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作者: 伊藤美智子

大きな木の枝の上で、小鳥たちが身を寄せあって話をしています。



「今日は風が強いね。せっかく雪が降ってないのに、これじゃあ飛べないや。」


「秋の終わりに渡り鳥さんたちについていけばよかったね。」


「でも僕たちには大きな翼がないから、海の向こうには行けないよ。」




凍った湖の下で魚たちが話をしています。



「しばらくおひさまを見ていないね。」


「うん、氷が分厚くて昼か夜かもわからないよ。」




洞窟の中ではてんとう虫とリスが話をしています。



「見なよ、あそこのウサギさんたち。毎日毎日楽しそうに外で遊んでいるよ。」


「一緒に遊びたいけど、僕たちは冬の間は寝ていなくちゃ。」


「そろそろお腹も空いてきたけど、春になるまではがまんだね。」




3月も終わりに近づいているのに、今年の春はまだ先のようです。

いつもなら丘のお城から少し離れた季節の塔で冬の女王と春の女王が交代し、みんなが目を覚ます時期ですが、今年はいまだに雪が降り続き、あたり一面が真っ白なまま。

森の生き物たちも春を待ちわびています。




しばらく雪が降り続いたある日、小鳥たちの休んでいる大きな木のところへ動物たちが集まってきました。シカやリス、ウサギにクマ、カエルにてんとう虫、いろいろな動物がいます。冬眠しているはずの動物たちも一緒です。



大きな木は長生きな木。

この国のことをよく知っています。

今の王様が生まれる前から、ずっとこの国のことを見守ってきました。



てんとう虫は大きな木にたずねました。

「今年は冬がとても長いね。どうして冬の女王様は春の女王様と交代しないの。」



大きな木は言いました。

「理由はわからないけど、冬の女王様が季節の塔に閉じこもってしまったようだね。王様も困ってしまっているよ。」



大きな木は根っこを使って他の植物とお話ができます。

動くことができなくても、仲間と根っこでお話しすることで、この国の様子が隅々までわかります。



ウサギは困った顔で言いました。

「食べるものが少なくて困ってるんだ。冬眠している動物たちも目を覚ましているし、湖の魚さんたちも、おひさまがあたらないって。そろそろ春になってもらわないと。」



大きな木はしばらく考えたあと、答えました。

「それじゃあ、わたしのなかに木の実があるから、それを冬の女王様に渡しておくれ。何かの役にたつかもしれない。」



リスは木の幹にあるくぼみに入ると、中から木の実を取りだして出てきました。そのまま大切そうに木の実を口の中に入れました。片方のほっぺただけを膨らませたリスが言いました。

