12話 商人は大事な物を無くしました
「ダメだ! 身分のはっきりしない者を通すことは出来ない。身分を証明するものがないなら、他の者同様しばらく外で待機してもらう!」
街の入り口に辿り着いた私達は、関所に居る兵士によって門前払いを食らっていた。
「そこを何とか! ここに来る途中で魔物に襲われてしまって、身分を証明するためのカードを失ってしもたんよ」
「そんな事は我々の知ったことではない、怨むなら我々ではなく、襲われてしまった運のない自分を恨むんだな」
両手を合わせて、必死に頼み込むも、聞く耳を持ってもらえず、簡単にあしらわれてしまう。
「はぁ~、あかん、あの兵士、人の話を聞こうともせんわ……」
「みたいですね~、どうしましょ~?」
トボトボと元気のない足取りで帰ってきたジニーは、軽く頭を掻きながら駄目だったと悔しそうに報告をする。
それを聞いたエミーも、何も思いつかないのか、眉尻が下がり落ち込んでいる。
「すまんなぁ、ウチが証明カード無くしてしもたから、こないな所で足止め食らってしもて」
自信満々に入れると思っていただけにショックも大きいのか、落ち込み暗いオーラが漂っている。
「まったくですよ、肝心なところで使えませんね、お手上げじゃないですか」
「うぅ、面目ない……でも、魔物に襲われてたんは仕方ないやん? そら~見る目がなかった言うんは、こっちが悪いかもしれんけど~」
落ち込んでいるジニーを見た私は、少し微笑みを浮かべ、追い討ちをかけるように言葉を掛け。
それ聞いたジニーは更に落ち込み、その場でしゃがみ込みいじけたふりをすると、チラチラと此方を見てくる。
「もう、ムクロ様~! 虐めないであげて下さい~。わたしになら構いませんけど……ジニーさんは駄目です~、言われなれてないんですよ~?」
「エミ~、あいつが虐める~! 助けて~」
いじける姿を可哀想と思ったのか、ジニーを庇うように後ろから抱き締めたエミーが、非難してくる。
それに便乗するようにエミーへと救いを求めて、ジニーが抱き締め返し、泣いたふりをしている。
「知りませんよ、わざとらし過ぎて同情する気にもなれません」
ジニーの様子を見て何処に同情の余地があるのか分からず、肩をすくめて見せ。
「それよりも、罵られてもいいとか、エミーはちょっとマゾの気質でも持っているのではないですか?」
「あっ! い、いえ! ち、違いますよ~! そんなんじゃないですって~! そんなつもりで言ったんじゃないんです~!」
ジニーの泣き真似よりも、エミーの言葉の方が気になった私は、少しからかうように聞き返し。
自分でも言ったことの意味が分かったのか、わたわたと必死で言い訳をしてくる。
「ふぅん、本当でしょうか?」
特に何も言わずニコニコとした笑みを浮かべ続ける。
「本当ですよ~! た、確かに構ってくれるのが時折嬉しいとは思いましたけど~……あっ! あぅ~」
笑みを浮かべ続ける私に、言い訳を続けようとして墓穴を掘ってしまったのか、湯気があがるのではないかと思うほどに真っ赤に染まり、俯いてしまう。
「さて、と……で? 何処まで入るための話をしましたっけ?」
「全然そんな話してへんかったやろ!? 何さっきまでその話をしてましたよ風な雰囲気だしてんの!?」
エミーからさっさと意識を外した私は、ジニーに笑顔で聞き返すと。
息をつく間もなくツッコミが入り、驚いたままの口調で返される。
「いやぁ、話がいつまでも進まなさそうな気がしたので、無理矢理でも戻そうかと思いましてねぇ」
「無理矢理もええとこや、それに話が進まんのも、あんたがウチやエミーをからかったせいやと思うんやけど」
笑ったまま答えると、呆れた表情と溜め息混じりに私が悪いのだと指摘してくる。
「まぁ、そうともいいますね」
「そうとしか言わんわ!」
それに同意するように頷くと。
曖昧な言い方がお気に召さなかったのか、強く訂正されてしまう。
「はぁ、確かに私のせいでしたね、すみません」
「あんたが素直に謝ると気持ち悪いわ……なんかおかしいもんでも食うた?」
素直に謝った瞬間、ジニーは気持ちの悪いものでも見るかのように、数歩後ずさり。
何かを悩むようにジッと私を見た後、心配そうに声を掛けてくる。
「全く失礼ですね……もういいですよ。とりあえず、入る方法を考えましょう、何か案はありますか?」
未だに心配そうに見て来られる為、少し居心地が悪く感じてしまい。
話題を変えるために、話を戻していく。
「そない焦らんでも、ウチの事が確認とれれば入れると思うさかい、待ってもいいんとちゃう?」
「そうですか……それはいつ頃になりそうですかね? 魔王が更に力を付ける前に、準備を整えてしまいたいのですが」
「そうやね……早くて2日か、遅ても3日程で確認とれると思うんやけど」
