19話 理不尽は降ってくる
目の前には先程まで下品な笑みを浮かべていた男達が、感情を無くしたような表情で整列している。
「さて、折角救ったその魂、今も苦しむ者達の為に使って差し上げると致しましょうか」
『おいムクロ様よ、再び蘇らせておいて救ったことになんのか?』
アンデットと化したゴロツキの顔を一人一人眺めながら思案を巡らせていると、訝しげな口調のケルが話し掛けてくる。
「ええ、救ったことになりますよ。私は盗みや殺人など人の道を外れる事でしか生きることの出来ない者達の魂を、殺すことで二度とその道を進まないようにしてあげたのです」
『カカカ、分からねぇな、死霊術を使えば魂は肉体に縛られたままだと思うんだが、そこはどうなんだ?』
納得がいかなかったのだろう、説明に対して更に疑問を投げ掛けてくる。
「殺しには2種類あると思っています。一つ目が息の根を止める事で肉体的に殺す方法、もう一つは相手の思想、思考、感情、そう言った人間たらしめるモノを無くさせる事で精神的に殺す方法です」
『だから何なんだ? 分かりやすく言ってくれ』
意味が分からないと言った様子の口調でケルが聞き返してくる。
「分かりませんか? 肉体が死ねばこの世の苦しみから解放されるのは分かりますよね。では、精神が死ねばどうでしょう……思考を許さず命令だけを実行させる、自我なき操り人形を生きていると言えますか? 人を人たらしめるのは思考する事なのです、何も考えなくなった人は既に人の形をしたもの…なのですよ」
『お……おう、そうか……ムクロ様が此処まで饒舌なのは、正直どん引きだわ』
「聞いておいて失礼ですね、引き千切ってドブにでも捨ててあげましょうか?」
『カカカ、ムクロ様の力で外せたらな』
言葉通り引いている事が、髑髏の目の点滅の仕方と色から何となく分かり、冗談混じりに脅すような言葉を掛けてやれば、それを聞いたケルに焦るどころか笑いながら返されてしまう。
「まぁいいです、それより落ち着いてネクロマンサーの実験をしたことがありませんでしたね」
『まぁ、送り込んだ情報は使い方だけだしな、応用や命令の有効範囲まではこっちも知らねぇんだ、知っておくのは良いことだと思うぞ』
目の前のアンデットヘ声には出さず、頭の中だけで簡単な命令を送る。
途端に壊れた玩具のような動きで命令をこなすのを眺めながら、ケルの言葉に疑問を抱く。
「女神の情報をもってしても、ネクロマンサーと言う能力は詳しく分からないと言うことですか?」
『そうだ、使う人間によって全く別のスキルへと進化、もしくは退化してしまうからな、かなり大雑把に分けた初期の状態しか教えられねぇんだよ、教えても当てはまらないんじゃ意味ねぇだろ?』
「成る程……確かに違うスキルの説明をされても使えませんからね」
『カカカ! そう言うこった、ネクロマンサーをどう進化させるかはムクロ様次第と言うことだな』
軽快に笑うケルの言葉を聞きながら思考に耽る。
第一にネクロマンサーは死んだ者の魂を縛り操る能力だと言うこと。
第二に死んだ魂と死んだ肉体を繋ぐことが出来ると言うこと。
単純だが発展の難しい能力をどう進化させればいいのか、そう言えばアンデットの死について聞いていませんでしたね。
「ケル、聞き忘れていました。 私が蘇生したアンデットはどうすれば動かなくなってしまうのですか?」
『あん? ああ、肉体の欠損じゃ痛みは感じても死にはしないからな。 例としたら脚を切り落として動けなくする、頭を潰して視界を奪う……っても、見えなくても命令すればムクロ様の見ているものを読み取って動けるけどな。 後は、粉々に砕く、燃やす、凍結する、閉じ込める、魂の鎖を砕くと言った所か、簡単だろ?』
「はぁ……結構やり方はあるのですね。 壊れた肉体の蘇生は不可能ですよね」
思った以上に対処法が存在する事に溜め息を吐き。
別の疑問が浮かびケルへと問い掛ける。
『あるにはあるが……オススメはしないぞ』
「一応、聞かせてもらえますか? 知っておくだけでも、いざという時に使えますからね」
『分かった……方法というのは、ムクロ様の肉体の一部と魂を削って再生すると言う方法だ』
あると答えておいて説明するのを渋るケルに話すよう伝えると、渋々と言った様子で方法を口にする。
それを聞いた私は実行する者は気が狂っているのではないかと思える方法に眉を寄せる。
「肉体の一部と魂の削られる量というのは分かりますか?」
『そうだな……腕一本なら内臓か同じ腕、魂は十分の一と言ったところか』
「つまり無理をすれば十回、再生する箇所によっては一度で死ぬと言うことですね」
『その通りだ、だからオススメはしないって言っただろ。アンデットにわざわざ肉体蘇生なんて必要なのか?』
私の推測に同意するケルは無駄な情報だと思っているようだ。
確かにケルの言うとおり、今の所危険を犯してまで肉体蘇生を使う場面を想像する事が出来ない。