「これを渡すだけでいいの?僕たちの言葉は女王様には伝わらないし、女王様の言葉も僕たちにはわからないけど。」



大きな木は答えました。

「きっと大丈夫。よろしく頼むよ。ああ、それから枝に積もった雪を少し落としてくれないか。重くて折れてしまいそうだ。」



クマは冬眠から目覚めたばかりで元気いっぱいです。

力もちの熊が木をゆさぶると、どさっと地面に雪が落ちました。



大きな木は力もちのクマにお礼を言いました。

「ありがとう。おかげでだいぶ軽くなったよ。」


軽くなった枝が風に揺られて、大きな木が手をふっているようです。




動物たちは季節の塔に向かいました。  

しばらく丘を登っていくと、王様のいるお城が見えました。丘のしたに広がっている、人間の住む町も真っ白です。子供たちが元気に遊んでいます。


お城から少し離れたところに、お城より高い季節の塔が見えます。

動物たちが近づくと、塔はますます大きく見えました。




塔の入り口には雪だるまがいました。

冬になると、人間の子供たちが家の外に作って遊んでいるのを知っています。

大きさは人間の子供よりもちょっと大きく、頭に赤いバケツをのせています。



塔の入り口は塞がっていました。

大きな鉄の扉は動物たちでは動かせそうにありません。

塔に付いている窓も全部しまっており、小鳥たちも中に入ることはできません。

動物たちが困っていると、突然、後ろから声が聞こえました。




「こんにちは。冬の女王様なら塔のてっぺんに閉じこもっているよ。」




動物たちは振り返ってびっくりしました。

雪だるまがしゃべっているのです。

人間が雪で作った雪だるま、しゃべっているところなんて、みたことがありません。




雪だるまはゆっくりと話始めました。

「びっくりさせちゃってごめんね。ぼくはね、冬の女王様に作られたんだ。女王様はこの冬の間だけ僕に命を与えてくれたから、少しだけお話しもできるんだ。まぁ女王様以外の人とは話さなかったけどね。」



小鳥がおそるおそる雪だるまに話しかけます。

「こんにちわ。冬の女王様に渡したいものがあって森の方からきたんだ。この扉は開かないの?」



雪だるまは答えました。

「渡したいもの?この扉は朝と夕方、一日に2回しか開かないよ。お城から来る兵隊さんが、女王様のためにご飯を持ってくるときだけね。女王様に会いたいなら、そのときに付いていくしかないね。あの太陽がもう少し低くなったら兵隊さんが来ると思うよ。」



小鳥は、自分たちが春が来なくて困っていることを伝えました。

雪だるまは、お城や町の人々も寒くて困っていることを動物たちに話しました。今までに何人も塔に入って、女王様を説得しましたが、塔から出てくることはなかったそうです。



ウサギは雪だるまにたずねました。

「なんで冬の女王様はでてこないのかな。」



雪だるまは自分を作ったときに、冬の女王様が呟いていたことを話しました。



ー今年こそは空一面に輝くオーロラを作ってみせるわ。お母様の願いだもの。今年の冬はうんと寒くなるからあなたも見守っててねー



雪だるまは続けます。

「ずっと昔から、町の人間はオーロラを見ると幸せになれるって信じているんだ。冬の女王様のお母様、つまり一つ前の冬の女王様はオーロラを作ろうとしたんだけど、結局、作ることができずに、今の冬の女王様に仕事を任せることになったんだって。でも、最近お母様の体調が良くないから、焦っているんだ。お母様のために頑張っているから、王様も春の女王様も、交代することをあまり強く言えないみたい。」




