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殺人鬼は勇者たりえるか~死霊術士~  作者: ピエロ
第零章 旅の始まり
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2話 真夜中の怪物

 深夜にさしかかった頃、昼間には感じなかった気配を感じ、閉じていた目を開ける。


「ようやくお出ましのようですね、寝坊助さんにも程がありますよ」


 堅いベッドで寝たからか、ガチガチになってしまった身体をほぐしていく。


「ああ痛い、柔らかいベッドで寝たいですね。それに、一人で寝るというのも寂しいものです」


 文句を言いながらも身体を動かしベッドから降りる。


 鏡がないため、手の感触だけで寝癖を整えていく。


「そう言えばこの小屋ランプないんですねぇ。不便じゃないんでしょうか?」


 ランプの姿が見あたらず首を傾げる。


「ああ、そうか。墓地の見回りで持って行ったままって所でしょうか」


 ここの住人の生活を思い出しランプの在処ありかに一人で納得するように頷き。


「武器になりそうな物とかなさそうですね、大丈夫でしょうか……まぁ、大丈夫じゃなくても何とかするだけですが」


 部屋の中をもう一度見回すも欲しい物が見つからずため息を吐き出す。


「さてと、深夜の怪物に会いに行きましょうかね。声も聞こえますし、その辺を彷徨うろついていることでしょう」


 知り合いにでも会いに行くような気軽さで呟くと、何の躊躇いもなく小屋を出ていく。

 外へ出てすぐに見える範囲を見渡し怪物が居ないことを確認する。


「居ないですね。さて、声はどちらから聞こえて居るのかな」


 耳を澄ますと右手側の通路から唸り声が聞こえてくる。


「向こうですか……ああ、どんな姿をしているのか想像するだけでも恐いですねぇ」


 口に出した言葉とは裏腹に、とても楽しそうな笑みを浮かべながら唸り声を目指し歩き始める。

 しばらく唸り声が聞こえるほうへ進んでいくと、遠くの方に何かを引きずる音と人間ではあり得ない大きさのシルエットが見え始める。


「あれが深夜の怪物、メモにあった番人ですかね……明らかに話が通じなさそうな感じです。かなり離れてるのに殺気がヤバいですね」


 遠くからでも分かるほど濃い殺気を放っている怪物に冷や汗が額を流れていく。


(あれは手に負える代物ではないですね。殺人鬼として過ごしてきた私の勘が近付くなと最大級の警鐘を鳴らしていますよ)


 怪物に近付かなくてはと思考は働くも、その場に縫いつけられてしまったかのように脚は動かない。――数分が経ち、ようやく怪物の姿が見えなくなった事で金縛りにも似た感覚から開放され膝から崩れ落ちる。


「はぁ……はぁ……何ですかあの化け物は、あの距離でこの殺気の濃さ。あれから鍵を受け取る? いやいや、首を差し出しに行くようなものでしょうよ」


 荒い息を整え滝のように流れ落ちる汗を拭った後、紙を取り出し文字を目で追いながらメモを書いたであろう人物へ文句を呟く。


「さて、楽観的に考えていましたが少々状況が変わってきましたね」


 何の躊躇いもなく近くの墓石へと腰を下ろし、どうするべきかと眉を寄せる。

 

「まずはあれをしっかり観察しないと。今のまま突っ込めば、本当に首と胴体が離れてしまいそうです」


 怪物に突撃し簡単に殺される瞬間をリアルに想像してしまい背筋がゾクリとする。


「とりあえず、怪物が私に気付くギリギリの距離を測るとしましょうか……やりたくないですね、ホントに」


 直接見てしまった事で、怪物に近付くという行為がとてつもなく危ない橋を渡ろうとしている事を理解させられてしまった。

 しかし、殺人鬼として自身が定めた殺す条件を怪物が満たしているが故に中止すると言う選択肢はなく、深い溜息を吐き出し覚悟を決める。


「さて、唸り声だけは何故か離れても聞こえてくることですし。さっさと行きましょうかね」

 

 椅子代わりにしていた墓石から重い腰を上げ唸り声のする方向を確認する。


「あちらのようですね。それにしても何故近づいてこないのでしょう?」


 声はするのに何故か一定範囲から近付いてこない怪物の様子に首を傾げるも、今は関係ないと余計な思考を追い払い怪物が居るであろう方向へと進んでいく。


「ん? 簡単に追いつきましたね。まぁ何時間も歩きたくはないので助かりますね」


 歩き始めてから十分も経たないうちに怪物の姿が見えてくる。


「さて、ここからが勝負ですね……気付かれたら死ぬかも知れないと思うとゾクゾクしてきます」


 野生の動物すら気付けない状態まで気配を殺し墓石に隠れるように移動しながら怪物へと静かに近付いていき、拍子抜けするほど簡単に手を伸ばせば届く距離まで近付けてしまい思わずまじまじと怪物を見てしまう。


 身長は三メートルはあるその身体に申し訳程度に纏っているボロボロの服からは血色の悪い青色の肌が見え、丸太程の太さもある手足、その手には3メートルという巨体に合わせたかのような巨大なハンマーが握られ、地面に一本の跡を残しながらズルズルと引きずっている。


(これが番人? 勇者の墓地に何故こんなものが居るのか分かりませんが、とりあえず鍵を戴くとしましょうか)


