爆轟実験
「タンジンの術!」
「なんじゃそれ?」
点火係だったヴィヴィさんは、あまりの大きな音に魂が抜けかかっていた。
「あっちの世界にある、少年向け絵草紙の主人公の少年間者が使う術の名前なの。彼は、この術を木炭の粉で行うから炭塵爆発、意図的に起こすから炭塵の術って言ってた。」
「ちょ、ちょっと待ってください! こ、こんな、こんなの! 魔導以外でこんな威力の爆轟現象を引き起こすなんて、駄目です! 絶対に駄目!」
「あ、再起動した。」
「うむ、魔導師以外の一般兵士でも魔導並の攻撃力を得てしまうからのう。もし、戦争に利用されでもしたら、より悲惨な結果を齎すじゃろうて。この実験は、ここに居る者だけの秘密として、決して口外はせぬようにな。」
ヴィヴィさんは無言でコクコクと頭を上下に振っていいた。
純粋に、科学的検証として、記録に留めるのみする。
「えー、今の現象を簡単に説明しますと、粉塵爆発、炭塵爆発と呼ばれる爆豪現象の一つです。これは、一点は始まった燃焼、または熱の超高速の連鎖反応現象で、音の速さを越えています。これらを引き起こす物は、今は用意がありませんが、火薬を使ったもの。その他、水蒸気爆発。ガス爆発等いくつかあります。今ここでやっているのは、意図的に爆轟現象を引き起こす実験であります。」
「この爆轟を利用して、物を弾き飛ばして、魔導の有効範囲外への攻撃手段の検証をしておったのじゃ。」
「はい、次! ガス爆発いきます!」
「必要な物は?」
「可燃性の気体ですね。構造としては、粉塵爆発の粉塵が可燃性ガスに置き換わっただけです。」
「ガスの準備も無いぞ?」
「そう、可燃性ガスの準備が必要です。だけど、私達魔導師は、それをノーコストで作り出す事が出来ます!」
「なんと! バシリスコス退治の時には、ガスが無いと言っておったじゃろうが。」」
「いえ、よく考えたらありました。作れます。あの時はテンパってて思い付かなかっただけです。」
つまり、水を分解すれば良かったんだ。
水ならお師匠が生成出来るもんね。
普通なら、電気分解する所だけど、魔力で酸素原子から水素原子を無理やり引き剥がしてやる。
2つの水分子から、2つの水素分子と1つの酸素分子が出来る。
イオン化する? 活性水素、活性酸素、望む所だ。
お師匠の出した西瓜大の水の玉を、私は魔力でどんどん分解してゆく。
「水を分解すると、水素ガスと酸素ガスに分解します。水素と酸素を反応させれば、再び水に戻るだけです。とてもクリーンなエネルギーです。そして、急激に反応させれば、爆発を起こします。」
今、お師匠の作った箱の中は、活性水素と活性酸素が充満している。
これに火を付ければ……
ドゴゴーーーーーオオオオン!!!
