21話 デュラハン討伐クエスト(前)
本日二回目となるギルドへ到着した私は、扉を押して中へと足を踏み入れる。
「何やら騒がしいようですが、何かあったのでしょうか」
前回来たときとは違う賑わいを見せる様子に何事かと視線を巡らせた先、受付カウンターの前で男二人、女二人の四人で組まれた冒険者のパーティーが何やら騒いでいた。
見たところ大きな怪我はないものの、ボロボロの様子から実力以上のクエストにでも挑み失敗したのだろう。
かと言って、騒いでいる内容に興味もなく、さっさと用事を済ませようと隣の受付カウンターへと足を運ぶも受付嬢の姿が見当たらない。
「何処に行ったのでしょうか……」
チリン、チリン……。
呼び鈴だと思われる手元のベルを鳴らし暫く待つも一向に現れる気配はなく、待っていても時間の無駄だと考え踵を返した時、ふと聞き覚えのある声に視線を向ける。
入り口からでは見えなかったが、騒ぐパーティーを宥めようとしていたのは、どうやらギルドカードを作成する時に世話になったアリッサのようだった。
「カイン様申し訳御座いません! 当ギルドも魔王軍が来ているという情報は入ってきておらず……」
「言い訳はいい! どうしてくれるんだ、うちの仲間が呪いを掛けられてしまったんだぞ!」
必死に頭を下げるアリッサを怒鳴り続けるカインと呼ばれたパーティーのリーダーらしき男は、今にも倒れてしまうのではないか、と言う程に青ざめ震えている魔法使いらしきローブ姿の女を指さしている。
私は呪いという言葉に興味が湧き、その場を離れるのを止め受付嬢を待つふりをしながら話を聞くことにする。
「デュラハンが使用する死の宣告を解呪出来る者がこの街には居ない為、期限が来るまでに王都へと向かって頂くしか……」
「受けた宣告は3日だ。王都まで何日掛かると思っているんだ? 馬車を使って一週間だぞ! 間に合うわけないだろ!?」
「ほ、他に助かる方法が残されているとすれば、デュラハンを討伐するのが最善……だと思われます」
「並の冒険者に倒せると思っているのか!? 死んでこいと言ってるようなものじゃないか!!」
アリッサも並みの冒険者に倒せる可能性が無いに等しいことは分かっているのだろう、俯いたその表情が苦渋に満ちている事からも読み取ることが出来る。
「くそっ! 何で俺の仲間なんだよ!? 何とか言いやがれ!!」
「――っ!」
カインと呼ばれた男は焦りから完全に冷静な判断力を失っているのだろう。
胸ぐらを掴まれたアリッサは、躊躇いもなく振り上げられた拳を見て咄嗟に目を閉じる。
盗み聞きだけで済まそうと思っていたが問題が起きてしまうと情報収集するのに後々不都合だと考え、静かに近付き横から男の腕を掴んだ。
「………あれ?」
何時までも来ない衝撃に、痛みを耐えるために強く閉じた目を開き間抜けな声を上げるアリッサ。
「何だ、何の真似だ?」
「すみません、あまりにも見るに耐えないのでつい手が出てしまいました」
カインの怒鳴り声と、私の底冷えのする声音での返事に、漸く助かった事に気付いたように此方へと視線を向けてくる。
「なぜムクロさんが此処に?」
「聞きたいことがあったのですが、解決したのでお気になさらず」
不思議な表情のアリッサへ微笑みを向けた後、血走った目で睨む男へと視線を戻し掴んだままの腕を離す。
「お前には関係ないだろ!?」
「関係あるんですよ。私もデュラハンに掛けられた呪いの解呪を頼まれたものでして」
「っ!? 何か方法があるのか?」
「ええ、それを確認したいのですよ。ですから、今は私の顔に免じて引き下がっては貰えませんか、貴方も此処で暴れても助からないと分かっているのでしょう?」
「……分かった、俺も少々頭に血が上りすぎたようだ」
呪いの解呪という言葉に昇っていた血が落ち着いてきたのか、ちらりと顔色の悪い仲間を一瞥したカインは静かに頷く。
「アリッサさん、頼みたいことがあるのですが」
「な、何でしょうか?」
自分に声を掛けられるとは思っていなかったのか、声を僅かに上擦らせながら驚くアリッサ。
「……と言うことなのですが、お願いできますか?」
「分かりました、すぐにギルドマスターに確認を取ってみます」
要件を聞き終えると、確認をすると答え受付カウンター奥の通路へと走り去っていく。
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待つこと数分、奥の通路から戻ってきたアリッサが私の前で立ち止まると、間を空けずに結果を伝えてくる。
「可能とのことでした。助けられる可能性が出てきたのもムクロ様のお陰です。さっそく手配しますね!」
「それは良かったです。これで私も約束が果たせそうですよ」
嬉しそうに報告をするアリッサに微笑みながら返事を返す私に、一礼すると忙しなくカウンターへと戻っていく。
