10話 その馬の名はコシュタ・バワー
「我は死霊を見る、行き場のない思念を掴む、自由のない器に入れる」
呪文を唱え始めると、目の届く範囲に暗い揺らめきが無数に視界に現れ始め。
その揺らめきへと、馬の死体から黒い手が無数に伸びていき鷲掴むと、一気に引きずり込んでいく。
『成功だ、これで馬車を引く馬を確保できたな!』
「そうですね……コレで無駄に歩かなくても良さそうです、あ、起きなさい!」
ケルに同意するように頷き、馬に命令する。
命令を受けた馬は身体をジタバタさせた後、器用に立ち上がる。
「は? う、嘘や、けったいな夢でも見せられてるようや」
「ジニーさん~、どうですか~? 夢じゃないですよ~?」
動き出した馬を見て、あり得ないと呟きながらポカンとした表情を浮かべていると、何を勘違いしたのかエミーがジニーの頬を摘まみだした。
「いひゃい、いひゃいでエミー、ははひてーや」
「あっ! すみませ~ん」
摘ままれた頬がとても痛いのか、慌てて摘まむ手を叩いてギブアップを伝えている。
それに気付いたエミーは慌てて手を離し、何度もペコペコと頭を下げている。
「いたた……夢やないんは分かったけど、いきなりはあかん、次するときは声掛けてや」
解放されたジニーは、涙を目に浮かべながら頬をさすり、何度も謝るエミーに苦笑いで返している。
「仲がいいのは結構なのですが、約束を忘れてはいませんよね?」
「も、勿論や! 忘れてへん、何でも言い!」
仲良くわいわいとしているジニーに笑顔で問い掛けると。
悔しそうに顔をしかめるも、逃げる気はないと自分の胸を叩いてみせる。
「では早速と言いたいところですが、生憎まだ内容は決まってないんですよねぇ」
「はぁ? あんだけ時間あったし、何かあったから確認まで取ったんとちゃうん?」
どんな内容が来るのかと不安で身構えていたのか、まだ決まっていないと伝えると、驚いた表情で聞き返してくる。
「まぁ、何でもと言いましたし、コレクションにするのも良いかと思ったのですけどね」
顎に手を当て、考える素振りをしながら言い。
「その、コレクションが何かは聞かんとくわ、人間をコレクションって部分だけでも怖いのに、あんたが言うと洒落にならへんくらい怖いわ」
そんな私の言葉を聞いて、肩を抱くようにして身震いする。
「ええ、是非そうして下さい、逃げられても面倒なので」
「逃げられる自信のあるコレクションって、あ~、やっぱええわ、聞きたくない」
答えられると思ったのか、両耳を塞いで首を振ると、声を出しながら聞く気はないとアピールをする。
「大丈夫ですよ、心配性ですね、とりあえず街まで案内して下さい」
ジニーが両手を離すのを見計らい、そろそろ出発したいと伝える。
「分かった、ほなとりあえず馬車起こして馬繋ごか……それにしても首のない馬とか気味悪くてしゃあないな」
「あ~、それにはわたしも大賛成ですね~、この馬ってコシュタ・バワーみたいです~」
「コシュタ・バワーって何やろか?」
首無し馬を馬車近くまで誘導したジニーは、首無し馬と馬車を繋ぎ、引っ張らせて馬車を起こしている。
「え~と、コシュタ・バワーって言うのはですね~、デュラハンって言う首無し騎士が乗ってる馬の名前なんです~」
「げっ、マジでか、デュラハンって言ったら、魔王の配下に居てるで、死を予言する者って言われてて、魔王軍の上位に入る魔族や、何でそないな魔族の馬の名前知ってんの?」
敵の仲間の名前を聞いたからか、顔をしかめ嫌そうな表情を浮かべると、作業する手を止めることなく聞いてくる。
「いえ~、わたしの国ではそう言う名前のモンスターが出てくるお話がありまして~、その魔族の方は知らないですね~」
「そうなんか、てっきり知り合いかと思ってしもたよ、なんぼ恩人でもウチら人間の敵やったら倒さなあかんからね」
エミーはデュラハンを知っている理由を説明した後、頬に手を当てながらこの世界のデュラハンは知らないと答え。
それを聞いて納得したジニーは、安心した表情を浮かべる。
「ふぅ、よし! 馬車の準備はオッケーや、皆乗り込んでや」
整備が終わり、流れていた汗を拭うと。
離れた場所に立っている私と、側で見ていたエミーへと爽やかな笑顔で馬車を親指で指す。
「やっと進めそうですね、眠くてたまりません」
「わたしもくたくたです~」
「ちょ! 御者は誰がするん?」
『カカカ、そこの首無し馬……コシュタ・バワーなら、通りたい道を頭でイメージして命令しときゃ、勝手に進んでくれるぜ!』
私とエミーが馬車の荷台の方に乗り込むと、焦ったようにジニーが聞いてくる。
それに、御者はなくても進んでくれるとケルが答え。
「と言うことらしいので、地図と通る道の詳細をお願いしてもよろしいですか?」
「はぁ~、便利やなぁ……あ、分かった、任せとき、え~とやね?」
ケルの言葉を聞いた私は、ジニーに詳細な道を聞こうと、荷台から降り、地図を広げる。
