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魔法対決

 人が乗っているので、重力加速度と同じ9.8メートル毎秒毎秒程度の加速で徐々にスピードを上げていく。

 凡そ35秒後に音速に到達した。

 面白いもので、加速中は加速度のベクトル方向が後方斜め下に成るので、三半規管が前方斜め上が真上だと錯覚するため、地面がせり上がってくる様に見えてしまう。

 飛行機と違って、回り中不透明の殻に囲まれているわけではなく、素通しで360度回りが見えてしまうのは、飛行に成れている私とケイティー以外はちょっと怖かったかもしれない。

 それらの体験を楽しめる者が居る反面、酔ってしまう者も居る訳で、音速に到達して巡航するまではちょっとしたパニックに陥っていた者をケイティーがしっかり付き添ってケアしていた。

 平気な顔をしていた者は、食い入る様に景色を眺めていたが、結構な高度を飛んでいるので、地面を見てもそれ程速度は感じなかったかもしれない。


 音速で飛行すると、40分程度で800キロ離れた隣の国の王都へ到着する予定なのだが……



 「あ、入国手続きがあるので、必ず王都の外郭門の外で降りてくださいね。」



 ヤバかった。指摘されなければいつもの癖で、王城の門前まで行ってしまいそうなった。

 外国の使節が、入国手続もしないで国内に侵入したとなると、重大な外交問題に成るところだった。


 空から近づいてくる私達を見た門の衛兵は、武器を構えて待ち構えていたのだが、使節団だとわかると目を丸くしていた。

 私の飛行術だと使節団長が説明すると、手続きの間ひっきりなしにいろんな人に穴が空く程観察されてしまった。



 「お城まで飛んでいきます?」


 「いや、歩きましょう。あなた達も外国の風景は珍しいでしょう?」



 確かにそうだ。外国の町並みは実に興味深い。

 建物のデザインが、国ごとに特徴があって、結構違うんだよね。石畳の石の敷き方一つ建物の石の詰み方一つ取っても何か違うんだ。見ていて飽きない。



 「隣の国まで半刻もかからないとは、誠に驚きを隠せません。これからはそういう時代に成ってゆくのでしょうか。」


 「かもしれぬなあ……」



 町並みを過ぎて、公園に入ったと思ったら、それは王城のメインストリートだった。驚く程の道幅だ。

 綺麗に刈り込まれた低木が、この国の人達の規律の高さを何と無く伺わせた。


 王城前の城門で、再度入城手続き。

 先行して書簡を送ってあり、門の衛兵には連絡済みだったらしく、スムーズに入る事が出来た。

 ここで私とケイティーは応接室でお留守番。謁見とか文書の調印とかは、使節団のお仕事だから、倉庫から必要な物を出して渡して、機長とCAはお留守番。


 ……かと思ってお菓子を頬張りながら、だらしなく寛いでいたら、なんか偉い人が走って呼びに来た。

 なんでも、飛行術の使い手に会いたい、挨拶したい、と王様に命令されたんだって。

 んー、まあ、しょうがないか。



 「私、貴族じゃないから、マナーとか礼儀とか全然わからないよ。」


 「私もー……」


 「はっはっは、ご心配無用、国王はフランクな方ですので、特にご無礼が無い限り、滅多にお怒りにはなりませんから。」



 その、偉い人のご無礼のボーダーラインが分からないから怖いんだよなー……。

 そんな心配をしているうちに、謁見の間に引っ張り出されてしまった。

 カチコチに固まってぎこちなく歩いていたら、使節団長に紹介された。



 「こちらのソピアが、飛行術の使い手です。我が国との王都間を、僅か半刻にも満たない時間で飛び運んで参りました。」



 なんだよ、使い手って。『だがその実力は日本で二番目だ』とか言われちゃうのか?



 「あのぅ、妾とここで飛んでみて頂くことは可能ですか?」


 「いいですよー。屋内なので、浮かんでみるくらいなら。」



 話しかけて来たのは王妃様。いいですよと言ったら前に出てきたのは、私と同じくらいの王子様と幼い王女様を連れた、3人。

 王様を見たら、ちょっとそわそわしていたので、王様も飛んでみますか? と聞いたら、嬉しそうに出てきた。

 ここは天井も高いから、気をつければ大丈夫かな?

