16話 決闘の代償
『冒険者ギルドとは、様々な素材を調達、危険害獣を討伐又はそれを捕獲、迷子捜しから、護衛までを何でも依頼として受ける場所である。』
現在、冒険者ギルド前にて、建物を見上げている三人のうち、私とエミーが初めてのギルドに感慨深そうな声を漏らしていた。
茶色を基調とした二階建ての建物は、何の意匠も飾りもなく、頑強なだけのシンプルな造りになっており、入り口には “冒険者ギルドアニマ支部” という看板が掲げられている。
「これが冒険者ギルドですか」
「みたいですね~、冒険者ギルド、ワクワクします~」
「え? もしかして、エミーは冒険者ギルドに来たことないん?」
冒険者ギルドを前にして無邪気に目を輝かせているエミーに驚いた表情で問い掛けるジニー。
「はい~、以前に魔王討伐へ向かった際は、王都から直接向かいましたから~、冒険者ギルドとかそういうのに寄る機会がなかったんですよね~」
「へぇ~、って! 王都に行ったことあるんか!? 魔王討伐に出てる最中やって聞いてたんやけど!?」
「あれ~? 言ってませんでしたか~? わたしは昔に王様の命令で討伐に出てるんですよ~」
旅をしたときの事を思い出したのか、「懐かしいですね~」等と言いながら暢気に笑っているエミー。
ジニーからすれば驚くに値するのだろう情報に教えてくれなかった事を咎めるように詰め寄り、その反応にエミーは首を傾げ改めて簡単な説明をする。
「はぁ~、エミーは毎回何かしらびっくり仰天な情報をだしてくるなぁ、怒らへんさかい他に言い忘れてることないか思い出してみ?」
「おや、怒らないとは大人になりましたね、感心感心」
「はぁ? あんた、ウチのことバカにしてるやろ?」
「ええ、してますが何か?」
「『何か?』やあらへんわ、その喧嘩買うたろか?」
溜め息を吐き出せば呆れたと言わんばかりの表情を浮かべ、他に言ってないことはないかと再び問い詰め始めるジニー。
そんな姿を見ていた私は無性にからかい気持ちなり煽るように口を挟むと面白いほど簡単に挑発に乗り睨みを利かせてくる。
「もぉ~、すぐに喧嘩始めないで下さ~い。早くギルドに入りましょうよ~」
わたし達のやり取りに怒っていると言わんばかりにエミーは頬を膨らませながら仲裁に入ってくる。
「くうっ! エミーがおらなんだら、あんたなんかスルメイカみたいに伸したんのに!」
「ええっ! わ、わたし居ない方が良かったんですか~!?」
「ちょ!? 違うで、エミーは居てやなあかん、ウチの癒しやから! 勘違いしたらあかんよ」
「はぁ……漫才はお腹一杯ですので、さっさと入りましょう」
「あんたが言うか!?」
ジニーの言葉を聞いたエミーが、驚きの声と共にショックを受けたような表情を浮かべながら落ち込む様子に慌てて誤解を解こうとわたわたと言い訳を始めるジニー。
溜め息混じりに入るよう促すとジニーがお前が言うなと言わんばかりの表情で此方を振り返りツッコミを入れてくる。
「おいおい、ギルドの前でおめぇら何いちゃついてんだ? ここはおのぼりさん気分のガキが来る所じゃねぇよ、さっさと帰りな」
ギルドの前で騒いでいることに気付いたのだろう、50代後半と思われる小麦色に焼けた肌を持つ筋骨隆々な男が扉を開き中から姿を見せる。
その雰囲気から見ても恐らく冒険者でしょう。ただのゴロツキにしか見えませんが。
「ああ、すみません、この小娘の躾がなってないばかりにご迷惑を……」
「ちょ!? 何でウチだけが悪いみたいな言い方になってんのや! あんたがちょっかい掛けてきたせいやろ!」
突然現れた冒険者に作り笑顔を向けジニーを指差しながら謝罪。
それに納得のいかない表情を浮かべたジニーが抗議の声を私に浴びせてくる。
「とにかくだ! てめぇらみてぇなガキはさっさと帰るこったな!」
「先程から私達を見下してくれていますが、よほど強さに自信がおありなんですね?」
そんなやり取りなどお構いなしとばかりに追い払おうとする冒険者。
どうしたものかと考え思考を巡らせ、手っ取り早く納得させる方法を思い付く。
冒険者に見下した視線を向け強さに自信がある者なら受けるだろうと挑発をする。
「当然だ! 俺はBランクの冒険者だぞ、新米なんぞよりよほど死線をくぐり抜けている!」
挑発に対し自身の胸へとドンッと拳当てれば予想通り自信に満ちた表情で言い切る冒険者。
「では、私達と勝負をしませんか? もちろん、負けた方の言うことを聞くという条件付きで」
「は? てめぇら正気か? そんなに言うなら相手をしてやるよ、負けたらそこの女でも貰おうか!」
そんな自信に満ちた冒険者へと条件を言い渡せばポカンとした表情を浮かべるも、すぐにニヤリと口の端を歪めればジニーを指差してくる。
「ちょ!? 何あんたら勝手に決めてん、ウチらにも許可とりーや!」
「まぁまぁ、勝てばいいのですよ、勝てば……」
「そやけど、Bランク言うたらドラゴンは無理にしても小型の害獣を簡単に倒せる強さを持っとるちゅう事やで?」
焦るジニーへと説得にもならない言葉を掛ければ、納得出来ないのか不安そうに確認を取ってくるのを無視し冒険者へと向き直り口を開く。