 あっさりと近付けたことに嫌な予感がよぎる、それでも鍵を手に入れるチャンスを逃すわけにはいかず、腰にぶら下げている鍵を掴み取る。


「おでのだがらものがえぜぇぇえええぇぇえ!!」

「!!?」


 鍵を奪った瞬間、急変した怪物が大声をあげ、こちらへと振り向き、ハンマーを振り上げる。


「な、取り戻される前にって、こう言うことですか!」


 危険を感じ無意識に横へ飛び退くと、さっきまで立っていた場所にハンマーが振り下ろされ、小さなクレーターが出来上がる。


「喰らったら、一撃でお陀仏ですね」


 想像以上の威力に冷や汗が流れ落ちる。


「おでのぉ!! だがらものぉぉおおお!!」

「くっ、何言ってるか分かりませんよ!」


 だみ声で叫びながら走ってくる怪物の迫力に顔をひきつらせる。


 ぐるぐると無駄に働く思考をかき消すように地面を揺らす激しい足音に、このままでは捕まってしまうと気付き背を向けて全力で走り出す。


「嘘でしょう!? 何であの巨体で振り切れないんですか!」

「おぉおおおおぉぉ!!」


 全力で走っているはずなのに、ハンマーで墓石を砕きながら追い掛けてくる音が離れるどころか、徐々に大きく近付いてきていることを知らせてくる。


「こんな所に送った女神様に文句を言わないと、やってられませんよっ!」


 後ろを振り返ると、怪物が巨大なハンマーをスイングしている姿が映り、慌てて前へダイブするように跳ぶと、すぐ真上を凄まじい速度のハンマーが通り過ぎ、横にあった墓石を粉々に砕く。


「ああ! これは死ぬ、せめて武器とかないと刃向かうことすら出来ません、くっ」

「にがざねぇぞぉおおお! にがざねぇがらなぁあぁああ!」


 すぐに体制を立て直し走り出すも、ハンマーの射程距離内から抜け出せず、振り下ろされた風圧で勢い良く転ばされてしまう。

 

「絶体絶命ってこういうことを言うのですかね、どう思います? 怪物さん」


 振り返ると、血走った目の怪物が激しい鼻息とよだれを垂らしながらゆっくりと近付き見下ろしてきている。


「ふしゅうぅぅうぅ……おでのぉ」


 怪物が砕いた墓石の欠片を、気付かれないように拾い上げる。


「おでのぉ、だがらものぉぉおおお、がえぜぇええ!」

「嫌といったら、どうなるんでしょうねぇ?」

「だだぎづぶすぅううぅぅ!!」


 怪物に向かってニタリと笑みを浮かべ首を傾げてみせると、その仕草にキレたのか叫びながらハンマーを両手で振り上げる。


「遠慮しますよっと!!」

「おでのめがぁぁあ!! いでぇえええよぉおおぉぉ!」 


 両手を振り上げたことで、無防備になった顔めがけて石を投げつけると、石が目に直撃したのか巨体がゆっくりも後ろへひっくり返り、顔を押さえ叫びながらころげ回っている。 


「ちゃんと、効いてくれて助かりました」


 ころげ回る怪物の様子を見ながらダメージがあったことにホッと胸を撫で下ろす。


「悠長に見ている場合ではないですね、今のうちに逃げないと」


 緊張がわずかに緩んでいた事に気付き、怪物が立ち上がる前に急いでその場を離れる。





休むことなく走り続け、いつの間にか墓地の端に辿り着いていた。


「はぁ……はぁ……ここまで来ればしばらく大丈夫でしょう。走りっぱなしで休みたい気分ですが……休んでられませんね」


 柵に手を突き、激しい動悸のする胸を押さえ荒い息を整えながら怪物がいた方向を確認する。

 追ってきてないことが分かるも、休む間もなくすぐに扉を探す為に歩き出す。


「そう簡単には見つかりませんか……」


 しばらく周囲を探すも見つからず、メモにヒントはないかと思い出す。


「メモには場所の明記はなかったですし、地球の時の常識を捨てるとしたら、扉が柵の所にあるとも限らないんですよね」


 あらゆる可能性を考えると、有り得ない話ではない事に気付く。


「だとしたら、急がないと不味いですね。怪物に見つかれば、逃げれられずにゲームオーバーです」


(巨体からは想像もできないあの速度、次は逃げきれないかもですからね)


「とりあえず、女神様に転移させられた場所に行ってみましょうか」


 手掛かりもなく歩き回るわけにもいかず、最初に転移した場所に何かないかと考え、目的地に向かって歩き始める。


「そう言えば、先程から怪物の唸り声が聞こえてきませんね……一体何故!?」


 鍵を奪う前までは何処にいても聞こえていた唸り声が、今は微かにも聞こえないことに疑問を覚えた瞬間、背中にゾクリとした悪寒が走り。


 バッと振り返ると怪物が立っており、横に振られたハンマーが目の前に迫ってきていた。


「ぐっ!?」


 咄嗟とっさに後ろへ跳ぶも、回避は間に合わずに吹き飛ばされてしまう。


「やっどぉぉお、みづげだぞぉおぉおぉぉ!」

「ゴ、ゴホッ! ゴホッ! 殺気消せるんですか……」


 後ろへ跳んでいたおかげで、奇跡的に死ぬことはなかった。


 それでもハンマーのふざけた威力と、墓石に叩きつけられた時の衝撃は、骨折まではいかなくとも全身が激痛を訴え身体を動かすこともままならず、非難めいた視線を怪物に向けることしか出来ない。


「がえじでもらうぞぉおぉ!」


 怪物は叫びながら地面を踏む音もなくこちらへ近付いてくると、無防備な私へとゆっくりと手を伸ばしてくる。


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