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こちら鈴山村陰陽師  作者: 法田波佳
桜ノ中学校のふたばあ
19/22

ふたばあ現る




「で、これ、どういうことですか?」


 隣にいる依与に向かって瑞生は問いかける。それに返ってきたのは、沈黙だった。




 瑞生と依与は、壁に身を隠すようにして美術室の方を見ていた。

 美術室前の廊下の真ん中には、ティッシュペーパーの上に青梅を2個乗せたものが置かれている。

 結局、「ちり紙」というのはティッシュペーパーのことだった。それから依与に言われるがまま、青梅を瓶から取り出して廊下に置いてきたのだが……。


(これは一体何なんだろう?)


 床の上に放置された青梅を見ながら、瑞生は首を傾げる。

 これで本当に出てくるのだろうか。こんな、子どもだましのようなやり方で……。


「本当に大丈夫なんですか?」


 気になって、依与の方を見ながら問いかける。しゃがんでいるせいで、立ったままの依与を見ようとするとどうしても見上げる形になった。


「何が?」


 廊下に顔を向けたまま依与は返す。素っ気ない態度に、少しひるみそうになりながらも瑞生は言葉を続ける。


「その、こんな方法で大丈夫なのかなーと思って」

「妖怪というのは、本能に忠実な生き物だからね。好物が目の前にあればすぐに出てくる」


 何でもないことのように呟かれた言葉に、瑞生はへーっと声を出しそうになる。当たり前のことだが、改めて自分がいかに妖怪のことを何も知らないかを感じた。


「依与さんもそうなんですか?」


 ふと気になって聞いてみる。返ってきたのは、「はあ?」という声だった。

 廊下に向けられていた顔が、ぐるりとこちらに向けられる。いつも通りの狐面。けれど、お面越しに睨みつけられているような気がした。 


「阿呆。僕をそこらへんの下級妖怪と一緒にするな」


 思いっきり不服そうに言われる。きっとお面の下では、眉を寄せて顔をしかめていることだろう。

 新たな発見に、瑞生はまたまた感嘆の声をあげそうになる。妖怪にも何やら階級のようなものがあることを、依与の話を聞いて初めて知った。


(ふたばあたちは下級なのかな?)


 興味が湧いて、尋ねようと口を開きかけたそのとき、ふほほほほと歯の隙間からもれたような笑い声が背後から聞こえてきた。

 驚いた瑞生は、勢いよく振り返る。そこにいたのは、2人のおばあさんだった。

 瑞生の腰ほどまでの背丈の2人は、ハンコで押したような瓜二つの顔をしていた。胸のあたりまである白い髪も、しわくちゃの肌も、白い着物に深草色の打掛を羽織っているのも、頭の上から爪の先まで何もかもが同じだった。血管が浮かんでいる手は、仲良く繋がれている。


(ひょっとしてこの人たちが……)


 ふたばあなのだろうか。そう瑞生が思ったのと、おばあさんが笑い出したのは同時だった。


「ふほほほほ」

「ほほほほほ」


 しゃがれた楽しそうな笑い声。おどろおどろしさはないものの、その声は日曜日に聞いた声と重なった。


「あの、ふたばあですか?」

「そうですとも」

「わたしらが」

「ふたばあですな」


 最後の言葉は、ぴったり重なって2人の口から出された。それを聞いた瑞生は、床に置いていた紙袋の中から瓶を取り出す。そして、それをふたばあの方に向かって突き出した。


「これ、青梅です。善蔵さんから渡すように言われて……」

「おーおー、これは!」

「ありがたいのお!」


 拝むように体の前で手を擦り合わせる2人。一しきりそうし終わると、2人同時に手を差し出してきた。その手に、瑞生はゆっくり瓶を受け渡す。中の液体が揺れて、ちゃぷんと音をたてた。

 瓶を手にした2人は、心底嬉しそうに中の青梅を見つめている。中にちゃんと入っているのを確かめるように、ゆらりゆらりと左右に振る。青梅が夢のように中で揺れる。


「ふほほほほ」

「ほほほほほ」


 声を出して笑うふたばあ。その姿は、まるで子どものようで、微笑ましさに瑞生の顔にも思わず笑みが広がった。


(あの、日曜日の声の正体とは思えないな)


 目の前にいる2人は好物を前にして喜ぶ普通のおばあさんで、山姥とも、ましてや日曜日に遭った恐ろしい声の正体ともどちらにも思えなかった。

 一しきり青梅を見ていたふたばあは、ふと思い出したかのように依与の方へ視線を移す。そして、にやりと人の悪そうな笑みをその顔に浮かべた。


「下級妖怪とは、よく言ってくれたもんじゃのう」

「ほんに、ほんに。生まれたての頃はわしらが遊び相手になってやったというのに」


 2人は顔を寄せ合いながら、くっしっしと笑う。それを聞いた依与は、瑞生の横をすり抜けてふたばあの目の前まで行くと、その白い頭を両手で鷲掴みにした。


「余計な! ことを! 言うな!」


 掴んだまま、左右に頭をぶんぶんと振る。はたから見ると何とも痛そうで、気持ち悪くならないのか心配になるが、ふたばあは変わらず笑ったままだった。


「ふほほほ、都合が悪くなると手が出るのは相変わらずだのう」

「ほんに、ほんに」


 けらけらと笑うふたばあ。手が疲れてきたのか、次第に揺らすふり幅が小さくなっていく。

 やがて、ピタリと動きが止まった。


「あのう、ふたばあは、依与さんと昔からの知り合いなんですか?」


 ふたばあの頭から依与の手が離れたところで、瑞生はさっきから気になっていたことを聞いてみた。すると、ふたばあは互いに顔を見合わせて、にやりと笑った。


「知っとるとも」

「うむ、何なら聞かせてしんぜよう」


 依与とわしらとの出会いを。そう言ってふたばあは、また楽しそうに笑った。





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