古代遺跡
こういうのは、京介の方の記憶にあるテレビで見たことが有る。首都圏外郭放水路の巨大立坑に似ている。ただ、底が見えないので、横穴があるのかは不明だけど。
多分、京介が一般的日本人なのでそう思っただけで、地下鉄なんかの工事関係者なら巨大な排気筒と思ったかもしれないし、アメリカの軍関係者なら、ミサイルの地下サイロと思ったかもしれない。
立坑の壁面を見ると、所々に横穴らしきものが見えるので、結構規模の大きな施設の様に見える。
私達は、下に降りて見る前に一旦引き返して、左の通路へ進んで見る事にした。
何故下に降りなかったのかというと、目的はマッピングだから。
話し合って、同じレベルの階層毎にマップを完成させて行こうという事になったのだ。
これがゲームなら、ずんずん先へ進んじゃうんだけどね。通路の先がどれだけの広がりに成っているのか解らないので、手前側から確実にマップを埋めていく方式にしたんだ。
左の通路を進んで行くと、割りと直ぐに結構広い部屋に出た。
左の通路は、元来た道から見ると、5つ刻(10時)方向へ伸びている。つまり、ここの分岐点は、120度ずつに別れた分岐点で、どの通路側から見ても、それぞれ左右に60度に別れた2又に見える。目印が全く無いので、どの通路から来たのかをちゃんと把握していないと、方向が分からなくなるので要注意だ。
左の通路を行くと、最初の時の様に、左に折れたり右に折れたりしながら、Y時型の分岐点に出る。
右へ行くと、同様に数回折れ曲がって分岐点、戻って左に行っても、全く同じ様に数回折れ曲がって分岐点に行き当たる。
「やばい、マップ付けてないと確実に現在位置を見失うやつだ。」
此処で話し合って、分岐に行き当たったら、左へ進む事にしようと決めた。
「ああ、間違い無いわ、これ。確実に人工物。通路も正確に半刻(30度)単位で曲がるように作られているから。」
「でもね、蜂なんかも巣を6角形に作るんだよ。一つの角の角度は2刻(120度)、巨大な蜂型の生物の巣という可能性もゼロではないよ。」
「だとすると、とっくに放棄された巣穴なのかなー……」
何度めかの分岐を進んで行くと、急に開けた部屋に出た。
私は、直感で人工物だろうなと感じた。別に、あからさまな工業製品的な人工物が在るという訳ではないのだけど、六角形の石柱が立ち並んでいるのだ。
柱状節理という物は世界中に在って、外国だとイギリスのジャイアンツ・コーズウェイが有名。日本にも有って、福井県の東尋坊とかが有名。昔の人は綺麗に立ち並んだ六角柱は、古代人の遺跡だと思われていた事もあるのだけど、あれは溶岩の冷えて固まった玄武岩だ。形だけならそれらに似ている。
だけど、此処に在るのは違う。透明なんだ。そう、水晶の結晶みたいな物が、大きいものは十数ヤルト、小さい物でも子供の腕位の大きさがある。
クリスタルの洞窟というのが在る。
メキシコのナイカ鉱山には、水晶の様な形の六方晶系の巨大結晶が林立する場所がある。透明石膏の結晶で、最も大きな結晶は長さ11メートル、直径4メートル、重さ55トンもあるそうだ。だけどそこは、温度55度、湿度100%にもなり、特殊な装備を着けた人でも長時間は滞在出来ないという。
だけど、ここの気温は涼しい。というか、少々肌寒い位で、しかも結晶柱は整然と並んでいる様に見える。印象なんだけど、何かの法則に従って配置されているかの様に感じられるのだ。ナイカ鉱山のクリスタルの洞窟の結晶が、それぞれ出鱈目な方向に伸びているのとは、そこが違う。
ここのは例えるなら……そうだ、映画でいうと、青い全身タイツに赤パンツ赤マント赤ブーツの某超人の、南極秘密基地みたいな?
