15話 既に一杯です
「悪いね、部屋は全部埋まっちまってるよ、残念だが、多分この付近の宿も全部埋まってる思うぞ?」
「は~!? 何でや! いくら何でも、全部の宿が埋まるなんて話、聞いたことないわ! ちゃんと説明してや!」
カウンターに座った宿屋の店主が、面倒くさそうに禿げ上がった頭を掻き、煙草をふかしながら告げてくる。
その言葉に、驚きを隠せない様子のジニーが、カウンターから身を乗り出したかと思うと、いきなり店主の肩を掴みガクガクと揺さぶり始める。
「わ! や、やめ、ろ! ちゃんと話してやる、から!!」
「当たり前や、説明もなしに納得できるかい!」
「く、苦しい……話すから、その……手を離せ!」
「ちゃんと納得のいく内容ちゃうかったら、また揺さぶんで」
「ゴホッゴホッ! なんちゅう乱暴な嬢ちゃんだ、死ぬかと思ったぞ」
首が締まり苦しそうに手をタップする店主を見て、しぶしぶ手を離し。
解放された店主は咳き込み、喉をさすりながらぶつくさと文句を呟いている。
「ふぅ……最近なんだが、王都からこの街に使者が送られてきたらしい、何でも、そいつ等が言うには新たな勇者様とやらが召喚されたらしくてな、そいつを王都へと連れて行きたいんだとよ」
「で? それが宿屋全部が埋まる理由となんか関係あるん?」
「せっかちな嬢ちゃんだな、最後まで話は聞け! でだ、どこから漏れたのかは知らんが、その迎えに来たという勇者が、この街に居るらしくてな、是非一戦交えたいと、あちらこちらから腕に覚えのある冒険者が集まったらしいんだよ。で、その集まった冒険者達が、勇者と一戦交えるまでは出て行くつもりが無いんだろうな、この街の空いている宿屋に手当たり次第に泊まってるから一杯になっちまってるって訳だ、だから諦めて帰ってくれ……悪いね」
説明を終えた店主は、いつまでも居つかれると困るとばかりに、私達を宿から追い出すと、さっさと扉を閉めてしまう。
「は? 嘘やろ……」
話に頭がついて行かなかったのか、目の前で扉が閉まりきるまで見つめていたジニーが、ポツリと言葉をこぼし呆然と立ち尽くしている。
「まぁ、かれこれ数時間は探し回ってないのですから、そう言うことなのでしょう、これからどうするか考えなくてはなりませんね」
固まるジニーを放置し、さっさと思考を切り替えた私は、次の行動をどうするか悩んでいた。
「ですね~、それにしても、勇者がここに居るなんて凄いです~、会ってみたいですよ~」
『カカカ! それ、自分も勇者だって事、分かっていってんのか?』
「わ、わわ、分かってますよ~? わたしも、ゆ、勇者ですよね~?」
『おいおい、疑問系になってるぜ? 大丈夫かよ、ドジ勇者っ娘は』
私が悩んでいる事など、別の勇者に会えることに比べたら些細なことなのか、一人夢見るような表情のエミー。
そのエミーの言葉を聞いたケルが、茶化すように聞くと、自分も勇者だと言うことを忘れていたのか、ハッとした表情を浮かべたかと思うと、誤魔化そうとするも動揺の隠せない喋り方に、ケルが心配そうに呟いている。
「なぁ、あんたら何でそんな平然としてるん? 泊まるところないんやで? 不安やないの?」
「え? 何で不安になるんですか~? 泊まるところくらい、街なんですし~、探せば見つかりますよ~」
不安の欠片も見せない私とエミーに、納得のいかない表情のジニーが聞いてくる。
それに対し、エミーは何が不安なのか分からないと言った様子で、頬に指を当て首を傾げると、すぐににっこりと安心させるような笑みを浮かべる。
「それに~、ムクロ様なら~、何かいいアイデア浮かびますよね~?」
「他人任せはよくありませんよ? まったく、そうですね……候補としてはありますよ?」
「へ? 何か方法があるんか!?」
エミーがこちらを振り返ると、問題を笑顔で丸投げし。
あまりの適当さに、溜め息を吐き出した私は文句を言いながらも、方法がなくはないことを伝えると、餌に飛び付くかのようにジニーが食いついてくる。
「ありますよ……聞きたいんですか?」
「うっ……聞きたいですけど~、嫌な予感しかしません~」
「ウチも同感や……」
興味津々の二人に、怖気の走るを笑みを浮かべながら問いかけると。
それを見た二人がゴクリと唾を飲み込んだかと思うと、急に二人で離れていき、額を当ててこそこそと相談し始める。
「どうしましょ~? 他に何か思いつきますか?」
「それが、ウチもさっぱりなんよ、けどこのままあいつの案に乗るのも不安やしなぁ……」
チラチラとこちらを見ながら相談している時間があまりにも長く、このままでは何時までも決まらないと判断した私は、微笑みを浮かべ。
「私は別に構いませんよ? 今すぐに他に方法が思いつくのなら」
