14話 殺人鬼の心は?
顔に当たる朝の日差しに眠りが浅くなり、意識が微睡み始め。
ふと寝るときにはなかったはずの心地の良い温もりと柔らかさを頭の下から感じゆっくりと目を開ける。
「お? やっと起きたで、どんだけ無警戒で寝てるんや」
「貴女は……何でここに居るんですか?」
目を開けると上から覗き込み呆れている顔があり、寝ぼけた頭で何故テントにいるはずのジニーがここに居るのだろうかと首を傾げ。
しばらく考えるも何処にも思い当たる要素はなく寝起きのぼんやりとした声のまま問い掛ける。
「ん? そりゃ、あんたを探してたからや。まぁ一人離れた木の下で死人みたいに手を組んでる姿を見つけた時は、とうとう罰でも当たって誰かにやられてもうたん違うか~て思たんやけどな、まぁ、あんたやし自業自得で済んだのに、無事で残念やで……紛らわしいことせんといて、ホンマ勘弁して欲しいわ」
「ああ、なる程…それはそれは、心配ありがとうございます。」
無事で残念だと口では言いながら、残念そうな表情を浮かべてはいたが、最後の消えるような呟きは心配したのだと嫌でも分かってしまう。
そんな心配も、信じることの出来ない私は、気持ちのこもっていない、空気のようなお礼をこぼす。
「はぁ~、あんたのそう言う、気持ちのこもってへんお礼何とかならへん?」
「あらら、分かるものなんですねぇ」
「誰や思てんの、ウチは商人やで、相手の気持ちや表情を見んのは得意なんやで」
感情の籠もらないお礼にため息を吐くジニーに、とぼけた返事を返すと。
分かって当然やと言う姿は、まるで自慢をするようで苦笑してしまう。
「それそれは、失礼しました……所で、先程から気になっていたのですが、何故エミーは膝枕を?」
これ以上ボロを出すのを恐れた私は、話を逸らすため、未だに膝枕をしているエミーへと声を掛ける。
「あっ、それは~、地面では痛いかなって~、思いまして~」
「なる程、お心遣い感謝します」
「ジニーと同じく、そんな気持ちのこもってないお礼なんていらないです~、早く起きてくださいね~」
「いたっ……もう少し優しくしてほしいものです。ん? 以前も言った気がしますが、何処で言ったんでしょう……まぁ思い出せないということは、その程度の事なんでしょうね」
優しい笑みを此方に向けたエミーに、同じく気持ちのこもらないお礼を口にすると。
お気に召さなかったのか、膝枕から落とされてしまう。
固い地面に頭をぶつけ、文句を呟き、自分の言い方に少しデジャヴを感じるも、何処で言ったのか思い出せず、早々に思い出すのを諦めてしまう。
「何ぶつぶつ言うてんの、そろそろ兵士に確認とれたか聞きに行こうや、下手したら、今日一日また潰れるんやさかい」
「あぁ、そうでしたね……ふぁ~、聞きに行きましょうか、入れると良いですねぇ」
ジニーの急かす声に、今日の予定を思い出した、私は上半身を起こし、軽く背伸びと欠伸をこぼし。
ゆったりと立ち上がり、身体に付いた砂や汚れをはたき落としていく。
「ホンマ気の抜けるやっちゃな、急かしてるこっちが馬鹿みたいや」
「実際、慌てたところで、確認がまだなら入れないのですから、ゆっくりと行っても問題ないでしょう」
「そうですね~、慌てずに行きましょ~、それで失敗したりしたら目も当てられませんからね~」
『カカカ、ドジ勇者っ娘の言うとおりだな、急いては事を仕損じるっつう、ことわざもあるだろ? 急いでるときこそ、落ち着けってな』
一向に急ごうとしない私に、急かしていた自分が馬鹿らしくなったのか、ジニーは軽く頭を掻いている為、急いでも仕方がないと伝え。
それに同意するようにエミーが頷き、ケルが補足するように喋り出す。
「では、関所の方へ行きましょうか」
「やっとか、ほな案内するわっても、目と鼻の先なんやけどね」
そう言いながら歩くジニーの後ろを着いていくと、数分としないうちに関所へと到着する。
「ふと思ったんですけど、何時もカードを見せないと入れないんですか?」
「そないなことないよ、ホンマやったら、入国申請通したら、その日か次の日くらいには入れるんやけど、最近出回ってる犯罪者のせいで厳しくなってるんよ、迷惑な話やで」
首を数回横に振り、理由を説明したジニーは、迷惑だと言いながら肩をすくめる。
「なら、カードがない人は諦めるしかないのでしょうか?」
「そないなことないよ、時間は掛かるんやけど、過去視の魔法ってのがあってやね、過去数週間、犯罪を犯していなければ通れるって言うやり方がある、それでも多少の犯罪者は漏れるけど、ほぼコレで悪人は弾き出されるわ、っても怪しくなくても過去を見られとうないって言うて諦める連中もおるけどね」
「へぇ、そんな魔法が……また厄介な物が存在してますね……まさか、してませんよね?」
(もし、過去視を行われていたらマズいですね、計画が破綻してしまいます……最悪、傀儡を増やすことも視野に入れないと)
