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こちら鈴山村陰陽師  作者: 法田波佳
ようこそ、鈴山村へ
11/22

村の秘密にかする




「あー、そうだったんだ! ごめんね。何言ってるかわかんなかったでしょ?」


 学校から出て通学路を歩きながら、今日一日気になっていたことを洗いざらい話すと、真幸はそう言って恥ずかしそうに笑った。


「あの小宮の家の子だからてっきり全部知ってるのかと思ってた」

「俺も俺も! すごい変なやつらーと思ってたんじゃない?」


 真幸と俊の言葉に、瑞生は曖昧に笑って返す。実際、変なやつらとまでは思わなかったけれど、何を言っているんだろうとは思っていたのだ。


「んー、何から話そっかなあ」


 歌うように言いながら、真幸は体の後ろで手を組んで空を仰ぐ。うーんと突き出した唇は、荒れ一つない綺麗な薄紅色だった。


「じゃあ、妖怪についてからかな!」


 話すことが決まったのだろう。やがて真幸は、組んでいた手をぱっと離すと、後ろを歩いていた瑞生を振り返った。


「瑞生ちゃんは、妖怪っていると思う?」


 その問いかけにはすぐには答えられなかった。この村に来るまでの瑞生なら、いるわけないと断言していただろう。けれど、今朝庭で会った依与という名の不思議な青年といい、通学路で会った赤殿中といい、さっきの山姥の話といい、いないと断言するには瑞生は今日一日であまりにも多くのことを経験してしまっていた。


「んー、どうなんだろう?」


 困ってしまって、首を傾げながら言うと、真幸はそうだよねと言って朗らかに笑った。


「急に聞かれても困るよね。でもね、妖怪はいるの。これは間違いなく真実」


 急に真幸の目が真剣なものに変わる。それを見て、瑞生は思わず背筋を正した。これから話されることは、冗談でもからかいでも何でもなく、本当のことなのだということが伝わってきた。

 真幸はくるりと背中を向けるとゆっくりとした足取りで歩きだす。風が茶色い髪をさらっていく。髪と髪の間から見えた項は、びっくりするほど細く、白かった。


「江戸時代より前、妖怪はあちらこちらに住んでいたの。今でも各地に伝承が残っているのがその証拠。人里近くの山や川にいて、人間とも共存してた。でも、明治になって近代化が進み、人里が一気に発展していくと、妖怪たちは住処を追われるようになった」


 真幸は、そこで一度言葉を切った。

 春にしては生暖かい風が吹く。腰まである瑞生の長い黒髪が風に揺れる。瑞生も俊も、何も言わずただ黙って真幸の言葉の続きを待っていた。


「やがて、妖怪はあちこちで悪さをするようになった。住む場所を奪われたことを恨んで。そこで、政府は『特別地区』と呼ばれる場所を設けることにした」

「特別地区?」


 首を傾げながら瑞生は繰り返す。それに、真幸は背を向けたままこくりと頷いた。


「特別地区は、妖怪が住むことを特別に許された場所。全国に数十か所はあるけど、その多くは田舎に作られてるの。ここ、鈴山村もその一つ」


 だからね。そう言いながら真幸は振り向く。その顔には、年に似つかわしくない妖艶な笑みを浮かべていた。

 1歩、2歩、3歩と真幸は瑞生に近づく。じゃり、じゃり、とスニーカーが石を踏む音がした。

 そうして、毛穴が見えるんじゃないかと思うほど近くまで来た時、真幸はそっと囁いた。


「ここでは、用心した方がいいよ。自分の周りにいるのが本当に人間かどうか」


 にいっとチェシャ猫のように口角を上げて笑う。色素の薄い目は、瑞生の反応を面白がるようにわずかに細められている。にきび一つない肌理きめの細かい肌は、作り物のようだ。

 ぞくり、と背筋に冷たいものが走るのを瑞生は感じた。

 すうっと真幸は体を離していく。生暖かい風に吹かれた髪が、名残り惜しそうに瑞生の頬を撫でた。


「なあーんてね! 冗談!」


 少し瑞生から距離を取った真幸は、にぱっと太陽のような笑顔を見せる。それに気が抜けて、思わずへっ? と間抜けな声が瑞生の口からもれた。


「ここの妖怪はいいのたちが多いし、何より陰陽師さんたちがにらみを利かせてるから大丈夫だよ」

「陰陽師?」


 耳慣れない言葉に、またしても瑞生は首を傾げる。すると、真幸は瑞生の方を振り向いたまま後ろ向きに歩き出した。そして、その状態のまま説明を始める。


「陰陽師っていうのはね、特別地区に一人はいるように配置された特別な人のこと。強い霊力を持っている人が多いんだって。で、その地区に住む妖怪たちが悪さをしないか見張って、妖怪と人間がうまーく共存できるように調整してるの」

「小宮の家が、この鈴山村の陰陽師なんだよな」


 隣を歩いていた俊の言葉に、瑞生は目を丸くする。だって、そんなこと母からも叔父からも誰からも聞かなかった。

 陰陽師、強い霊力を持つ人、妖怪と人間の調整者、……。聞いたばかりの言葉が、頭の中をぐるぐると回る。


「まあ、私たちも詳しいことは知らないんだけどねー」


 恥ずかしそうに頬を掻きながら真幸は言う。さっきからずっと後ろ向きに歩いているが、全然不自然な感じがしない。前を向いて歩いていた時と同じペースで歩き続けている。まるで、背中にも目がついているかのように。それが、瑞生には不思議でならなかった。


 気がつけば、もう瑞生の家の前まで帰ってきていた。いろいろと説明をしてくれたことのお礼を言って、真幸と俊と家の前で別れる。

 そして、開けっ放しになっていた門を通って敷地内に足を踏み入れたところで、玄関の前に誰かが立っているのに気がついた。こちらに背を向けていたその人は、近づいてくる瑞生に気がついたのかくるりと振り返る。こちらに向いた顔を見て、瑞生は思わずあっ! と声をあげた。

 その人は、今朝赤殿中を背負って歩いて行った少年だった。





 


少しずつ明らかになっていく謎。

楽しんでいただけると幸いです。

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