「決闘の勝利条件は降参と言わせるか、気を失わせるで宜しいですか?」
「おう! それで構わねぇよ」
「では、早速始めましょうか」
「後悔させてやるよ」
それを聞いた私が開始の合図を出すなり冒険者はするりと背負っていた大剣を構える。
「魔物相手に散々戦ってんだ、お前みたいなひょろひょろの奴に負けるかよ」
「そうだと良いですねぇ?」
「いくぞぉ! おらぁ!!」
目の前でダラリと脱力するように立ちヘラヘラとした笑みを浮かべている私と打って変わって、獰猛な笑みを浮かべながら先手必勝とばかりに振り下ろしてくる冒険者の大剣を半身になって避ける。
「コレぐらいは避けるか!」
「遅いですねぇ」
小馬鹿にしたような口調で挑発するわたしを追従するかのように力任せに横凪に変えてきた大剣を跳んで踏み台にしつつ冒険者へと蹴りを放つ。
「流石にすばしっこいじゃねえか、よ!」
「それはどうもです」
蹴りを上体を逸らすことで避けられ、受け身を取り四つん這いで地面へと着地した私は足を払うように蹴りを放てば、無理な体勢からでは避ける事が出来なかった冒険者はバランスを崩すも転がるように追撃から逃れるように離れていく。
「見た目の割りにはやるなぁ!」
「見た目の割りにはこの程度なのですね」
「言ってくれるじゃねぇか!!」
その後も打ち合っては避けるを数度となく繰り返し徐々にペースが乱れてきた冒険者は、此方の動きに翻弄され始め段々と身体に受ける攻撃の数が増えていく。
「はぁ……はぁ……何で息一つ乱れてねぇんだ……お前はよぉ!」
「何故……と言われましても、貴方の体力が無いだけでは?」
「……っそんなわけねぇだろ!」
数メートルもの距離を空けた私は冒険者の睨みを受けて向かい合い。
息の乱れた冒険者の質問に適当に返せばまるで手負いの獣のような形相で叫んでくる。
「そんなに知りたければ私に勝てばいいでしょう? 勝てるならですが」
「うぉおおぉお!!」
見下したかのような表情を浮かべ指で挑発してみせれば、猛牛も青ざめるのではと言う気迫と叫びを持って突進してくる冒険者。
「チェックメイト、ですよ冒険者さん」
「ぐっ!? カハッ……」
突進を紙一重で避け同時に首への手刀を打ち込めば、軽い呻き声がしたのち空気の漏れるような音と共に地面へと崩れ落ち。
「ムクロ様!? もしかして殺しちゃったりしてないですよね~!」
試合が終わった事に気付いたエミーが慌てて倒れた冒険者へと駆け寄り脈を確認し始める。
「失礼な方ですね、ちゃんと生きていますよ。それとも、殺した方が良かったのですか?」
「ち、違います! もう~、すぐムクロ様はそう言うことを言うんですから~!」
脈を取れたことに安堵したかのように胸を撫で下ろしたエミーは、私の冗談に対し拗ねたような表情で顔を逸らしている。
「で? 結局、勝ったあんたはどんな命令を聞かせるつもりなん?」
「決まっているじゃないですか、この人の泊まっている部屋を貰うんですよ、部屋の確保が出来て良かったですねぇ」
やり取りを呆れた表情で見ていたジニーが試合で出した賭けの内容を聞いてきた為、双眸を細めニヤリと口元を歪めれば部屋を奪うと答える。
「うわぁ……えげつないわあんた。流石に可哀想な気が……」
「ん? 帰るなり野宿するなりすればいいでしょう? 勇者と戦うと言う目的は果たせたのですしねぇ」
それを聞いたジニーがドン引きしたように数歩退いた後、未だに倒れて目を覚まさない冒険者に不憫そうな目を向け呟かれた言葉に対し何を当たり前の事をと言うような表情で言い返せば、引きつった表情を浮かべたジニーは黙り込んでしまう。
「さて……この冒険者が起きたら念願の宿に泊まれますよ。しかも、タダで泊まれるのですから感謝してあげて下さいね?」
いつまでも冒険者が目を覚ますのを待つのも億劫だと、両手を広げ芝居がかった口調で喋りながら倒れている冒険者へと静かに近寄るなり腹を踵で力強く踏みつける。
「ぐふぅ!? かはっ! ゴホッ……ゴホッ……ひでぇ起こし方しやがる!
」
「お早う御座います寝坊助さん。早速で悪いのですが、貴方の泊まっている宿を貰い受けますね? 勿論、代金は貴方持ちですけど」
「はぁ? まじかよ……悪魔みてぇな奴だなおめぇは!」
苦痛に目を覚まし悪態をつく冒険者の顔を覗き込みながら用件を伝えれば、驚愕に目を見開くとすぐに罵倒を浴びせてくる。
「約束したでしょう? 負けたら何でも言うことを聞くと」
「ぐっ!! ほらよ! コレが俺の泊まってる宿の鍵だ! んで、コレが数日泊まるのに必要な金だ! 最悪だぜまったく!」
「こんなに親切にしていただき、有り難う御座います」
約束と言う言葉を盾に笑顔で再確認させれば、言い返せず悔しそうな表情で鍵と金を差し出し。
嫌みを口にしながら受け取れば、目だけで人を殺せるのではないかと言う視線で一睨みしたあと冒険者は雑踏の中へと消えていく。
かくして、私達は部屋を確保する事に成功したのだった。
ようやく16話が出来ました!
遅くなってしまい申し訳ありません!!




