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殺人鬼は勇者たりえるか~死霊術士~  作者: ピエロ
第一章 最初の刺客
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23話 デュラハン討伐クエスト(後)

 「それもそうですね。いずれにせよ、人間との戦いに苦しむなら貴方も私の救済対象です。安らかにその命を終わらせてあげましょう」


 救うと言う言葉には不釣合いなほど底冷えするような冷たい声を発しながら拾い上げた足元の両手剣をデュラハンへと向ける。


「戯言を! 貴殿のような命を軽んじる者に負けはせぬ!」


 ビリビリと空気を振るわせる叫び声を上げるのと同時に怒涛の勢いで迫るデュラハン。

 瞬く間に距離を詰められ振り抜かれる鎌を半身をずらし最小限の動きで避け、すれ違いざまに甲冑の隙間を狙い両手剣を突き出すも返ってきたのは鉄を斬りつけたような重い衝撃。

 両手剣を握る手の痺れから予想はしていたが当てた箇所に掠り傷一つ見当たらない事に眉をひそめる。


「まるで効いている様子がありませんね」

『カカカ、ムクロ様の力が弱いんだろ』

「まぁ、否定はしませんが……どんなに硬いものでも砕く方法はあるはずです」

『おいおい、考えてる暇はなさそうだぜ?』


 隠そうともしない相手の殺気を受け冷たい手で心臓を鷲掴みにされているような感覚にゾクリと背筋を震わせる。それでも冷静に弱点を探しだそうと相手を観察し続けられているのは墓地で先に出会っていた怪物のおかげだろう。


 一向に焦りを見せる様子のない私の姿にデュラハンは何かを企んでいると感じたのか、考える暇は与えないとばかりに縦横無尽に振るわれる鎌は激しさを増していく。


 休む間もなく振り下ろされる鎌を両手剣の刀身で受け滑らせるように軌道をずらし、胴体を狙って横薙ぎに振るわれた攻撃をしゃがむように避け、僅かな隙を見つけるたびにデュラハンへと両手剣を叩き込むも一切ダメージは受ける様子はなく、ただただ疲労のみが溜まっていく。


「はぁ……はっ……しまっ――」


 息は上がり集中力も落ち始めた私はコシュタ・バワーの上から鎌を振り上げる姿を見て防げないと判断し大きく下がり回避するも唐突にふらりとバランスを崩してしまう。


 極限まで意識を集中し反応速度を人外の域まで引き上げる事でギリギリ避けられていたがリミッターを外した状態を常人の脳が何時間も続けられる筈もなく。ピンと張り詰めていた集中の糸がぷつりと途切れ転がる冒険者の死体に足を取られ無様にも尻餅をついてしまう。

 まずいと咄嗟に顔を上げるもすでに遅くデュラハンが鎌を私の喉へと当てていた。


「あからさまなミスに策があるのかと警戒していたが、勝負あったな勇者よ」

「これは、しくじってしまいましたね」


 ピタリと当てられた冷たい刃の感触に冷や汗が伝い落ちていく。


「さぁ、大人しくその首を差し出すがいい」

「いきなり墓地に放り出されたかと思えば化け物に殺されかけ、次はデュラハンですか……」


 絶望的な状況に諦めにも似た感情に支配されながら無意識に地面へ視線を落とした瞬間、転がる死体を見て追い詰められた人間とは思えないほど戦場に大きな笑い声を響かせる。


「くく、あははははは! そうでした、そうでしたね、私は死霊術士でした」

「む? 死の恐怖に気でも触れたか」


 突如、肩を揺らし笑い出す姿にデュラハンは再び警戒の色を見せる。


「いえね、何故私はこんな無謀な戦いを挑んでいるのかとおかしくなってしまいまして」

「何を言っている? 勇者とはそういうものだろう」


 何を当然の事を言っているのかと言いたげなデュラハンの言葉に返答するように三日月を思わせる笑みを浮かべると近くに落ちていた盾を拾い上げ力の限り振り上げ鎌を弾き返す。予想外の行動だったのだろう僅かに動きが遅れたデュラハンから距離を取った私は息つく間もなく呪文を唱え始める。


「我は幾多の魂を縛るものなり、我は幾多の死を弄ぶものなり……」

「くぅ!? 何をする気だ……まさか! させぬ!」

「――故に安らぎを奪われた死者は我の前に列をなさん」


 何をしようとしているのかを理解し阻止すべく動き出すデュラハン。それを遅いと嘲笑うように黒い文字列が無数に浮かび上がると怨嗟に満ちた絶叫を放ちながら殺された冒険者の死体へ絡みつき溶けるように消えていく。

 その直後、冒険者の死体が高圧電流を流されたように激しく痙攣したかと思うと不気味な動きで次々と起き上がり出す。


「貴様はなんという事を……何処まで命を軽んじ弄べば気が済むのだ!」

「彼等は貴方と言う哀れな存在を救う者として蘇ったのです。死してなお誰かを救えるなんて素晴らしい事ではありませんか」


 アンデッドとなった冒険者達の姿を見て激昂するデュラハンの叫びにニタリと笑みを浮かべ草原を蠢く者達を見ながら正しい事をしているのだと答え。


「この外道め、次の犠牲が出る前に此処で討つ!」

「そんなに熱くなられると皆さんの腐敗が進んでしまって大変ですね。さぁ、皆さん彼を苦しみから開放してあげましょう」


 空間が揺らいで見えるほどの殺気をその身に纏わせ向かってくるデュラハン。しかし、操られているアンデッド達はその姿に恐怖を感じることはなく、自身を縛る主人の命令に忠実に従い地の底から響くような苦悶に満ちた声を上げてデュラハンへと群がっていく。


