修行の旅の終わり
聞くと、私は液体化には成功し、そのまま沢の水の中を流れて行ってしまった様だ。
慌てたウルスラさんとプロークが、私の体を拾い上げ、必死に声をかけていた処、実体を取り戻し、元のソピアの体に戻って意識を取り戻したという事らしい。
「そっか、液体化までは出来ていたんだ。」
「ですが、滝の中で液体に成るのは危険が伴いそうです。流れて行ってしまいます。」
バラバラに成らなくて良かった。スライムみたいに、粘性があるのかな?
「あの時、一所懸命に唱えてらした呪文は一体何でございますか?」
「あ、聞こえてたんだ。あれは、私の居た世界での変身の呪文なんだ。」
インドの山奥で修行した下町の黒豹が、7つの化身に変身する時の呪文だね。
でも、それで成功したみたいだ。
「液化まで出来れば、後は明確なイメージを元に、再構築するだけで御座います。」
成る程成る程。液状化した所で、気持ち良くなって身を委ねちゃうと、眠ったみたいに意識を持っていかれてしまうんだ。
でも、液状化すると、重力から開放されたみたいに、肩こりも腰痛も何もかもから開放されて、凄く気持ち良いんだよねー。
マッサージ中に気持ち良くなって、寝たいけど寝るなって言われているみたいな感じだ。うむむ。
昼近くに成って、飛竜お母さんが、鹿みたいな動物を獲ってきてくれたので、それを解体して、ヒレ肉辺りと背ロース肉を少々頂き、残りを子飛竜達がウマウマと食べていた。育ち盛りだもんね。いっぱい食えよー。
さて、昼飯はどうしようか。普通にバーベキューでも良いのだけど、ちょっと凝ってみようか。
幸い、卵はある、小麦粉と塩もある、油も少々ある。油の量的に、揚げ物は無理か。
私は、ヒレ肉を叩いて伸ばし、塩を振って味付けをし、小麦粉をまぶしてから溶いた卵に漬け、黒パンを粉にして作ったパン粉の衣を付けて、油であげたい処なのだけど、それは出来ないので、平らな鍋底に少量の油を入れて、揚げ焼きみたいにひっくり返しながら両面を焼いてみた。
すっごくソースが欲しい! 人生の中で、こんなにソースが欲しいと思った事は無いぞ!
仕方が無いので、予め肉に塩味を付けておいたのだけど、これとマヨネーズだけで行けるか?
一口大にカットして、マヨネーズを添えて出してみた。
「美味しいです!!」
ま、普通に美味しいよね。でも、私は今、ご飯が凄く欲しいーー!!!
この世界って、米は無いのかな? 有っても、私達が食べてたジャポニカ米じゃ無いんだろうな。あれは改良種だからね。有っても良くてインディカ米あたりか……、いや、それならそれで、カレーとか炒飯とか、西洋料理ならピラフやパエリアみたいな料理に適しているから、今度探してみるかな。
さて、午後からは、ウルスラさんの飛行術の特訓だ。
こわごわと、数センチ浮かび上がるのがやっとなんだよね。
「大丈夫だよー。転んでも私が受け止めるから。」
いつもそう言うんだけど、私の時と同じで、深層意識に刻み込まれている謎の恐怖感は、中々取れない物なんだよね。
「ウルスラさんも、滝行してみる?」
「効果があるなら、何でもやってみせます!」
バスローブに着替えて、滝の下へ降りて行った。
私の時と違うのは、立ち姿勢ではなく、座禅の姿勢で、心を無にして浮遊感覚を掴む事。
ちょっと滝の下へ入ってみて、その想像以上の水圧にはビックリしたみたいだった。
傍から見てみると、チョロチョロと水が流れているだけの、細い滝なんだけどね。水の力って凄い。
私の時みたいに危ない事に成らないように、監視の人は必要だ。
体が冷えすぎて気を失ったりしたら、危ないもんね。
暫く見ていたら、無心になったみたいで、座禅の姿勢のまま少し浮上している。なんだか危ない宗教みたいだ。
水圧に逆らって浮かび続けるのは、結構魔力も使うし、消費量も大きいので、良い修行かも知れない。
あまり長時間やると、体が冷え切るので、適当な所で中止させる。
冷え切った体を暖める為に、焚き火を用意して、温かい紅茶で暖を取る。
森の側では、竜達が発声練習をしている。
「「「「ぐぁー、はーおうー、ざーます。」」」」
今のは、『おはようございます』、かな?