私は、皆に続いてその部屋に一歩踏み込もうとして、足を止めた。
なんか、嫌な感覚があったから。
「どうしたのです? 何故入って来ないのですか?」
アクセルが振り返って、不思議そうに聞いてきた。
「うーん、……ここの通路と部屋との間に、何かフィールドの壁みたいな物が在るのを感じるんだよね。」
「どうしたと言うんだ。早くこっちに来て、仕事を続けて下さい。」
「ちょっと待って、ここ、あの渓谷と同じ様な感じがする!」
ケイティーが気が付いたみたいで、私が入って来るのを止めようとしたのだけど、止める間も無くアクセルが私の腕を掴み、ぐいっと部屋の中へ引き入れてしまった。
「……!!」
フィールドの壁を越えた途端に、全身から力が抜けて行く感覚に襲われ、私はその場にへたり込んでしまった。
部屋の結晶柱は、私を中心に同心円状に光を放ってゆく。
「これ……、は、太陽石……、の、結晶。」
「なんて事! ソピア! 今外に連れ出してあげるからね!」
ケイティーが駆け寄って来て、私を抱き起こした。
「はは、はははは、凄い! 凄いぞ! 渓谷の太陽石を一晩でフルチャージした魔導師が居ると聞いて調べたら、こんな小娘だったのには驚いたが、まさかこれ程の魔力量を持っているとは!」
「アクセル! あなた一体何を言っているの!? ソピア!!」
私を抱き上げて両手の塞がっているケイティーの後ろへ音も無く近寄ったアクセルの手が、無防備なケイティーの首筋へ触れた。
崩れ落ちるケイティーを、私は遠退く意識の中でスローモーションの様に見ていた。そして、高笑いをするアクセルの顔…………そこで私の意識は途切れた。
漫画やドラマでよくある、首筋に手刀を叩き込んで気絶させるというのは、現実では無い。気絶させる程の力で首を叩けば、頚椎を損傷して、身体不随にしてしまうか下手をしたら殺してしまうからだ。アクセルがやったのは、魔力を神経系に直接流して瞬間的に過負荷を与え、正常な回路をオーバーフローさせてしまうものだった。脳がその信号を本物の危険信号と誤認して、安全装置が作動してシャットダウンしてしまう。つまり、気を失わせてしまうというものだった。
………………
…………
……
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「ソピアとケイティーを一昨日から見かけないが、なにか聞いておるか?」
「確か、調査クエストに何処かの洞窟へ行くと言っていたと思いましたが……、あの子達なら、どんなに遠くても、ひとっ飛びで行き来出来るのでしょうし、ちょっと遅い気がしますわね……」
「また危険な目にあってたりしないだろうな。」
「いくらなんでも、そんな立て続けに……後で、ハンターズへ寄って聞いて来ますわ。」
普通の冒険者なら、2日位戻らない程度はよくある事で、クエストによっては10日以上戻らない事だって日常茶飯事だ。
徒歩が通常の移動手段のこの世界では、日の登る前に出発して、日が暮れるまで歩くと仮定して、途中の休憩を差し引いて凡そ歩行時間は10時間前後、一日の移動距離は、30キロから40キロ程度だと考えられる。
実際、日本の江戸時代あたりの旅人の一日の歩行距離はその位で、宿場町は、その中に4つから5つ程度入る位の間隔で設置されていた様だ。東海道五拾三次で言えば、凡そ2里(8キロメートル)間隔で宿場町が在った。うっかり一つの宿場町を通り過ぎて日が暮れてしまっても、次の宿場町まで安全に辿り着ける距離だ。
この世界の人間も、重い荷物や武器を持っての移動は、それより短くなる事がありこそすれ、伸びる事は無いだろう。
しかし、ソピアとケイティーに関しては、飛行移動が可能で、ケイティーの魔道具に速度を合わせたとしても、時速400キロ前後は出るわけで、1つ刻(凡そ2時間)も飛べば800キロ。この世界の国のスケールでは、優に一つの国を飛び越えて、その向こう側の国の領土に入ってしまう距離だ。その国のクエストに出る距離の移動であれば、その国内に限られる訳で、多く見積もっても最長で400キロを越える事は無い。ケイティーとソピアの飛行速度ならば、たった半刻(1時間)の距離でしか無いのだ。狩場でキャンプをせずに飛んで帰って屋敷で食事をしてベッドで眠り、再び朝に飛んで行ってクエストの続きをするという事だって可能なわけで、2日も家を開けるという事は少し考え辛い。ロルフとヴィヴィが不審がるには十分な時間と言えるだろう。
「ハンターズのギルド長に会って、話を聞いて来ましたわ。」
「どうじゃった?」
「一人前のハンターが、たった2日家を空けただけで大騒ぎするなと叱られましたわ。でも、依頼の詳細については守秘義務があるが、ボードに張り出された情報程度なら教える事は出来ると言うので、聞いてきました。」