「この程度で我が輩を止められるものか!」

「そうですか、では頑張ってくださいね。彼等もやる気満々ですから」


 向かってくるアンデット達を目にも留まらぬ速さで切り裂きながら進むデュラハンも首を切断され胴体を真っ二つにされようとも怯む事なく襲い掛かってくる捨て身の攻撃にゆっくりと動きが鈍くなり始める。やがて頑強だった鎧はリミッターを強制的に外され肉体が砕けても止まることのないアンデット達の激しい打撃に少しずつ破壊されていく。


「如何ですか? リミッターの外れた人間と言うのはとても強いでしょう」

「ぐふっ! はぁ、はぁ……何処までも腐った人間め、これが勇者の所業か!」


 動きは鈍くなり地面に片膝をつく姿は目に見えて衰弱しているにも関わらず、デュラハンの怒りを宿した瞳はさらに強さを増していく。


「先ほどから聞いていれば勇者、勇者。勇者を聖人君子か何かと勘違いされているのではないですか?」

「勇者とは弱気を助け、強気を挫く者の事だろう」

「あははは、そんな勇者が居る世界は悲惨ですね。そんな無駄な信念で魔王を倒せるとは微塵も思えないですし」

「貴様は勇者どころか人ではない! 人の皮をかぶった化け物め」


 デュラハンの信じる勇者像を嘲笑の笑みを浮かべ一蹴する私に呻くような声音で侮蔑に満ちた言葉をぶつけてくる。


 そんなやりとりに興味がないとばかりにアンデッドによる攻撃は鎧を砕き、露出した箇所へ噛み付きくちゃくちゃと生々しいそしゃく音が耳へと届く。


「流石は魔王直属の四天王、これだけ食べられてもまだ向かってくるとは」

『カカッ! 早くしねぇとテディベアちゃんが呪いで死んじまうぜ?』

「ん? それもそうですね」


 元の原型が想像もつかないほど身体は半ば喰われ、どろりと露出しこぼれた内臓を引きずりボロ雑巾のような姿になりながらも、地面を這いずり此方へと向かってくるデュラハンの執念の強さに苦笑を浮かべてしまう。


 ふとケルの言葉に空を見れば既に太陽は半分以上沈んでいることに気付く。視界の端で捉えたテディの祈るように両手を強く握り締め震える姿に早々に決着をつけるべくアンデッドにとどめを刺すよう命令する。


「グブッ! ぎ、ぎざまだけは……絶対に生かしておくわけには……ごぼ、の、呪いあれ……我が輩の、消え行く命をだ、代償に……死を、宣告ずる!! 逃れられぬ……のろいを……」


 未だ無傷だった頭部へと群がられ無抵抗のままに齧られていくなか、搾り出すような声で唱えられた呪文が最後の命の灯火を燃やすようにどす黒い魔力をデュラハンから溢れていく。それはどろりと私に纏わりつくと突如頭の中を襲う無数の怨嗟の声に思わず顔を押さえ地面に片手をつく。


「やっと静かになりましたか……これは、時計の音?」


 どれほどの時間が経ったのか分からないが、ようやく声が消えたかと思えば次はカチリ、カチリと脳内に響く秒針が規則正しく進む音が聞こえ始める。そして、腕に走るピリッとした痛みにふと目を向けると禍々しくも時計に似た模様が死へのカウントダウンを刻んでいた。


「これは、時計でしょうか?」

『カカッ、それはテディベアちゃんにも掛かってる死の宣告だな。まぁ、こっちの方が何十倍も強力な代物だけどな』

「死の宣告ですか、その条件には私は当て嵌まっていなかったはずですが?」

『チッチッ、これは条件がどうとかそんな生ぬるい代物じゃねぇよ。命を代償にした神の使う力と同等の呪いだからな、人間程度が防いだり解除できるものじゃない』


 カチリ、カチリと秒針の進む腕の模様に目を向けた後、人の目に触れぬよう服の袖を下ろす。


「そうですか……まぁ一年の猶予はあるようですし、魔王討伐するくらいの余裕はありますかね」

『驚いたな、死ぬのは怖くないのか?』

「どうなんでしょうね」


 ケルの言葉にはぐらかすように曖昧な返事を返し、死の宣告から開放されたことに未だ実感が持てずに呆けているテディのもとへと歩き出す。

 目の前まで来るとようやく反応を示しこちらへと顔を向ける。


「あ……ムーちゃん、助かったの、かな?」


 すでに刻限の日暮れも過ぎ助かった事は分かっている筈だが他人の口から聞くまでは安心できないのだろう。

 不安げにこちらを見つめてくるテディに頷いてみせるとプルプルと熊の着ぐるみが震え始める。


「よかった、よかったよぉ~……ありがど~」

『カ~ッ! よかったなぁテディベアちゃん。俺様も感動で涙がとまらねぇぜ』

「何故ケルまで泣いているのかは分かりませんが、助かった感動を分かち合えているようでなによりです」


 膝から崩れ落ち大泣きするテディにもらい泣きでもするように同じく大泣きするケルにドン引きしながらも討伐証明になるだろうデュラハンの鎧の欠片を集め袋へと収納していく。


1年以上も空けてしまい申し訳御座いませんでした。

また投稿を再開したいと思いますので、どうぞよろしく御願いいたします。

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