 使節団の人は、相手国の国王夫妻と王子王女に何かあったら斬首ものだとヒヤヒヤした顔で見ている。だけど、王たってのお願いなので、断る事も出来ずにソワソワ。お前ら止めろよと侍従長や大臣連中を見るが、全員ワクワクした目で見てて、うちの使節団だけが頭を抱えてしまっている。



 「じゃあ、浮かびますよー。怖かったら言ってくださいね。」


 「はーい。」



 良い返事だよ。本当にフランクな人なんだな。

 王様、お妃様、王子様、王女様の4人をそっと浮かせ、私も一緒に皆の背の高さの倍位の高さをゆっくりと飛行して、大広間を1周して元の場所へそっと降りた。

 お妃様と子供達が手を取り合ってキャッキャ喜んでいた。



 「いやー、無理を言って済まなかった。結構スリルがあるものだな。得難い経験だった。」



 髭面でよく分からなかったけど、この王様、結構若いのかな? 30代前半と見た。王妃様も、子供の歳から見ると、かなり若いのかも。20代後半ってとこなのかな。


 今回の外交文書は、両国の技術交換が目的だったみたいで、うちの国が保有している魔導倉庫や飛行椅子の販売なんかも含まれていたみたい。結構、戦略物資的にも価値が有るみたいね。って、やっぱり戦争の道具に使われちゃうのかー……

 魔導倉庫もケイティーが大量の貢物を取り出して見せて、その鍵を見せろとかどういう仕組なのかと取り囲まれていた。でも、ケイティーは魔導師じゃないし、術式は知らないから答えられないんだよね。

 そこがまた、魔導師じゃなくても扱えるという点で、相手の目の色が変わった訳なんだけどもね。

 お土産品の中に、飛行椅子の量産型のサンプルもあったみたいで、それもお披露目してみせたのだけど、こちらの国では太陽石のチャージをどうするのだろう。


 ん? ここまで事が進んで、ふと気が付いたのだけど、これって、私達が来る事が前提の使節団だったのでは?



 「ちくしょー、ヴィヴィさんに謀られた!」


 『--おーほほほほほほ、ごめんねー、ソピアちゃん。--』



 くっそー。どのへんから転がされてたんだ?



 『--依頼書のあたりからよー。--』


 『!!!!!--帰ったらとっちめる!--!!!!!』


 『--ぎゃあああ! うるさいー。ごめんなさいー。--』



 【ソピアは、どんなに離れていても耳を塞いでも避けられない騒音攻撃を手に入れた。】

 出所の怪しい依頼がどうのこうの怒ってたくせに、ほんとうにもう!



 『--ごめんなさーい。もうしませーん。--』



 ゆるさない、絶対。そのうち落とし前を着ける。



 今日は夜遅くまで歓迎晩餐会が開かれ、豪華な食事が出された。

 食事の後は、こちらの宮廷魔術師達に取り囲まれ、色々と質問攻めにあった。



 「あの飛行魔法は、我々でも習得は可能なのでしょうか?」


 「んー……、才能に寄るとしか……。うちの国でも、これが出来るのはお師匠のロルフと、宮廷魔導師筆頭のヴィヴィと、私だけだから。」


 「なんと! 大賢者ロルフ様のお弟子様でしたか! 成る程成る程。それとヴィヴィ様ですね。さもありなん。」


 「魔法工学関係は、隣国でありながら既に数十年という開きが存在しています。願わくば、魔法の勉強の為に留学生を派遣したいと考えております。」



 最後のは、こちらの宮廷魔術師長官を務めている、おばさんの言葉で、ヴィヴィさんよりも結構年上に見えた。

 それにしても、お師匠って、外国でも超有名人なんだねー。



 『!--ヴィヴィさん、こっちの魔術師長官の人が、魔法の勉強の為に留学生を送りたいんだって--!』


 『--オッケー、オッケー。では、その事を使節団団長に伝えて置いてくれるー?--』



 私は、今ヴィヴィさんと話した事を、団長に伝えた。明日正式な条約の内容について詰めるから、その時に相手と話してみるって。

 そういう事になったと魔術師長官に伝えたら、そちらの国では遠隔地同士で話も出来るのかと、目をまん丸にして驚いていた。

 これは、冗談ではなく本気で考えなければいけないと、どこかへ走って行ってしまった。


 考えてみたらというか、私がのほほんとしすぎていただけなんだろうけど、武器、食料、水等を無制限に運ぶことの出来る、魔導倉庫。峠や川等の進軍困難地形を容易に突破出来る、飛行魔導。戦線の状況を逐一把握できる魔導通信。どれを取ってもヤバ過ぎる技術ばかりなのよね。