準備が終わったのか、筒状に丸めた紙を持ち受付カウンターの前に立ったアリッサは、小さい声で呪文を唱えると無数の文字が半透明の拡声器へと形を変える。
只事ではない雰囲気に気付いた冒険者達が何事かとカウンターへと視線が集まりだす。
集中する視線に緊張しているのか胸に手を当て祈るような仕草をした後、大きく深呼吸をしたアリッサはデュラハンと思われる絵の書かれた依頼書を開くと、拡声器を通して内容を読み上げていく。
「只今より緊急ギルドクエスト、『近辺に出現するデュラハンの討伐、叉は撃退』を貼らさせていただきます!! 現在、ドッグの街周辺でデュラハンの目撃情報が多数寄せられ、被害報告も出ていおります。このままでは一般市民にも被害が出る恐れがある為、それを撃退して頂きたいのです。なお、撃退ではなく、討伐した者にはジーク・ライオネル国王より望みの報酬を与えるとのこと、参加の意思がある方は受付カウンターにて受注をお願いいたします」
拡声器によって大きくなった力強く、凛とした声がギルド全体へと響き渡っていく。
アリッサの宣言に時が止まったかのようにギルド内が静まり返ったかと思うと、先程まで和気あいあいとした空気が一瞬で研ぎ澄まされた剣の如くスッと鋭いものへと変わる。
今まで歓談していた冒険者達からクエストを受けるかどうか、撃退なら可能か、仲間と相談する声があちこちから聞こえてくる。
ギルド内の全ての冒険者に伝わったことを確認すると、カインの前へと移動したアリッサは深く頭を下げる。
「カイン様……間に合うかは分かりませんが、王都にいる解呪師に早急に此方へ来てくれるよう連絡をさせて頂きました。王都の急行便なら三日以内に到着すると思います」
「お、俺の仲間は助かるのか!?」
「はい。ですので、信じてお待ちください」
助かるという言葉に涙を浮かべたカインはアリッサの手を握ると、何度も、何度も頭を下げながらお礼の言葉を口にする。
そんなやり取りに僅かな感情も動くことはなく、眺める事に飽きた私は、一人受付カウンターへと移動していく。
「参加登録は此方で宜しいですか?」
突如やって来た私に警戒しているのか、目つきの悪い職員が訝しげな表情で此方を観察した後、静かに頷いてくる。
「では、この緊急クエストに参加致します。何せ、討伐出来れば国王より望む報奨が頂けるようですし。一般人を守る為に戦わずして、何のために冒険者になったのか分かりませんからね」
いまだ悩んでいる冒険者達の感情を逆撫でするように参加を伝えると、その声に今まで仲間同士で話し合っていた声がぴたりと止み、鋭い視線が一斉に私へと向く。
長く感じるような沈黙の後、一人、また一人と冒険者達の重い腰が上がりだす。
「ひよっこがあそこまで言ってんのに、迷ってもいられねぇな」
「儂も参加するぞい、こりゃ腕がなりますわい」
「シシシ……僕ちゃんも、参加しようかな」
思惑通り、プライドを刺激された冒険者達が次々と緊急クエストの参加登録を済ませていく。
そして、最後の一人、他の者達とは明らかに雰囲気の違う赤い和服を身に纏った女が参加登録を終わらせると、名簿を持った職員が奥へと引っ込んでいく。
(此処までは予定通り、いくら強いと言われる魔王の配下でも、何十人といるベテラン冒険者相手に無傷というわけにはいかないでしょう。とは言え、確実ではない以上、ほかの作戦も考えておかなくてはなりませんが)
参加登録も終わり各々の冒険者達が作戦について話し合っている姿を横目に考え込んでしまう。
「冒険者の皆様、参加登録はお済みでしょうか? それでは、今現在ギルドで分かっている範囲のデュラハンの情報を伝えておきます」
アリッサの声に思考の沼に沈み掛けていた意識が浮かび上がる。
其方へと視線を向けると、丁度ギルドカードにも似たカードを懐から取り出す所だった。
「皆様、ギルドカードを手元にご用意下さい」
言われるがままに自分のギルドカードを懐から取り出すと、カードの表面にデュラハンと思われる黒い鎧姿のホログラムが浮かび上がっている。
「今現在表示されているのは、過去冒険者が遭遇した際に記録された映像です。種族はアンデッドであり、見た目から騎士のような純粋な剣での戦闘を想像されるかも知れませんが、実際は精神干渉系の魔法と巨大な剣での攻撃を中心に戦う、魔法騎士だとお考え下さい。また、絶対的優位に立たれ恐怖を感じた者には死の宣告を使用してきます。この技は回避不能でありデュラハンを倒すか、解呪をしなければ解けませんので、手に負えないと判断した場合は撤退も視野に入れておいて下さい」
その後も数十分に渡り、様々な説明と作戦の打ち合わせを進めていく。
「それでは、皆様の御武運をお祈りしています!」
アリッサの願いを込めた最後の言葉を皮切りに、一斉に冒険者達がギルドを後にする。
出て行く冒険者達に混じり、ゆっくりとギルドを出て行く私は、想像に難くない結果に小さな笑みを浮かべる。
だいぶ遅くなってしまいました……。




