13話 悪人の利用法
「宿取ってきたで~、街の宿と比べたら、ちょいと値が張るけど、まぁ雨晒しで寝るよりはええと思うしかないね」
集団の中の一際ゴツい男としばらく交渉をしていたかと思うと、嬉しそうに戻ってきたジニーが、番号の書かれた札を一枚見せてくる。
「ええと~、一部屋というか~、一テントだけとかかな~?」
一枚しか持っていない札を見て、エミーがまさかという表情を浮かべ、恐る恐る確認を取るように声を掛ける。
「ん? そやで、何かマズいんか?」
「そ、その~、一つテントの下に三人は~、と言いますか~、男の人と同じテントで寝るのは如何なものなんでしょ~?」
何がそんなに悪いのか分かっていないのか、不思議そうに首を傾げるジニーに、もじもじと両手を絡ませながら、恥ずかしそうに駄目な理由を告げ。
「そないな事気にしてたん? エミー馬車の時は何も言うてなかったから、大丈夫やと思ってたわ……って言ってもなぁ、もうテントは空いてないし、どうしたもんやろ」
「うぅ~、すみませ~ん」
『カカカ、ドジ勇者っ娘は純情か? ムクロ様が手を出してくるとでも思ってんなら、心配いらねぇと思うけど……なぁ、ムクロ様?』
一つしか予約の取れなかった札を見て、困った様子のジニーに対し、非常に申し訳無さそうに謝っているエミー。
そこへ、馬車の中から街に着くまで、一言も喋らなかったケルがエミーを茶化すように声を掛け、何故か私に確認を取ってくる。
「ええ、ケルの言うとおり、夜這いを掛けたりなんてしませんよ、興味ないですしね」
「興味ない……うぅ~、そうですよね~、わたしに興味なんてないですよね~」
興味ないという一言を聞いたエミーが、突如落ち込み、何故か一人哀愁漂う雰囲気をまとい出す。
「何なんですか、意味が分からないですね……と、それよりケル、何故いままで喋らなかったのですか?」
『ん? それはな、ここしばらくの事をヘル様に報告してたんだよ、色々とあったしな?』
落ち込むエミーに首を傾げた後、すぐに意識を今まで静かだったケルに向け、何をしていたのかを聞く。
「ああ、なる程……そう言えば、ケルは監視も担っているのでしたね。それで? 女神様からのストップでもありました?」
その理由の説明を受け、納得した私は、女神様からの指示でもあるのかと問い掛け。
『いんや、このまま続行して構わないとさ、それと、目的を達成する為なら多少の犠牲には目を瞑るそうだ』
「ほぉ……それはそれは、重畳ですね、これでグッと進みやすくなります」
ケルの報告を受け、その内容が自分にとって都合のいい結果となり満足げに頷く。
「と、それよりテントでしたね? それなら、私は外で休むので安心して下さい」
「あ~、そうしてくれるとエミーは助かるみたいやけど、あんたはホンマにそれでええんか?」
ケルとの会話が終わり、思い出したかのように、外で休むことを告げると。
いまだに一人の世界で哀愁を漂わせているエミーに目を向けたジニーが、気遣うように聞いている。
「ええ、もしかしたら誰かのテントにお邪魔するかも知れませんが、大丈夫ですよ、なので二人でテントを使って下さい」
「そうか、ほなお言葉に甘えて、二人で使わさせてもらうわ、ほら! エミー行くで!」
気持ちのいい風が吹き抜けそうな、爽やかな笑顔を作ると、二人にテントを勧め。
私に対し、申し訳無さそうな表情を浮かべたジニーが、お礼を言った後、別世界へと意識が旅立っているエミーを引きずってテントへと入っていく。
「さて……コレで邪魔するものが居なくなったわけなのですが、どうしましょうかね?」
『どうするもこうするも、街に入れるようにする為の手は考えてあるんだろ?』
「ええまぁ、それをするには、先ずは兵士の場所を探し出さなくてはいけないんですけどね」
『そこらへんの奴らに聞きゃあ、分かるんじゃねぇか?』
「話し掛けるの嫌なんですけど、まぁ仕方ないですかね」
『ちゃっちゃと話し掛けちまえ』
「えーと、そうですね……あの方とか良いのではないでしょうか?」
外で騒いでいる審査待ちの人達を見ていると、一人だけ集団から離れている者を見つける。
一目見ただけで悪人と分かる雰囲気を出している男へと、おもむろに近付いていく。
「そこの貴方、ちょっといいですか?」
「あ? なんだおめぇは」
声を掛けると、すぐに敵意むき出しで男が睨んでくる。
その男の毒々しい紫色の髪は、寝起きのごとくボサボサのままで、ガリガリの身体には何処か質の良さそうな服を身にまとっているが、品の良さの欠片も感じることが出来ないと言った残念な結果となっている。
「いえ、貴方がこの街に入るには相応しくないような感じがしたもので、悪事でも働こうとしているのでしょうか?」
「いきなり何なんだ、俺が何をしようと勝手だろ? 関係ないやつはしゃしゃり出てくんじゃねぇよ」
しっしっと手で追い払う動作をしてくると、男はさっさと背を向けて歩き出し。