私とウルスラさんは、焚き火を挟んで向かい合い、座禅を組んで瞑想をする。
何故に瞑想かと思われるかも知れないが、私もウルスラさんも、出来ないのは心の問題なので、自分の心に向き合って乗り越えるには、座禅と瞑想は最適なのだ。
私は、グニャグニャと体がとろけるイメージを、ウルスラさんは、ふわふわと漂うイメージをする。
私達は、滝行で入り口は掴んだので、後はそれを何時でも確実に出来る様にしていくだけなのだ。
そうして、一日が過ぎて行く。
「…………」
「………」
「……」
ここにキャンプを張って7日目。
私達は、かなり自在に目的の術を行使出来る様になっていた。
ウルスラさんは、森の木々の上をスイスイと飛び、私はウルスラさんに化けたり、プロークに化けたり自由自在。
飛竜の子の3頭は、私と背格好が同じ位の男の子2人と女の子1人になった。
男の子と女の子の容姿は、私とウルスラさん監修だ。
3頭とも、綺麗な言葉を喋れるように成っている。
もちろん、飛竜お母さんもプロークも発音は綺麗になった。
「あめんぼあかいなあいうえお」
「さいたさいたさくらがさいた。」
「あおまきがみあかまきがみいけがみきみこ」
おお、凄い凄い! 皆完璧だよー!
今日で修行の旅は終わりだよ。皆、お疲れ様!
さて、最後は残った食材を消費する為に、バーベキュー大会をしよう!
ていうか、もう肉しか残っていないので、焼肉大会なんだけどね。調味料も塩しか残っていないので、丁度良いか。
皆でお肉を焼きながら、楽しい時間を過ごして、皆でテントの中で寝た。狭かった。
翌朝は、食材はもう残っていないので、ウルスラさんの淹れてくれた苦茶を飲んで目を覚ました。
子飛竜達も飲んでいるよ。無理しなくても良いのに。
「じゃあ、飛竜達とはここでお別れだ。皆元気でね。」
「「「「…………」」」」
「ん、名残惜しいよね……」
「あ、あのう……、私達も女神様とご一緒に行ってはいけませんか?」
ん? あれ? やっぱりそうなるのか?
「んー……、でもね、人間の世界に棲むというのは、色々難しいんだよ。人間の面倒臭いルールに縛られるし、堅苦しい生活で、病気になっちゃうかも知れないよ? 自由は無いよ?」
「覚悟は出来ています。でも、私達はこの様に女神様の眷属となった訳ですし、是非一緒に暮らしたいのです。」
家族になったか……、うーん、そうだよね、一緒に生活して情が湧いちゃったよね。
一緒に住むのは、私は構わないんだけど、王都の生活に適応出来るかなー。
「プローク様もご一緒に棲まわれている様ですし、私等も是非。」
「プロークは、脱皮が済んで怪我が完治するまで一緒に住んでいるだけなんだよ。」
「えっ?」
「えっ?」
プロークが、驚いた様にこっちを見た。ん?
「我々は、眷属の契を交わしたではないか。」
「ん? 一緒に住んで、家族同様仲良く暮らそうねって話でしょう?」
「違うぞ! 眷属の契というものはだな!」
「えっと、ウルスラさん、どういう事かわかる?」
「はい、勿論ですとも。」
ウルスラさんの説明に寄ると、竜族の言う眷属の契というのは、魂の強い繋がりの事で、一心同体と言っても良い位の、命すら掛ける事の出来る、強い繋がりの事を言うのだそうだ。
あっちゃー、そうなのか、てっきり、一緒の家に住んで、今日から家族と思って遠慮無く付き合おう、位のつもりだったよ。
「うーん、そういう事なら、一緒にお屋敷で棲むか。ま、良いでしょ。」
「「「「はいっ! 有難き幸せです!」」」」
「でも、私の為に命は掛けちゃ駄目だからね。自分の命が最優先です。それから、私を神様と呼ぶのは禁止です。」
「「「「「えっ、難しいです!」」」」」
まじかよ、こいつら……そして、プロークも驚いた顔するんじゃありません。何回も聞いてるでしょう。
「しょうがない、じゃあ、皆で王都に帰りましょう。向こうではずっと人間の姿で居なければならないし、出来る?」
「「「「はいっ! 出来ます!」」」」
もう、返事は良いんだから。
「じゃあ、王都へ向けて、しゅっぱーつ!!」




