9話 殺人鬼は商人に嫌われる
「ほんまにおおきに、おとんは助からんかったけど、ううん、これはあんたらに関係ないな、ウチの問題や」
馬車のある街道まで戻って来るなり。
頭を下げた後、父親の遺体を見て泣きそうな表情を浮かべるも、すぐに小さく頭を振ると、困ったような表情で頬を掻く。
「助けられなくて、ごめんなさい」
エミーは助けられなかったことに責任を感じているのか、俯き肩が震えている。
「ええって、これはウチらの運が悪かったんや、雇てた護衛かて見る目がなかったせいで招いた結果やしね」
エミーの様子に困り果てた商人は此方を見て、目でどうにかしてと訴えてくる。
『ドジ勇者っ娘はよくやったと思うぜ、見も知らない人を助けようなんて、そんじょそこらの連中に出来る事じゃない』
ケルが空気を読んだように、よくやったとエミーを励ましている言葉を聞き。
どう考えても悪いのはこちらではないが、慰めてもどうせ落ち込むだけだろうと考え、わざと傷をつつくような発言をする。
「そうですよ、エミーが山賊相手に遊んでいなければ助けられたかもしれませんが、これは運が悪かったのです、気にする子じゃありません」
「なっ!? あんたそれでもこの子の仲間なん!? 何で弱ってる子に鞭打つような言い方するん!」
私の慰めるどころか傷を抉るような言い方に、商人は絶句し、鬼のような剣幕で怒鳴り出す。
「いえ、いいんです~。本当の事ですから、ムクロ様はいつものことですし~」
怒っている姿を見かねて、落ち込んでいたエミーは、私と商人の間に立って視界を遮ると、商人の方を向いて苦笑いを浮かべる。
「せやかて……助けてくれた手前、あんまり偉そうに言いたないけど、こいつの言い草には腹立つわ! ちょっと面貸しい、その根性叩き直したる!」
目の前に立つエミーの肩を抱いて横へ寄せると、商人は自分の後ろを親指で差し私に向かって挑発をしてくる。
「そんな挑発をして、後悔しても知りませんよ?」
「はん! ヘラヘラしよってからに、女にばっかり戦わせて何もせぇへんモヤシ男がウチに勝てると思わんことやな! どうせ、ここまでも守ってもろてきたんやろ、見た目弱そうやしな!」
多くは喋らずに笑みを浮かべていると、大したことはないと判断したのか、散々な罵倒を浴びせながら、横転した馬車から長い弓を持ってくる。
「行くで、覚悟しいや!!」
「覚悟なんて必要ありませんよ。お仕置きして上げます」
指を指してくる美人商人に、笑みを浮かべる私とで向かい合う。
さて、どうやってお仕置きしましょうか。
そんな事を考えていると、商人が先手必勝とばかりに弓矢を放ってくる。
ーーー
「か、堪忍や! それ以上されたら、座れんようになる! 謝るさかい許して!」
戦い始めてから僅か数分、ただ弓矢をかわし接近した後、隙を見つけては尻をペンペンというより、バチンバチンし続けただけであるが、商人はギブアップし私の勝ちという結果で終わる。
「お仕置き終了ですね。反省しましたか?」
両手をハンカチで拭った後、商人へと笑顔で問い掛ける。
「酷い事するわ……まだ尻ヒリヒリすんで、女をこないに虐めて何楽しいねん、反省なんかせんで!」
しゃがみ込み、お尻をさすりながら、涙を浮かべた目をこちらに向け文句を言ってくる。
「貴女から始めておいて酷い言いぐさですね。それに私は人助けに興味はありませんので相手が傷つこうが関係ありませんね。辛いなら殺して差し上げますが?」
恨みがましい目で見てくる商人に、微笑む表情とは正反対の悪辣な言い方をしながら、優しく首に手を添える。
「け、結構や、エミーやっけ? なんやのあの男、怖すぎるやろ何であんなんと一緒におんの?」