「びっくりした! 点火する前に爆発したよ!」
だって、活性酸素と活性水素だもんね。そうなるよね。
「私もビックリしましたわ。」
「うむ、爆発力は粉塵よりもこちらの方が強そうじゃったが、不安定で扱いにくいのう。」
だよねー……。
大失敗。
爆轟実験は、一先ず中止して、さっき仕留めたロックドラゴンを回収してこよう。
お師匠達を残して、ふよふよと谷を越えて飛んで行き、ロックドラゴンの死体を拾い上げる。
「あれー? そういえば、血抜きってどうやるんだっけか? こうかな?」
ロックドラゴンの尻尾を掴んでぶら下げてみる。
血とか何かが、ぼとぼとと滴り落ちる。
こうしたらいいんじゃないかな? と思いついて、尻尾を持ったままグルグルと振り回してみる。
遠心力で血が抜けるんじゃないかしら。
「何やっとるんじゃ、あいつは。」
あまりにも高速回転でグルグルやってたら、頭の断面から内蔵がずるりと出てきてしまった。うげー。
グロい、かなりグロい光景だよ。
仕方がないので、内臓は引きずり出して谷に捨てた。肝臓は使えるらしいので、肝臓だけ取っておこう。
それを持って、またフヨフヨ飛んでお師匠達の元へ戻る。
「私、ソピアちゃんの奇行には少々引きましたわ。」
「うーん、血抜きをしようと思ったの。」
「それだったら、未だ心臓が動いている内に首のあたりの太い血管を切って、そこの斜面を利用して頭の方を逆さまにしておけば良かったのよ。そして、腹を割いて、腸の下を縛って切った後、内蔵を取り除き、その下の渓流に沈めて素早く冷やすの。」
「ヴィヴィさん、やたら詳しいね。」
「それはそうよ。私は昔、ハンターをやってましたもの。」
えー、それは初耳。
暗部の長官発言といい、このホンワカしたおばちゃんの過去に何が有ったのか、気になるったらありゃしない。
じゃあ、ちょっくら下の沢へ持って行ってヒヤシンス。
「お腹に石を詰めて、沈めるといいわよ。」
「はーい。」
沢の水はめっちゃ冷たい。キンキンに冷えそうだね。
言われたとおりにお腹を裂いて、腸の中身が出ないように縛った後、内臓を綺麗に取り除いて、その空いたスペースに石を詰めて、水の中に沈めて冷やした。ついでに肝臓も。
上に戻ると、ヴィヴィさんとお師匠が飛行術の練習をしていた。
やっぱり、お師匠よりヴィヴィさんの方が上手だな。
でも、ここは岩場だから、墜落したら危ないよ?
私は、魔力の見えない手を二人の下側に添えて、二人を追っかけ回したけど、危なっかしそうに見えて、結構大丈夫そうだね。
そうこうして遊んでいる内に、だいぶ日も傾いてしまった。
「もう暗くなるから帰りましょうか。」
ヴィヴィさんは、ピクニックセットを新しい魔導倉庫へ収納した。
「あのロックドラゴンはどうしよう? 明日町へ売りに行こうか?」
「家で食べてしまうか?」
「んーー、1頭丸ごとはちょっと量が多いわね。私が明日、出勤する時に持って行って売って来ますわ。」
という事で、ロックドラゴンもヴィヴィさんの魔導倉庫へインしました。
私は、ちょっと気になっていた事をヴィヴィさんに聞いてみた。
「ところで、ヴィヴィさんは、どうやって1刻あたり500リグルの速度を出したの?」
「それはね、ソピアちゃんのやり方を観察していて、解っちゃったの。後ろへ空気を噴射して前進しているんだなって。」
「へー、流石! それじゃ、私と競争してみます?」
「いいわよ。」
「わしもまぜろ。」
「じゃあ、お師匠が合図出して。」
「いいぞ、いっせーの、せ!」
ドヒュン!!
一瞬で家まで到着。
もちろん、勝ったのは私。
しばらく待っていたら、ヴィヴィさんがやって来た。
それからしばらく間が開いて、お師匠が到着。
「お前ら、早すぎじゃ。」
「ちょっとまって、何その速度は!」
「チッチッチ、ヴィヴィさんが如何に天才だろうと、飛行術のスピードは、世界で2番めだね。」
「ちょっとちょっと、どうやるの! おしえなさーい!」
「ちょ、ま、揺すらないで。」
肩を掴まれてガクガク揺さぶられて、フラフラに成りました。
仕方無いので教えて上げる。
「実はね、500リグルもの速度にもなるとね、前進するだけで浮力が発生するので、地面を抑えて反作用で浮かび上がらなくても落ちないの。流体力学だよ。」
「なんと、そうじゃったのか。」
「うん、だからね、上空での巡航中は、全ての魔力を推進に当てられるの。多分、もっともっと速度出せると思うよ。」
「なんという事。ソピアちゃんからは学ぶ事が多すぎますわ。」
「だけどね、そうすると空中でのバランスが難しいから、落下して怪我しないように気をつけてね。」
冷えてきたので、家へ入って、夕食を食べて、お風呂へ入って、お休みなさい。
翌日、ヴィヴィさんは、王宮で業務の始まる時間に間に合うぎりぎりの時間まで家でダラダラして、文字通りすっ飛んで行きました。
ぶっつけ本番はやめてって言ったのになー。




