14.5話 魔の国
三日? ほども更新できずすみませんでした!!
ありとあらゆる魔族、魔物が住んでいるとされる土地。
魔の国 “パンデモニウム”
空にはどす黒い雲が流れ、乾いた風が削りゆくのは荒れ果てた大地であり、植物すら生き残ることは難しく常に餓えた魔族や魔獣が闊歩する弱肉強食の世界である。
人類側が知っているのはそんな広大な荒れ地である外側のほんの一部までの事であり、荒れ地を抜けた先には魔獣や獣を食らう植物と言った更に危険な生物が生息している巨大な森、その森を更に抜けた先に実際に魔族たちが暮らしている魔の国と呼ぶ場所が存在していた。
墓地に召喚された勇者が馬車で移動している頃、全ての魔の頂点に君臨する魔王は自身の居城である漆黒の魔王城のバルコニーにてティータイムを楽しみながら読書に耽っていた。
「魔王様……神により新たな勇者が召喚されました」
「……」
「魔王様?」
突如、空間から滲むように現れたのは漆黒の執事服を身に纏う初老の男である。
執事のセバスチャンが腰を折りながら報告をするも魔王より返事がないことに疑問を感じゆっくりと頭を上げていく。
「……魔王様! しばし、読書を止めていただきたい!」
「何故……余をそっとして置いてくれないのか、一体余が何をしたというのだ……」
「お言葉ですが。魔王でありながら勇者が現れたと言うのに何も対策をしようとしないことが問題なので御座いますよ」
本を読む行為を制止する声に静かに本を閉じた魔王が嘆くように言葉を返す。
その様子に困った表情を浮かべたセバスチャンが静かに苦言を述べ。
「………はぁ」
それを聞いた魔王はうんざりと言った表情で溜め息を吐き出す。
「面倒事ばかり増やしてくれるな神どもは……何故、奴らは自らが不安の種を蒔いていると気付かぬのだろうな?」
椅子から立ち上がった魔王はバルコニーの端へと歩いていき手摺りへ手を掛け。
下から吹く風で靡く血のように真っ赤な長い髪を押さえると、静かに街を見下ろしながら執事へと問い掛ける。
「怖いので御座いましょう、神殺しが出来る可能性のある魔王様の存在が」
それを聞いたセバスチャンは淀みなく問いに答え。
「愚かだな。して、勇者の襲撃は何度目だ?」
「そうで御座いますね……先程のものを合わせると、十は軽く越えるかと」
「そうか……今回はもうそんなになるか。勇者共もわざわざ命を無駄に散らすこともないだろうに」
「これも仕方ないのかもしれませんな。召喚された勇者達はこの争いの表面しか知らず、ただ悪だと教えられたままに我等を倒すことのみを使命としていますから。魔王様が強くなればなるほど更に命を狙う勇者達は増えることでしょう」
魔王の表情は暗く刺客に向けるには不釣り合いな呟きを漏らし。
疲れた様子の魔王の呟きに無表情のセバスチャンが肩を竦めながら返事を返し。
「仕方がないな。余等の命を狙うのだ奪われたところで文句も言えまい……。それで、今回召喚された勇者はどんな奴なのだ?」
「どうと言いますか……はっきり言いますと、精神の歪んだ男で御座います」
「精神の歪んだ? もう少し分かりやすく説明出来ないのか?」
手摺りから離れセバスチャンの方へと向いた魔王は説明が理解できなかったのか綺麗な眉をしかめ不満そうに告げる。
「これはこれはすみません。そうですね、簡単に言えば殺しを楽しむ殺人鬼……と、申せば分かりやすいでしょうか」
「それでは、知能の低いそこら辺の魔物と同レベルではないか」
「いえ、それがなかなかに狡賢く。自らの能力で魔族を使役し、我らの同胞を襲わせているようです」
「今回の勇者は今までの者と比べるとかなり下劣のようだな。命を何だと思っているのだ」
不満を受けたセバスチャンは一度軽く謝り一瞬思案するように黙り込むと噛み砕いた説明へと変え。
腕を組み説明を聞いていた魔王は不愉快そうな表情を浮かべながら怒りを顕にし。
「今すぐに王の間へと魔将軍共を呼べ! そやつらには被害が大きくなる前に勇者を討ってもらう!」
「はっ、仰せのままに……」
赤黒いドレスの裾を翻し振り返れった魔王は片手をセバスチャンへ伸ばすと命令を伝える。
即座に恭しくお辞儀をしたセバスチャンは空間に溶けるようにその場から消えてしまう。
「何故そっとして置いてくれないのだ……静かに生きたいだけだと言うのに」
ポツリと呟く魔王は悲しげな表情を空へと向け。
ーーー
王の間へと到着した魔王は、王座へとゆったりと腰掛け、見守る臣下達を睥睨する。
「魔王様、新たな勇者がこの世界に召還されたと聞きましたが……我が輩達が複数で当たる方がよいのでは?」
「うむ、勇者が力を付ける前に早々に討伐するのが宜しいとわっちは思うのじゃ」
「ガハハハ! ならば俺様が行ってやろうか!! 今なら手も足も出させんうちに捻り潰してくれるわ!!」
