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こちら鈴山村陰陽師  作者: 法田波佳
ようこそ、鈴山村へ
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古びた鈴




「もう、また倒れてるのかと思っちゃったわ」

「すみません、ご心配おかけして」


 瑞生の謝罪を聞いて、ゆかりは困ったような笑みを浮かべた。その理由がわからず、瑞生は心の中で首を傾げる。


(何か変なことを言ったかな?)


 ゆかりは、何か言いたそうに瑞生を見ていた。けれど、やかんの沸騰を知らせる甲高い音が響くのを聞いて炊事場に向かって駆けて行った。

一人廊下に残された瑞生は、ほっとして小さく息をつく。

 気を付けなければ、改めてそう思った。迷惑だなんて思われないように、面倒な子なんて思われないように・・・・・・。

 自分に言い聞かせるように、何度も頭の中で繰り返しながら胸に拳をあてて深呼吸する。

 気持ちを入れ替えると、瑞生はゆかりの後を追って廊下を歩き出した。




 居間に入ると、朝ご飯のいい匂いがふわりと香った。円形のちゃぶ台の上にはもう料理が揃いはじめていて、瑞生は慌てて居間の奥にある炊事場へと向かった。


「あ、瑞生ちゃん。おはよう」

「おはようございます」


 入り口に掛かっている暖簾をくぐるとすぐに、おぼんを手にした久教がいた。

 木製のおぼんの上には、ほかほかと湯気がたっているお椀が3つ乗っている。中に注がれているお味噌汁には、青々としたネギが浮かんでいた。

 そう言えば朝ご飯にお味噌汁を飲むなんて久しぶりだと瑞生は思った。家はいつもパン食だったので、朝にパンの焼ける匂いじゃなくてだしの匂いがするのも新鮮に思えた。


 久教は、瑞生の横をすり抜けて居間へと出ていく。炊事場では、ゆかりが忙しなくくるくると動き回っていた。動きに合わせて、蝶々結びをしたエプロンの紐がゆらゆら揺れる。


「何かお手伝いしましょうか?」

「あ、ありがとう! じゃあ、そこのお皿にキッチンパラソル被せといてくれる?」


 洗い物をする手を止めずに、ゆかりは顎でしゃくって炊事場の真ん中にある机を示した。

 その上には、居間に置かれてあったのと同じ料理が盛り付けられたお皿が置かれている。焼き鮭にほうれん草のおひたし、漬物、豆腐・・・・・・ただ一つだけ違うのは、キュウリの酢の物がのっていないことだろうか。


 机の上には、あらかじめキッチンパラソルも置かれていたので、すぐ見つけることができた。紐を引っ張ると、ポンッという気持ちのいい音とともに、ネットが四方に開く。お皿の縁に被らないように慎重に置いて、瑞生は満足げに頷いた。


「終わりました。次は・・・・・・」

「ありがとう、もう大丈夫よ。先に朝ご飯食べちゃってて」


 肩越しに振り返って、にこりと微笑みながらゆかりは言う。手元を覗きこんでみると、もう洗い物もあらかた片付いているようだった。


(これなら、先食べちゃっててもいいかな?)


 瑞生は踵を返そうとする。同時に、ちりんと軽やかな音がなった。


「あら、鈴の音」


 洗い物にもどっていたゆかりが、手を止めて振り向く。その拍子に、スポンジに付いていた泡が飛んで、床に白い染みをつくった。

 どこから聞こえてきたのかはわからなかったようで、ゆかりは不思議そうに首を傾げた後、猫でもいるのかしらと言って笑った。

 そんなゆかりの言葉に、瑞生は曖昧に笑うことしかできなかった。


 背を向けて片づけを再開したゆかりを尻目に、瑞生はこっそり自身のポケットに手を入れる。

 中から出てきたのは、一個の鈴だった。それは、さっきの青年が去った後に残されていたものだ。


 もともとは銀色だったのだろうが、鈴はところどころ塗装が剥げて下の金属が見え隠れしていた。先につけられていたのであろう橙色の紐も、途中で切れてすすけている。

 またもう一度会う確証もないし、彼が大切にしていたものかもわからない。別に拾って持っておく必要もないとは思うのに、なぜか瑞生は放っておけなかった。

 手のひらで一度ころころと転がしてみる。今度は音一つ鳴らなくて、瑞生は不思議に思った。


「どうかした?」


 ふいに背後から声が聞こえて振り返る。

 するともう片付け終わったのか、ゆかりがエプロンで手を拭きながらこちらに歩み寄ってきていた。


「何でもないです」


 手にしていた鈴を、慌ててポケットへ滑り込まらせる。鈴は、今度も音を鳴らさずに中へ収まった。




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