動物たちはその話を聞いて、少ししんみりしてしまいました。

でも、自分たちも春が来ないと大変なので、冬の女王様に会うだけ会ってみようということになりました。



動物たちはどうやって女王様のところへ行くか相談しました。

クマやシカが塔の入り口にいたら、兵隊は驚いて中へは入れてくれないでしょう。

結局、木の実を持っているリスが兵隊の後ろを見つからないように付いていくことになりました。



雪だるまはそんな動物たちの話を静かに聞いていました。




太陽が沈みかけたとき、お城の方から兵隊が食事を持って歩いてきます。

動物たちは塔の後ろに隠れました。

兵隊は鉄の扉を開けると、塔の頂上を目指して階段を登っていきます。

少し間をあけて、見つからないようにリスが付いていきます。



兵隊は頂上の部屋の前に着くと、食事をドアの前に置いて階段を降り始めました。

リスは兵隊に見つからないよう、物陰に隠れて兵隊が通り過ぎるのを待ちました。



リスが部屋の前に着いたとき、兵隊の持ってきた食事がまだドアの前に置いてありました。

部屋の中に入れず困っていると、静かにドアが開きました。



冬の女王様は目の前にいるリスと目が合いました。

少しびっくりした様子でしたが、笑顔でリスに話しかけました。

「あら、かわいいお客さんね。あなた、どこから入ってきたの。」



リスは冬の女王様の言葉はわかりませんが、女王様が優しい顔をしているのはわかります。

リスはほっぺたの中から木の実をだすと、冬の女王様の目の前に置きました。



ドアの音で気付いたのでしょうか。

兵隊が階段を登って戻ってきます。

リスはあわてて兵隊の横をすり抜けて、一気に塔のしたまでかけおりました。


兵隊は驚き、声をあげました。

リスを追いかけようとすると、女王様があわてて兵隊を止めました。

「いいの、そっとしておいてあげて。」




冬の女王はリスが持ってきた木の実を手に取り、見つめています。



「これを私に。」



よく見ると、木の実の先からはほんの少しだけ鮮やかな緑色の芽が出ています。

小さいながらも力強く、春が来れば一気に空に向かって伸びていきそうです。



冬の女王様が窓の外に目を向けると、塔のしたに森の動物たちが集まっているのが目に入りました。



冬の女王様は窓を開けると、動物たちに向かって叫ぶように言いました。

「こんなに寒い日ばかり続けてごめんなさい。今日がきっと最後になるから。それから、春の知らせをありがとう。」



動物たちには冬の女王様が何を言っているかはわかりませんでしたが、みんながきっと伝わったんだと思いました。

リスが塔からおりてくると、動物たちは森に帰ることにしました。



動物たちは雪だるまにお礼を言いました。

「雪だるまさん、ありがとう。おかげで冬の女王様に会えたよ。オーロラ見えるといいね。」



雪だるまは答えました。

「女王様と話せてよかったね。春が来るといいけど。オーロラはきっと見えるよ。今夜、一番寒くなったら空を見上げてみて。」






夜も深くなったころ、動物たちのいる森も、王様のいるお城も、人間子供たちが遊んでいた町も、いつもよりとても寒く静かになりました。

みんなが吐く息はとても白く、吐いた瞬間に凍って落ちてしまいそうです。

普段はみんな寝ている時間ですが、何かが起きそうな夜を静かに見守っています。



雪だるまもポツンと塔の入り口に立っています。

雪だるまは、動物たちと話したこと、冬の女王様と話したこと、兵隊や町の人間が望んでいることを思い出していました。


そして、雪だるまは星空にお願いしました。

どうかこの国のみんなにオーロラを見せてほしいと。

冬の女王のお母様の体調が良くなるようにと。

動物たちに春が来るようにと。

この国に生きる者のすべての願いを叶えてほしいと。



星空に流れ星が流れたその時、急にあたりが明るくなりました。

そして空一面にとても綺麗なオーロラが現れました。

オーロラの光は優しく、それでいてとても力強く国全体を包み込んでます。



お城の兵隊は口をポカンと開けたままうごきません。

森の動物たちも誰も話をしようとせず、ただただ空を見つめています。



オーロラは形を変えたり、光の色を変えたり、見る者を飽きさせません。

そんなオーロラに答えるように、星たちが力強く瞬き、空のカーテンに飾りを付けます。

そんな綺麗で感動的な夜は、明け方まで続きました。



太陽が昇ってくるとオーロラはだんだんとその光を弱め、やがて消えてなくなりました。


そしてとても暖かな風が吹き始めました。

みんなが待ち望んでいた春の訪れです。



きっと、季節の塔で冬の女王様と春の女王様が交代したのでしょう。




今までの寒さが嘘のように暖かくなり、あっという間に植物が芽を出し、湖の氷は溶けて春がやってきました。




季節の塔から冬の女王様が降りてくると、町の人間や兵隊、王様までもが出迎えてくれました。

とても長く寒い冬だったけど、素敵な夜をありがとう、と。




冬の女王様は、春がちゃんと訪れていることに安心しました。


しかし、雪だるまが溶けてなくなっていることに気付きました。

赤いバケツだけが塔の入り口に転がっています。

そして、

「力を貸してくれてありがとう。ごめんね。」

とつぶやきました。








冬の女王は、雪だるまのいた場所に、動物たちがもってきた木の実を植えることにしました。



それからというもの、不思議なことにこの国では冬になると、必ずオーロラが見れるようになりました。



木は毎年大きくなり、やがては季節の塔よりも大きくなりました。




赤いバケツをかぶった木は、この国のすべての生き物から永く永く愛され続けたそうです。



おしまい。



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