「……どうせ……ここに来る前に死ぬのが……落ちじゃないかな……と、思うよ?」
「ふん、貴公等では話になりませんぞ、此処はこのわたくしめにお任せあれ」
ここ王の間は、大理石で作られた広大な空間に、様々な意匠を凝らしたタペストリーが飾られ、床には高級であることを想像させる手織りの赤い絨毯が入り口から王座までの道に敷かれており、魔王が座る王座には赤黒い悪魔のデザインが彫られていた。
その王座の前に揃った異形の者達はそれぞれが協調性もない発言を行っている。
異形の者達が魔王と崇める存在は、ただ何も言わず、肘を付いて手の上に顎を載せたまま、静かに見上げてくる者達を王座より見下ろすばかり。
そんな沈黙の中、異形の者達は静かに、しかし殺気にぎらついた目を魔王へと向け、下される命令を今か今かと待ちわびている。
「はぁ……」
ようやく開いて出たのは、暗く、気持ちが何処までも沈んでしまいそうなため息。
それもつかの間、ただ静かに、ただただ静かに一言告げる。
「勇者を始末してきてくれ」
その言葉を、その一言を言うだけで、全精神を傾けているかのような気だるさを見せながら。
「「御意!」」
しかし、そんな魔王の様子などお構いなしとばかりに、異形の者達は一斉に頭を垂れ、肯定の言葉を発する。
「後は任せる。だから、もう下がるといい」
頭を垂れる者達を、まるで虫でも追い払うかのように手を払う仕草をする魔王に、誰一人腹を立てることはなく。
むしろ今はそれこそが重大な言葉であるかのように、神妙に頷き静かに王座の間を退室していく。
「魔王様……少し臣下達をぞんざいに扱いすぎではありませんかな?」
「仕方ないだろう、威厳を保つってのはあんまり得意じゃないんだ」
「だからと言って、虫を追い払うかのように退室させるのは不味いかと、いずれ反発する者が現れないとも限りませぬ」
「……気をつけよう」
執事の咎めるような視線に、困った表情の魔王は言い訳がましい言葉をこぼす。
それに苦言を呈す執事の言葉に、視線を合わせないように逸らしてしまう。
「奴らは勇者を殺すことが出来そうか?」
「問題ないでしょう、我が軍の最高戦力と言っても過言ではない者達です、後れを取ることはまずあり得ないかと」
「そうか、ついでに反発する者も始末しておけと伝えておけ、禍根を残せば、何が余の命を脅かすか分からんからな」
「そう伝えておきましょう……」
何か思うところがあるのか、魔王は不安げな表情で執事へと問い掛けるも、何も心配はいらないと返し。
その返事に安心し鷹揚に頷いた魔王は、さらに追加で命令を伝えると、首肯した執事が王の間から退室していく。
執事が立ち去ったのを確認した魔王は、ゆったりと立ち上がると、風も無いはずの室内で、服が静かにはためき始める。
「余の命を狙おうというのだ、何をしても、何を犠牲にしても、死んではやらん……必ずや貴様等 “神” の命を奪い取ってくれよう、余の安寧のために!」
魔王は厳かに叫ぶ、死にたくはない為に、何度も殺された怨みを吐き出すように、そして、この世界アルカディアの外より観察する神に宣言するように叫ぶ。
「まずは! 貴様等が、余を殺しうると判断し、召喚した勇者共を根絶やしにしてくれる! そして絶望するがいい! 誰に喧嘩を売ったのかを知り、恐怖するがいい!」
その怒りだけで城が揺れ、噴き出る魔力が床や天井、壁に亀裂を生んでいく。
「余の名はグリモワール・アルカディア! 聞こえるか! 余の臣下共! 必ずや勇者を打ち倒せ! 負ければ家族が死ぬ! 友人や恋人が死ぬ! 守りたいのならば勇者を根絶やしにしろ! 余が命令するのはたった一つ! 勇者に殺られる殺れ!」
拡声器を使わず、言葉を、命令を乗せた魔力を、世界中に拡散させていく、全ての魔族に伝わるように。
ーーー
魔王が命令を飛ばしたその日より、全ての魔族が雄叫びを上げ動き出した。
勇者と戦っていた巨大な魔族は、その命令と魔力を受け取り、力を増し勇者を叩き潰す。
別の魔族は、一気に繁殖する力を手に入れ、数の力で勇者をミンチへと変える。
たった一匹で勇者を蹂躙していた魔族は、更なる力を得て、災害が起きたかのような爪痕を残しながら別の勇者を探し始める。
魔王を倒すために力を授けた勇者達が、まるで蟻を潰すかのように簡単に捻り潰されていく姿に、天上の世界より見ていた神々は焦り始める、このままでは自分達が殺されてしまう……と。
そんな出来事が世界中で起きていたその頃、ムクロ達勇者御一行は別の事態に頭を悩ませていた……
これから、魔王達の話も織り込んでいきますので、よろしくお願いします。
他の方の作品を見てたら、コメントとか誤字・脱字があったら~みたいな後書きを見るのですが……入れた方がいいのかな?