「うぅ、そんな言い方卑怯ですよ~!」
「でもあんたの言うとおり、何のアイデアも無いのは事実やしな……教えてもらえるやろか」
他に案がなく断れないと分かっているにも関わらず、あえてそう言うと。
当然の如く言い返せる言葉もなく、文句の言うだけのエミーに代わり、素直に認めたジニーが、教えてほしいと言ってくる。
「いいでしょう、まぁ……簡単ですよ、泊まっている冒険者を一人こ……」
「却下や!」
「では、家持ちの住人をこ……」
「ダメですよ~?」
「むむ! なら、店主を……」
『カカカ! 女神様からアウト判定が出たぜ!』
「はぁ……何ですか、どれもこれもダメでは、話になりませんよ。このままでは野宿ですよ? 女性ならばそろそろお風呂にも入りたいでしょう? 男に襲われるかもしれないという不安を抱えて眠るのは疲れたでしょう?」
「そ、それは~、そうなんですけど~」
出す提案を全て却下され、深く溜め息を吐き出すと、心配げな表情を浮かべた私は、二人を気遣うように言葉を掛け。
心配してくれてる事が嬉しいが、提案を飲むわけにも行かないと、複雑な表情を浮かべるエミーへと笑顔を向け。
「とにかく私は早くベッドで寝たいのです!」
「そっちが本音かい! 心配してくれてると思って、損したわ!」
今までの、心配していると思わせる表情から、少し疲れた表情へと変え、本音をぶっちゃけると。
ジニーから息が詰まるのほどのツッコミを胸に受ける。
「ぐふっ!? ゴホッゴホッ……! な、何……してくれ……るんですか……」
「五月蠅いわ! あんたがアホなこと言うからや、ウチらの感動返して欲しいくらいやで!」
叩かれた場所を押さえ、非難めいた視線を向けながら言うと、更に怒り出したジニーが、腰に手を当てながら文句を言い始める。
それを面倒なと思いながらジニーから視線を逸らすと。
ふと、ジニーの後ろで慌てているエミーが視界に入ってくる。
「あわわわわわ~! ムクロ様大丈夫ですか~?」
『カカカ! ほっとけ、ほっとけ、ムクロ様なら多分平気だろ』
「そうですけど~」
心配そうにわたわたと右往左往しているエミーに、ケルが他人事のように笑いながら、ほっとこうぜと言いあっている姿に、呆れにも似た感情が浮かび、現実逃避ばかりもしてられないかと考え、再び視線をジニーへと向け。
「はぁ、理不尽ですね……それに、いきなり暴力はないでしょう?」
「理不尽やないし、さっきの暴力ちゃうで、ボケたこと言うから全力でツッコミ入れたんや」
腰に手を当て怒るジニーに、眉をしかめながら言い返すと、舌を出してあっかんべをした後に、あくまでもツッコミだと訂正してくる。
「くく……モノは言いようですね、まぁそう言うことにしておきましょうか」
先程のエミー達のやり取りを見て、だいぶ気が緩んでいた為、ジニーの訂正につい苦笑をこぼし、それ以上は言い返すのを止める。
「私としても早く休みたいのが本音ですし、譲歩しましょう、確かギルドでカードも作らなければいけませんでしたね。冒険者ギルドなら、冒険者もわんさか居るでしょう?」
痛みが治まった私は、自分のために譲歩すると言い、目的地に目的の人間は居るのかということを確認するようにジニーへと問い掛け。
「確かに冒険者ギルドなら、冒険者もわんさか居てるとは思うけど、どうするつもりなん?」
「それは行ってからのお楽しみと言うことで」
問い掛けに対してジニーが肯定するように返事をした後、何がしたいのか分からないと言う質問に、にっこりとした笑顔を浮かべはぐらかす。
「まさか、ホンマに殺したりせんやろね?」
「譲歩すると言ったでしょう? 殺しはしませんよ……私としても、無作為に殺したいわけではありませんし」
私の笑顔に何を思ったのか、ジニーが訝しむ視線を向けてくる。
その視線に、心配するような事はしないと苦笑しながら返し、誰にも聞こえないようにボソッと呟く。
「さて、それではギルドに向かいましょうか、やることが沢山あるので、日が暮れないうちに終わらせるとしましょうか」
「ムクロ様大丈夫ですか~?」
『ムクロ様は次は何をしでかすんだ?』
「何かトラブルを起こすのが前提、みたいに言わないでもらいたいですね、大丈夫ですよ、ここにいる冒険者達は皆、同じ目的で居るようですからね」
「めっちゃ不安になってきたわ……とりあえず、こっちやで」
私の案に不安そうに聞いてくる二人に、苦笑いを浮かべながら大丈夫だと返し。
いまだに不安そうな表情のジニーに案内のもと、冒険者ギルドへと足を運んでいく。
冒険者ギルドへと向かう道中、エミーが露天に釘付けになったり、ジニーが知りあいに出会い、ながながと会話するなど、色々と足止めを食らいながらも、ようやく冒険者ギルドの入り口へと辿り着いたのだった。




