってこいつを凹ませてやろう。
こいつの障壁は、なかなか頑丈なんだよなー。
一撃必殺攻撃じゃなくて、連続的にダメージを与えられる様な何かで削って行ってやれば、魔力切れ起こすんじゃなかろうか。
そうだ、電撃で削ってやろう。
前にも言ったこと有ると思うんだけど、この世界では電気系の魔法が存在しない。
雷や稲妻は認識しているはずなのだけど、あれは天界の神的な何かが放っている、神通力的な何かと思われているんだよね。
だから、稲妻が電流だとはこの世界で知っている人は、お師匠とドリュアデスや森のエルフと魔族位のものかな。私が教えたしね。つまり、逆に言うとそれ以外の人達は全く知らない事実なのだ。
よし、その作戦で行こう。
持続的な魔法攻撃を与えてやれば、向こうも魔力を消費しながら障壁を維持しなければならないはず。
持続的な攻撃という点では、電撃攻撃はぴったりだ。
このおっさん、電撃も防ぐかな? 防げなければ良し、防いだとしても、お互いに魔力の削り合いに持ち込めるだろう。そうなれば、魔力量で私は誰にも負けない自信がある。このおっさんが途中でギブアップしてくれれば、怪我をさせずに勝てるぞ。他所の国の偉い人(偉そうな人?)をこてんぱんにやっつけちゃうのは、相手のプライド的にもこちらの外交的にも上手い方法ではないもんね。
私の頭の上に光り輝く円環が出現した。
ご存知、大電力を発生させる魔導リアクターだ。
私の頭の上に出現した天使の輪の様な円環を見て、おっさんは少したじろぐ。
何時の間にか増えていた、回廊のギャラリーからもどよめきが沸き起こった。
私は、地から浮かび上がり、地面との間を絶縁する。そして、地面をプラス、私の指の先をマイナスとする。
部屋の空間に巨大なコロナ放電現象を発生した。
近くに物体があれば、空間をイオン化させて一瞬で導電路を形成し、その物体へ向けて大電流の絶縁破壊が発生する。
私が前方に突き出した人差し指の先から数十万ボルトの電流が、中庭の壁、地面へ向けて、一斉に数十本、いや、数百の稲妻が放電を開始する。
私と対峙して突っ立っているおっさんは、地面から突き出た格好の放電目標だ。
電気はより近い所を目指して放電して行く。
空気という、絶縁体を突破して放電するわけだから、電流は最短距離を通ろう、より電気抵抗の少ないルートを通ろうとするわけだ。
おっさんは、私の放射した、見た事も無い攻撃に一瞬戸惑ったが、蛇の様にうねりながら伸びてくる放電電流を障壁で逸らす事には成功している様だ。
だけど、電撃に一撫でされた障壁の部分は一瞬で消し飛び、その穴を修復するために新しい障壁パーツが次々と生成される。魔力は湯水の如く消費されて行く事になる。
私の目論見通り。ニヤリ。
さーて、もっと出力を上げてみましょうかね。
その頃、ケイティーは、メイドさんに連れられて、宮廷魔術師長官の部屋を訪れていた。
長官のおばさんは、興奮して喋るケイティーの言葉を半分も理解できなかったが、傍に居たメイドさんが、何故か私と魔法騎士団長が中庭で対決している事を聞き出して青ざめた。
そりゃそうだよね、使節団との間に何かあったら、外交問題だもんね。
何を言っているのか分からないケイティーに引っ張られて、長官のおばさんが中庭で目にしたのは、異様な光景だった。
眩しい光に包まれた中庭の中心に、天使の輪を頭の上に輝かせた、空中に浮かぶ私。
そして、私から神の怒りとも思える無数の稲妻が、中庭に面した壁といい、柱といい、そして地面にも無数の蛇の様にうねりながら舐めていくのだから、知らない人にとっては恐怖以外の何物でも無いだろう。
そして、その雷蛇が通過して行った所は、有る所は熱により弾け飛び、ある所は溶けて冷え固まり、ガラス質と化している。
何者も中庭には立ち入れない、その地獄の様な雷の嵐が荒れ狂う空間の中に、魔法騎士団長が為す術も無く防戦一方で片膝を着いている。
彼の魔力が切れたら最後、強大な神の怒りは彼を消し炭に変えてしまうであろう。
宮廷魔術師長官のおばさんは、中庭に入る事も出来ず、石柱の陰で膝を着き、両の手を組み合わせて神に祈るポーズを取った。
「おお、女神よ、少女の姿にて顕現し、我が国に降臨されたのですね。」
ケイティーは、あまりの想定外の出来事に盆踊りみたいな変なポーズで固まっていた。
「どうか、愚かなる我が国民の罪をお許し下さい。どうか、そのお怒りをお鎮め下さい。」
おばさん長官、涙を流しながら祈っている。
ケイティーは、テレパシーで、私に話しかけてきた。
『--ちょっとー、なにやってるのよ。なんか、おかしな事になっちゃってるわよ?--』
『!--え? は? うっわ!--!』
ケイティーの方を見ると、その横で両膝を着いて涙を流しながら祈っているおばさん長官が居た。
そして、周囲を見回すと、回廊中同じ様に膝を着いて祈っている者、ひれ伏して祈る者、腰を抜かしている者達だらけだった。
あっちゃー! やっちまったー!。
『!--どどど、どうしようケイティー。--!』
『--知らないわよ。もう、私、逃げ出したいんだけど?--』
『!--そうだ! 女神に乗り移られていたって事にするから、口裏合わせて!--!』
『--あー、はいはい。私達、ただお風呂に入りたかっただけなのに。--』
私達は、テレパシーの内緒話で口裏を合わせると、すぐに行動に移した。
私は、徐々に電撃を弱めると発光現象も徐々に消え、放電を停止し、頭の上の魔導リアクターを消し、ゆっくりと地面に降り立つと、ふっと気を失った振りをして崩れ落ちるようにその場に倒れた。
ケイティーは、すぐに私に走り寄り、抱き起こしながら
「おお、女神様は、愚かな私達に忠告を与え、天に帰られたのだ。」
「「「「「「「「「「おおおおおおおお!」」」」」」」」」」
三文芝居である。
猿芝居である。
魔法騎士団長のおっさんは、魔力を使い果たし、立ち上がる事も出来ない様だ。
薄目を開けて見回すと、中庭の美しい景観は大惨事になっていた。
地面は、所々溶けて冷え固まった様になり、あちこちにクレーターも出来ている。壁や柱も爆発して欠けたり焦げたりしている。
柱の上のアーチや天使等の高そうな彫刻もかなり傷んでいる。
一体、これの修繕費いくらかかるんだよ。
あーあ、しーらないっと。全部おっさんに罪を被ってもらおう。
『!--ケイティー、芝居くっさい。--!』
『--うっさいわ!--』