そばに近付いてきたジニーは、通る道の風景と、道筋、注意点を答えていく。
「首無し馬……」
『おいおい、せっかくドジ勇者っ娘がいい名前教えてくれたのに、そっちで呼ぼうぜ』
「はぁ、名前など不要でしょうに……分かりました、コシュタ・バワー、私が行きたい道を伝えるので、それにそって走りなさい」
道を覚え、馬に命令しようとすると、ケルからの不満の声が挙がる。
どうでもいいと返すも、特に否定する必要もないため、呼び方を訂正し、命令する。
命令を受けたコシュタ・バワーは、嘶きの代わりに蹄で地面を叩く音で応えてくる。
「では、乗り込みましょうか……私は寝るので、なにかあれば起こして下さいね」
「わたしも寝ます~」
「ウチも休まさせてもらうわ、色々ありすぎて疲れてもうた」
『おいおい、独りで監視かよ……まぁいいけどよ、んじゃゆっくり休んでくれよ』
馬車に乗り込んだ私達は、あまりの疲れから、泥のような眠りへと落ちていった。
ーーー
眠りに落ちてから何時間経ったのか分からないが、何か違和感を感じ、私はゆっくりと目を開く。
「ケル……周囲に何かいますか?」
寝ている二人を起こさないように、小声でケルへと声を掛ける。
『ああ、気付いたのか、肯定だ、多分勇者の復活に気付いた魔族の連中だろ』
「魔族? それより、勇者が復活したと何故分かるのですか」
『ん? そりゃ、魔族の住処ぶっ壊しといて、気づかれない方が不思議だと思うが?』
嫌な予感がし、恐る恐るケルに問い掛ける。
「まさかと思いますが、あのゴブリン達も魔族の一員とかじゃないですよね?」
『肯定だ、カカカ、流石ムクロ様、察しがいいじゃねぇか』
「当たって欲しくありませんでしたよ、面倒事が増えたって事なんですから……で、何故コシュタ・バワーは止まっているのです?」
私の質問に、何処までも陽気な返しをしてくるケルにうんざりしながら、ふと、コシュタ・バワーが止まっていることに首を傾げる。
『ああ、そりゃムクロ様の命令にない事態が起きたから、待機状態になってんだよ、コレが死霊傀儡の面倒なところだな』
「成る程、確かにこういう場面では不便ですね……それに、ここをコシュタ・バワーで切り抜けると、狙われる可能性は?」
『確実に壊されるだろうな』
説明に納得した私は、死霊の欠点を頭の中にメモをし。
コシュタ・バワーを走らせれば危険そうかとケルに問うと、壊されるだろうと言う返事が返ってくる。
「仕方ありませんね、呪文を行使しながら戦うことは可能ですか?」
『何をするつもりかしらねぇけど、まぁ可能だな……二人を起こして手伝わせれば早いんじゃねぇか?』
静かに荷台を降りた私は、馬車を囲む十匹のゴブリン達を観察しながら答える。
「ええ、早いでしょうね……ですが、彼女等の知らない間に手駒を増やしておきたいのですよ、一度蘇生すれば、私が解除しない限り、傀儡のままでしょう?」
『……肯定だ、何がしたいのか聞いてもいいか?』
ケルが訝しむような声音で聞いてくる。
「何って……ククク、魔王の討伐をするのでしょう? 女神様のお願いですからね? 彼等には内側から殺していってもらうんですよ、魔族と言う仲間を……意識のあるままにね?」
それに、不気味なほど暗い嗤いをこぼした私は、少し楽しげな口調とは正反対に、怖気が走るほどに冷たい笑みを浮かべながら目的を話す。
言いたい事も、聞きたいことも終わりとばかりに、ゴブリン達へと視線を向ける。
それに気付いたゴブリンが一斉に棍棒やナイフを振り回しながら掛けてくる。
『そう言うことなら、黙っておいてやろう、どうせドジ勇者っ娘はその行動を反対するだろうからな、しかし、ヘル様は承諾している、魔王を討つためなら何をしても構わないと』
「ええ、ええ分かっていますよ、魔王に救いを与えたいのでしょう、永遠に生きるなんて地獄そのものですからねぇ」
迫り来るゴブリンの首を締めることで、損傷を与えることなく息の根を止めていく。
攻撃をかわしながら、声を出させることもなく確実に。
血の一滴もこぼさず殺し尽くした私は、十匹すべての死体を見据えると、エミーを蘇生した時の呪文に複数への効果をイメージした文章を加え唱える。
「我は幾多の魂を縛るものなり、我は幾多の死を弄ぶものなり、故に安らぎを奪われた死者は我の前に列をなさん」
あの時と同じように、呪文が黒い文字となって現れるが、今回はその数も膨大な量となって周囲を漂い、怖気の走る絶叫を響かせながら、十体もの死体へと巻きつくと、身体に溶けるように消えていく。
起き上がってくるゴブリン達へと命令する。
“さぁ、手始めに家族を殺し、親友を殺し、知人を殺し、恋人を殺し、魔王の仲間を殺し尽くしてきなさい”
命令を受けたゴブリン達は鳴き声一つあげることなく森の中へと姿を消していく。
遅くなってますが、頑張ります?
ここまで見てくれてる方には感謝感激です、ありがとう。