「普通はいらないでしょうね、何故その様な方法が存在するのか不思議でなりません」
『カカカ! スキルを生み出した神とやらの気紛れだったりしてな、何せ変わったスキルとか時折存在するみたいだしよ』
「はぁ……この世界は本当に魔王に滅ぼされようとしているのか疑問で仕方ありません」
ケルの言葉に世界が滅ぼされようとしている割には神に危機感が足りないように感じ溜め息を吐き出せば、気が抜けたのか旅の疲れがドッと溢れてくる。
「取り敢えず、休みたいですし他の詳しいことは宿に行ってからにしましょうか」
『あいよ……で、あいつ等は結局どうするんだ?』
早く休みたいと宿へ向かうと伝えれば、思い出したかのようなケルの言葉に、未だ命令通りに踊り続けるアンデット達へ視線を向け。
「ああ……忘れてましたね、折角ですし宿へ案内して貰いましょうか」
『忘れてやるなよ、ムクロ様の命令で必死に踊ってるんだからよ』
呆れたような口調のケルに肩を竦めて
「仕方ないですよ、終わりのない単純な命令がどれだけ保つのか、複数のアンデットに一度に命令を飛ばす事が出来るのか、曖昧な命令に対して何処まで柔軟に対応出来るのか……と言う私の目的は達成してましたからね」
『カカカ! それだけの検証をこの短時間で済ませていたことに驚きだぜ!』
「全て数回の命令で分かるものですよ……さて、 “この鍵の宿へ案内して” 貰いましょうか」
アンデッド達に鍵を見せながら口に出して命令する。
その瞬間、前回の命令は上書きされたのか奇妙な踊りを止め、無言のまま大通りを目指して歩き出す。
「私が場所を知らなくてもアンデッドの知識から目的地へと向かえるのは便利ですよね」
アンデッドの背中を追い掛けながらしみじみと呟く。
商店街へと差し掛かれば、ふと見知った顔のダークエルフが商人相手に値切りをしている姿を見付ける。
「なんか生き生きとしていますね、ああ見えて根は商人と言う事なんでしょうか」
『ただケチなだけじゃねぇか? まぁ、安く買うに越したことはねぇんだけどな』
「ま、確かにその通りですね、放っておきましょうか」
熱い戦いを繰り広げるジニーを放置し、商店街を通り抜ける。
「あれは……確か、街に入るときに協力してくれた人ですね」
『何を取り引きしてんだろうな? 道を踏み外してんのに救わなくていいのか?』
ふと向けた視線の先には路地裏で如何にも怪しい男と怪しい取引をしているカイジの姿。
それを見たケルのからかう声を聞きながら、その場から離れる。
「まぁ、あれは一つの商売なのでしょう、表であれ裏であれ、売られた側がどう使うかであって、売る側はニーズに応えているだけなのですよ」
『そう言うもんかねぇ』
「そう言うものです、裏の商売で表が上手く回ることもありますから」
私の説明が納得いかないのか黙り込むケルを放置して、アンデッド達を追いかけて歩き出す。
何気なく防具屋の視線を向けると、店の前でキョロキョロと周囲を見回していた異様な雰囲気を放つ熊の着ぐるみが、いつの間にか此方を見ている事に気付き、思わず視線を逸らしてしまう。
「あ~……あれには関わらない方が良さそうな気がしますね」
『いや……触れてやれよ、こっちに気付いたみたいだしよ』
「と、言われましても。近寄りたくないのですが」
ケルの言葉に拒否の意思を示していると、近付いてこない事に痺れを切らしたのかドタドタと重い足音を響かせながら近付いてくる。
『おい、あの着ぐるみこっちに近付いてきてるぞ!』
「に、逃げましょう、厄介事の臭いしかしません!」
嫌な予感を感じ着ぐるみに背を向けて走り出すと、必死な少女の声が後ろから聞こえてくる。
「ま、待ちなさ~い! 逃げないで~!!」
「嫌です! 断固拒否します!」
通行人が驚くのもお構いなしと、人の間をすり抜けながら走り続け。
『カカカ! ムクロ様速度負けてる、捕まっちまうぞ?』
「な!? 着ぐるみ着てるのに何でですか!?」
不意に聞こえたケルの声に後ろを振り向けば、ドタドタとした鈍い動きにしか見えないというのに距離を縮めて来ている姿が視界に入ってくる。
『カカカ! ムクロ様が遅いんじゃないか?』
「馬鹿言わないで下さい。人の間をすり抜けてる私が、掻き分けながら走る着ぐるみに劣るって言うんですか!?」
「ま……待ってよ~! 助けて、欲しい、んだってば~!!」
ケルの冗談に半ば叫ぶように返事を返し。
ふと後ろから聞こえていた声が遠退いたと思えば、頭上から声と影が降ってくる。
慌てて上を見上げれば着ぐるみが物凄い勢いで落ちて来ていた。
「捕まえた!!」
「は? ぐっ!?」
地面へと落ちるなりクレーターが出来るのではないという衝撃と共に土を巻き上げ、辺りを覆う土埃が晴れてくると、俯せになった男に跨がる熊の着ぐるみと言う奇妙な光景が広がっていた。
やっと19話完成です!1ヶ月に一話……酷すぎる更新ですが頑張ります。