 ヴィヴィさんは、これらの技術の販売を餌に、同盟国を増やしてゆくつもりなんだろうな。

 技術の中心に成る魔導式は、ブラックボックス化して同盟国にだけ販売。戦略的に重要な国にだけ、ライセンスを許可って感じで。ちょっと怪しい国には、ダウングレード版を高値で売りつけるとかね。技術を小出しにして、長く稼ぐつもりなんだきっと。ああ、地球とおんなじだー。

 黒い、黒いわー、あのおばさん。


 やっと開放されたのは、いつもならとっくに寝ている時間で、私達は王宮内で提供された各自の部屋に戻った瞬間、風呂にも入らずにバタンキューだった。








 朝目を覚ますと知らない天蓋……、うん、ここは外国だったね。

 日はとうにかなり高く成っている。


 昨日の晩、ヘトヘトでお風呂にも入らないで寝ちゃったので、お風呂に入ろうとあちこちのドアを開けてみるけど、バスルームが見当たらない。部屋を出て、隣のケイティーの部屋のドアをノックしてみる。

 ドアがガチャっと開いて、頭ボサボサでネグリジェのまま枕を抱えてボーッとした顔のケイティーが出てきた。

 聞いてみたけど、こっちの部屋にもバスルームは付いていないとの事。

 廊下を二人で、寝ぼけ眼でフラフラ歩いていたら、メイドさんが走り寄って来たので、お風呂に入りたい旨を告げると、ちょっと考え込んでしまった。詳しく聞くと、こちらではお風呂に入る習慣が無いとの事だった。お湯で体を拭く程度なんだって。えーー、マジかーー。

 水はかなり貴重なので、飲料にする以外に体を洗うだけで捨ててしまうなんて以ての外らしい。うーん、言われてみればそうなのかもねー。

 魔導師に水を出してもらってお湯に出来ないのか聞いてみると、貴族以外そんな贅沢には預かれないと、手をブンブン振られてしまった。


 うちの国は特別に水が潤沢だし、魔導師は水生成をまず最初に教え込まれるみたいだから、どこも水には困っていない。

 だけど、こっちの国では事情が違うのかもね。

 サントラム学園みたいに、幼い頃から基礎的な学問を国民全般に教える仕組みも出来ていないみたいだし、魔法を使える者は、とっても貴重なんだろうな。


 一旦お風呂に入りに国に帰ってもいいかと聞いた所、待って、待ってください! 私が怒られますと強く引き止められ、宮廷魔術師に取り次いでくれるとの事で、なんか偉そうなオジサンの所へ連れて行かれた。


 彼は、宮廷魔法騎士団の団長。

 宮廷魔術師のおじさんは、使節団のガキが我儘言いやがって、みたいな顔をしたけど、昨日のおばさんの所へ案内してくれるというので後を付いて行った。




 ……けど、ここは何処だ?

 柱と回廊に囲まれた、中庭?


 あー、そういう事か。私は朝っぱらからげんなりした。



 「俺はな、お前みたいな小娘が偉そうにしているのが気に食わねーんだよ。」



 何処にでも居るよね、こういう輩は。

 別に偉そうにした覚えなんて全然無いんだけどな。

 幼気な少女にからんでいる、でかいおっさんの絵面えづらは、事案発生だぞ。



 「それで?」


 「俺と魔法で勝負しろ。」


 「だめーーーーーー!!!!!!!」



 ケイティーが絶叫した。

 うーん、ケイティーはよっぽど黒玉がトラウマに成ってるみたいだね。

 女性の甲高い叫び声を聞きつけて、何事かと足を止めてこっちを覗いている人が居るじゃないか。恥ずかしい。

 黒玉は使わないよ。それならいいでしょ?

 私がそう言うと、ケイティーは先程のメイドさんの手を引いて、何処かへ走って行ってしまった。




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★★★新作書き始めました。★★★
 ⇒ 私、魔女はじめちゃいました。





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