最低2日の足止めは困りますね、それでなくても墓地の件から無駄に時間を取ってしまってますし……
「他に方法はなさそうですか?」
「他は……多分ないやろね、どうしても通りたいなら、証明カードが必要になってくるわ」
ジニーへ聞くと、眉を寄せ考え始めるも、それ以外には方法がないと匙を投げてくる。
「証明カードとやらが必要ですか……皆さんはどうやって入手しているんですか?」
「そやねぇ、大体は商業ギルド、製造ギルド、冒険者ギルドの3つと、後は産まれたときに教会から支給されたりとかやな、うちは教会無かったから、商人ギルドから支給されたもんなんや、うちのおとんもそうやったで……どっちも無くしてもうたけどな」
指折り数えながら、何処で入手できるかをあげていくジニー。
途中で父親の事を思いだしてしまったのか、一瞬悲しげな表情を見せるも、すぐに冗談を口にしながら笑みを浮かべている。
「……ジニーさ~ん!」
「なんやの、エミーが泣きそうになってどないすんのよ」
感極まったエミーが涙声でジニーに抱きつき。
それに困った表情を浮かべながらも、ジニーは抱き締め返している。
二人の様子の慰め合う姿に、冷たい感情が浮かぶも表情には微塵も出さず、そのまま話を続けることにする。
「……ギルドですか、他の街を跳ばしてきたのは失敗だったかもしれませんね」
しばらく悩むも、答えが出そうになく、他の街に寄らなかった事を悔やむように呟く。
「そうやね、それを今言ってもしゃあないわ、中に入れたらギルドに入って作ったらええやろ」
「そうですね……そう言えば、私達は持っていないのに、貴女一人の証明カードで入れたんですか?」
コレまでの行動から、ふと疑問が浮かび、首を傾げながら問う。
「ああ、それな、商人ギルドの証明カードを持ってたら、付き添いが持ってなくても一緒に入れるんや、ウチが身分を保障するって形でな」
「へぇ、そうなんですか……では、商人ギルドの証明カードを持つ者を脅して一緒に中に入ればよいのでは?」
入れる理由に納得するも、それでは、証明カードを持つ者を脅せばいいのではと考え。
「ところがどっこい、それは無理や」
「やけに自信満々ですね、何故でしょう?」
私の考えに、何故か自慢気に否定してくると、指を一本立てる。
「理由は二個あるんよ、一つ目に同行するには、証明カードに刻まれてる魔法を発動させて、名前と顔をカードに表示させる必要がある、コレを見て兵士が許可を出すんや」
「ん? それでは、無理矢理にでも表示させるように脅せばいいと言うことになりますが?」
簡単に問題が解決するように感じ、質問すると。
ちっちっと舌を鳴らすと、二本目の指を立てる。
「そう思うやろね、まぁ聞き。二つ目は証明カードに表示させる為の魔法の発動条件が重要なんやけど、その条件ゆうのが、証明カードを持つ者に危害を加えようとしていない事、また、悪意を持っていない事ってなってるんや、つまり、商人を脅して許可を取っても、証明カードの方はそれを認めず表示がされないんよ」
「なる程……確かにそれなら商人を襲ってまで同行させようとは考えませんね」
「せやろ?」
説明を終えた後の自慢気なジニーに、嫌みの一つも言えなくなるほどに納得していると。
嬉しそうに相づちを打ってくる。
「他のギルドの証明カードも同じなんですか?」
「他ギルドの証明カードでは同行させられへんよ、表示させる為の魔法が備わってないから、商人ギルドだけの特権や……その代わり、かなり規律とか厳しいんよね」
それならばと、他のギルドのもそうなのかと質問すると。
それに対し、商人ギルドだけの特権なのだと説明してきたジニーは、その代わり規律は厳しいと苦笑いを浮かべる。
「なる程、分かりました、説明ありがとうございます、では待つ方針で行きましょうか……明日にでも入れるでしょうし」
「ん? あんたがそう言うならそうしよか、とりあえず馬車もないし、野宿するしかあらへんね」
少し言葉に間が空いたのを不思議そうに首を傾げるも、特に気にする事もなく、私の意見に同意してくる。
「とりあえず、場所を確保するのが先決でしょうか?」
「いや、それには及ばへんよ、街に入れやんかった人等が集まって、テントを簡単な宿みたいに提供してるはずやさかい、金払てそこで休まさせてもらお」
そう言って、テントを張り出している人達に視線を向ける。
「そう言うことなら、任せてもよろしいですか? 私達はそう言うのに疎いもので」
「任せてしまってすみません~」
「任せとき! こういうのは商人であるウチの出番やで! 待っててな!」
それを見て納得した私は、エミーと共に確保をお願いする。
それを快く引き受けたジニーは、小走りで集団へと近寄っていった。
大変遅くなりました、さて、どうやって街にはいるのでしょうね?