過去を見られた可能性を考え、冷たい感情がわき上がるも、笑顔を装い確認を取る。
「やる訳ないやん、あんたの経歴が怪しすぎんねん、過去見られて犯罪者でしたなんて事になったら、ウチまで入れんさかい、商人ギルドへの問い合わせっちゅう方法にしたわ」
私の表情から何かを察したのか、呆れ混じりの口調で、否定する。
「なる程、疑ってすみません、それで3日くらいで入れると言ったわけですね」
「ええよ、とりあえず行ってみよか、もしかしたらすぐに確認とれてるかも知れんし」
過去視が行われていないと聞いても、疑う気持ちは晴れないが、これ以上言うのは無駄だと判断し、素直に謝罪を口にする。
それを聞いたジニーは軽く笑い、兵士へと向かって歩いていく。
「ん? またお前達か、悪いがまだ確認は取れていないぞ」
「やっぱりか……商人ギルドへは聞いてくれてんのやんな?」
「もちろんだ、返事が来るまでもう少し待機してもらう」
私達に気付いた兵士が、状況を聞くよりも早く、連絡はないと伝えてくる。
それを聞いたジニーが、手違いがないか確認を取ると、問題ないと返し、追い払うような仕草をしてくる。
「さよか、ほなまた来るわ……」
「いえいえ、まだ帰る必要はありませんよ」
「ん? どういうことやろか」
「まぁ、少し見ていて下さい」
あっさり帰ろうとするのを止められた事で、不思議そうに見てくる視線に、爽やかな笑顔と言うより、今から人を殺しますと言った方がしっくり来そうな笑みを浮かべ。
「そこの兵士さん、まだ確認が取れていないと言うことですが、本当ですかね?」
「何を言っている、帳簿にはまだ確認が取れていないと記されているだろう」
先程追い払うような仕草をした兵士に近寄った私は、笑顔でもう一度確認をするように声を掛ける。
それを訝しむような視線を向けてくると、手に持っていた帳簿を見えるように広げ、何処にも書いていないことを示す。
「いえいえ、もしかしたらそこの兵士さんは聞いてるかもしれませんよ?」
「ん? あいつが? カイちょっとこっちに来い」
「へい、先輩どうしたんすか?」
その帳簿を見た私は周囲を見渡し、昨夜の内に傀儡にした兵士を見つけ指さす。
それを見た関所の兵士は、カイと言う名前の男を呼び寄せると、軽い返事とともにカイが近付いてくる。
「この男が、お前が何か聞いてるはずだと言ったんでな、どうなんだ? 商人ギルドから何か聞いているか?」
「商人ギルドからっすか? え~っと、どうだったかな?」
どうなんだと聞かれたカイは、見覚えがない為、首を傾げ悩み始めてしまう。
「おかしいですね? “商人ギルドから聞いたと言え” ば、都合が悪いのですか?」
「いえ……悪くないっす……商人ギルドから、確かに確認が取れたって言われてたっすよ……」
私の言葉を聞いた瞬間、カイは瞳から輝きが消え、ぼんやりとした表情になると同時に、抑揚のない声で答え。
「と言うことらしいので、通してもらっても宜しいですか?」
「……ああ、いいだろう、通れ」
カイの言葉ににこやかに頷いた私は、先輩兵士の方へ視線を向け確認を取る。
カイの突然の様子に訝しむような表情を浮かべるも、それ以上は追求してくることはなく、通れと入り口を顎で示してくる。
「ありがとうございます、カイさんも、“いつも通り” に過ごして下さいね」
「へ? あ、ありがとうっす?」
先輩兵士にお礼を告げ、去り際にカイへと気付かれないように命令を残し。
言葉を聞くと同時に、命令状態が解けたカイは、何故そんなことを言われているのか分からない、と言ったような表情を浮かべながらもお礼を言ってくる。
「お二方、通行許可が出たので行きましょうか、ようやく町に入れますよ」
「へ? 嘘、どないやったん?」
離れた場所で待っている二人の元へ戻るなり、通れるようになった旨を伝え。
よほど信じられないのか、ジニーは鳩が豆鉄砲を喰らったような表情で聞いてくる。
「秘密ですよ……とりあえず、早く入ってしまいましょう、宿を取らないと、安心できません」
質問に対し、口に人差し指を当てた私は、秘密ですと返し。
返事を聞くこともなく、入り口へと歩いていく。
「ちょ! 置いてかんといてや、はよエミーも行くで!」
「は、はい~! ムクロ様待ってくださいよ~」
置いて行かれたことに焦った二人が、小走りで追いかけてくるのを横目で確認しながら、ようやく冒険者の街 “ドッグ” へと足を踏み入れることに成功する。
この時、魔王が生き残るための一手を打ち始めたことを、私達は知る由もなかった。
遅い! ひたすら遅いぞこのポンコツピエロ!
と罵りたくなる気持ちを置いといて、次からは街へと入ります。
まだ世界観の説明とか、世界の形とか説明してない話は盛り沢山。
普通は先にやるもんじゃないの? とか言わないで下さいね?