「まぁ、待って下さいよ、どうせそのままでは入れる予定もないのでしょう?」
「……チッ、話くらいは聞いてやるよ、こっちに来い」
男の肩を掴んだ私は、にっこりと笑顔でかまを掛けると。
図星だったのか、舌打ちを一つした後、周囲を見回して茂みの奥へと連れて行かれる。
「それで、お前は入れる算段でもあるのか?」
「ありますよ……それを教える代わりに、貴方には手伝っていただきたいことがあるのですよ、ああ危険なことをさせるわけではないので安心して下さい」
男が息のかかる位置まで顔を近付け、訝しむような視線を向けながら聞いてくる。
その質問に笑顔で肯定した後、情報提供するかわりの条件を出す。
「そう言うやつに限って危ない橋を渡らせて来るもんだが、しゃあねぇ、絶対に入れるってんなら、やってやるよ」
「契約成立ですね、早速ですが、打ち合わせと行きましょうか? 大丈夫、貴方さえちゃんとすれば、成功する話ですから」
少し顔を離した男は、吐き捨てるように文句を言うも、頭をボリボリと掻いた後、腹をくくったのか承諾する。
それを見た私は、怖気が走るような笑みを浮かべ、悪魔と契約したと錯覚させるような呟きをこぼす。
「……と言うわけです、出来そうですか?」
「ああ、コレくらいなら楽勝だ、それで本当に入れるんだな? 本当に大丈夫なんだな? 騙しやがったら承知しねぇからな!」
コレからして欲しい事の説明を終え、出来そうか確認するように聞くと。
男は余裕だと答え、何度も念を押すように大丈夫なのか聞いて来ると、最後に脅すように言葉を掛けてくる。
「はは、心配性ですねぇ、分からなくもありませんが、私を信じないと成功するものも、成功しませんよ?」
「分かったよ、信じてやる……絶対にしくじるなよ?」
「ええ、私の名に掛けて、成功させて見せましょう」
不安そうな表情の男を見て小さく嗤い、おどけるように注意し。
注意された男は渋い表情を浮かべ頷き、釘を刺すように言い返してきた為、優雅にお辞儀をして応える。
「ああ、名前を聞いても?」
「カイジだ、俺はお前の名前を聞かないからな、どうせ街に入ればおさらばだからな」
「そうですか、分かりました……では、作戦開始してください」
ーーー
男と別れて数時間後、詰め所に一人を残して、全員居なくなったことを確認した私は、気配を消して詰め所の中へと進入する。
「なかなかあの男やりますね、ちゃんと指示通りにこなしてくれています」
『カカカ、まさかと思うけどやんのか?』
「そのまさかですよ、女神様は、言ったのでしょう? “目的を達成する為なら多少の犠牲には目を瞑る” って」
『……はぁ、やり過ぎると判断したらストップ掛けるからな? 覚えとくこったな』
「ええ、どうぞ……では、行きましょうか」
ケルの忠告に簡単に頷き、軋むはずの床を音もなく歩き、兵士が一人眠る部屋へと静かに入り。
「もう寝ているのですか? 国の兵士がだらしないですねぇ?」
「んぐっ!? ん~! んん~! ぐっ……」
「そして、呆気ないですね、コレで国を守れるのか不安になりますよ」
寝ている兵士に音もなく近寄った私は、近くのベッドにあった枕で兵士の顔を押さえ、隠し持っていたナイフで心臓を一息に突き刺す。
首の頸動脈に手を当て、死んだ事を確認をし、すぐさま呪文を唱え蘇生させる。
「はっ!? 俺は死んだんじゃ?」
「ええ、私が殺しました、そして……この事は忘れなさい……ああ、鼻血の処理を忘れないように」
「はい、分かりました……」
息を吹き返した兵士は、穴が塞がっている自分の胸を確認しながら、驚愕に満ちた呟きをこぼし。
その呟きを肯定した私は、兵士に命令を残し、詰め所を後にする。
しばらく歩いていると、カイジが横へと並んでくる。
「で? 首尾の方はどうなんだ?」
「もちろん成功しましたよ、後は明日のお楽しみです」
「へぇ、何をしたのか聞きたい所だが、教えてはくれねぇんだろ?」
「勿論ですよ、何でもかんでもホイホイと教えてしまうほど、口が軽いつもりはありませんからねぇ」
首を振り、教えるつもりはないと告げた後、口をチャックするような動作をしてみせ。
「まぁいい、明日街へ入れるなら、文句はいわねぇよ」
「ああ、そうそう、入る前にコレは約束してください、入れるのは貴方一人なので、お仲間がいるなら、他の方法を考えてくださいね」
「ん? ああ、そりゃ問題ない、俺一人だけだ、でなけりゃ、どう入ろうかなんて悩んでねぇよ……それより助かったぜ、じゃあな、もう縁がないことを願う」
ふと思い出したかのように、入れる人数を伝えると、カイジは問題ないと答えた後、仲間がいれば苦労しないと肩をすくめて見せ。
用事は終わったとばかりに背を向けると、後ろ手にひらひらと手を振りながら歩いていってしまう。
それを見送った私は、何処か休めそうな場所を求め、フラフラとテント群へと歩いていく。