「だろうな、簡単な依頼でそう何度も行方不明に成っていては、ハンターとしての資質に問題有りとしか思えんからな。」
「過保護な親扱いされてしまいましたわ。」
「まあ、それは良い。して、クエストの内容は?」
「それが、北の山脈で発見された洞窟の調査依頼との事です。マウラー山脈のカーツェ山だという所までは教えて貰えました。」
「ふむ、直線距離にして190リグル(300キロ)という所かのう。あの子達なら半刻も掛からんじゃろう。」
そう、片道45分程度の距離ならば、現地で野営しなくても飛んで寝に帰って来る事が可能なのだ。
なのに、2日も家を開ける理由とは? 2人とも、ハンターとして未熟なのは事実なのだから、何かしらのトラブルに巻き込まれた可能性も無きにしもあらずと危惧するのも止むを得ないだろう。
「少し気になる話を小耳に挟みましたわ。北門を出たのは3人、学者風の男が一人同行したそうです。」
そして、鉱山管理者からは、マウラー山脈の奥地に洞窟が発見されたという話は聞いた事が無いという話だった。
王宮地理院でも、そんな洞窟の話は初耳だという。そもそも、あの山脈は険しくて、カーツェまでは熟練のロッククライミングの登山経験者でないと辿り着けないという。それこそ、飛んで行きでもしないと行くのは無理という話だ。
「では、低ランクの調査依頼としてハンターズの掲示板に有った理由は?」
「そこなんですよねー、まるであの子達の飛行能力ありきの依頼としか……」
「あの子達を狙う理由とは? 飛行術? 魔導倉庫? ……いや、そんな物は、拉致して奪える様な物では無いし、奪った所で他人には使えないからのう。では、他に何が目的として考えられるじゃろうか?」
「あの子達のお金? それとも身代金目当てかしら?」
「あいつらがそんなに簡単に拉致されるとは、考え難いがのう……」
「行ってみましょう!」
音速飛行なら、約300キロメートルの距離など、僅か10分程度なのだ。
カーツェの上ををゆっくり飛行していると、ヴィヴィが山頂付近に竪穴が開いている事に気が付いた。
「おぬし、目が良いのう。わしは全く見えんかったぞ。」
「ちょっと、あの穴へ降りてみましょう。」
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ケイティーが目を覚ますと、腕は後ろに縛られ、足も縛られて結晶の部屋の床に転がされていた。
「これは……!! アクセル! あなた! 何でこんな事をするの!」
「おや、やっと目を覚ましましたね。丸一日眠っていたので、死んでしまったのかと心配しましたよ。」
「丸一日!? はっ! ソピア、ソピアはどこ!?」
「心配しなくても、危害は加えていないよ。君の所からはちょっと死角になっているかもしれないけど、僕の目の前で寝ているだけだから。」
ケイティーがなんとか身体を起こすと、部屋の丁度中央にある、白い巨大な円形のテーブルの上にソピアは仰向けに寝かされているのが見えた。
「彼女の健康面はきちんと管理して差し上げますよ。この施設の大事なエネルギー炉代わりなのですから。これから永遠にね。」
「あなただって魔導使うでしょう? 何故平気な顔をしていられるのよ!」
「僕はね、本当は魔導は使えないんですよ。僕が簡単な魔法を使える理由はね……」
鞄から小さな太陽石の結晶の入ったカプセルを出して見せた。
「ライトの魔導式を書き込んであるこれと、ヒールの魔導式の書き込んであるこれを使っているから。魔力量的には君と同じ位なんじゃないかなー。」
話が噛み合っていない。
ケイティーは、魔導を使う者として、マナを勝手に奪われる事をどう思っているのかを聞いているのに、この男はどうやってここで魔導を使うことが出来たのか、その方法を自慢げに話している。
人としての普通の感覚が全く共有出来ていない、何かしら気味の悪さを感じ取っていた。
「ほら! 見て見て、凄いよあの子! 無限に魔力が湧き出してくる。この部屋の太陽石の結晶がもう60%はチャージされちゃってるよ。結晶は鉱石と比べて28倍は容量が有ると言うのに、本当に凄い!」
アクセルが何かを操作すると、ホログラム映像が何も無い空間に浮かび上がった。
銀河宇宙の映像から、恒星の映像に寄り、引くと恒星系の映像となり、その内の一つの青い星に寄ると、どんどん拡大されて行き、都市の衛生画像から、町並みの様子へ、そして人の目線レベルへと降りてくる。
街の景色は、天を突く様な超高層の摩天楼が立ち並ぶ景色。空には大小様々な飛行物体。空に浮かぶ島とその上に建つお城。人々の服装は、見たことも無い色彩とデザインで彩られている。何より驚くのは、その人の数だ。王都の祭りでもこんなに大勢の人は見た事が無い。
ケイティーは、その映像に見惚れそうになる自分を抑え、アクセルが映像に夢中になっている今がチャンスと考えた。