「何でと言われましても~、言っていいのでしょうか~」
言動に驚いた商人が慌てて私から離れると、エミーへと抱きつくと。
怯えを隠す様子もなく、震えながら私を指差しエミーに問い掛ける。
『カカカ、駄目とはいわねぇが、気味悪がられてもしらねぇぜ?』
「そうですよね~」
「うぇ!? なんや急にブレスレットが喋りだしたで! あんたの方が気味悪いわ!!」
エミーの質問に律儀にケルが答えると、商人はブレスレットを凝視しながら気味悪そうに言っている。
『おいおい、いくら何でもそりゃ傷つくぜ、ひでぇ嬢ちゃんだな』
傷ついたという言葉とは裏腹に、反応してくれたことの方が嬉しいのか楽しそうな声音で返す。
「ウチは嬢ちゃんやない、ジニー・ダクルフちゅう、立派な名前があるんや。そこんとこよろしく頼むで」
『オーケー、ジニーちゃんだな、アシスタントシステムのケルだ、道中よろしく頼むぜ!』
「なんや思たより面白そうな奴やな、そこの男よりよっぽど気に入ったわ! よろしゅうな」
「わ、わたしはエミー・ライトミルです~、よろしくです~」
「エミーやね、よろしゅう」
流石テンションの高い者同士と言うべきなのでしょうか、早速打ち解けて、会話している事に驚いている。
感心しながらその様子を眺めていると、何故か二人とも私の方をジッと見ていることに気付く。
「どうかしましたか?」
「どうかしましたか? やあらへん、自己紹介してないん後はあんただけやで、さっさと名前教えてくれへん?」
「ああ、そう言うことですか……私はムクロです、以後お見知り置きを」
首を傾げて問うと、ジニーが呆れた口調で見てる理由を答え。
納得した私は、名前を名乗った後、軽く腰を曲げると気取った貴族のように芝居がかった挨拶をする。
「うわ~、その調子に乗った感じ腹立つわ~。何なんそれ格好いいとか思ってんの?」
「まさか、礼を欠いてはいけないと思ってしたのですけど、お気に召さなかったみたいですね?」
商人があからさまに馬鹿にした表情で言ってくる。
それに対抗するように見下した笑みを浮かべて返し。
「そ、それより~、ここから近くの街までって~、どれくらいの日数かかるのですか~?」
『カカカ、ドジ勇者っ娘も大変だな!』
再び喧嘩を始めそうな気配を感じ取ったのか、慌てて私達の前に入ってくると商人に質問をしだす。
「えっとやね、ここから近くの街までやと……、馬車で1日ちょい、歩きなら4日ほどで着くわ」
馬車から地図を持ってくると切り株の上に広げ、今居る場所から少し指を上にずらしていき近くの街を指差す。
「ここや、冒険家の街ドッグ、王都に近いから、色んな人種の商人や、冒険家が集う街なんやで」
「歩いて4日……そんなに歩くんですか~、それより野宿というのが怖いですよ~、ムクロ様が居ると言っても~、また山賊みたいなのが出ないとは限りませんし~」
『だな、ここいらは物騒みたいだからな』
ここに来る前の事を思い出したのか、少し不安そうにジニーを見る。
「そうやね、確かに女二人が野宿ってだめや。あんた、なんかええ案ないの?」
エミーに同意するようにジニーが頷くと地図を眺めていた私の方を見て聞いてくる。
「そうですね、あの馬車に壊れた場所は? 起こせば動きますか?」
「ちーとばかし待ってて、確認するから」
『ムクロ様には何かいい案が浮かんでるのか?』
「まぁ、考えている事はありますよ」
倒れている馬車を見て動くのか確認すると、見てくると言ってジニーが馬車の方へと走っていく。
その間に死んだ馬へと近寄った私は四肢は無事かを確認していく。
「ふむ、首は無くなってますが、足の方は問題なさそうですね」
『ああ、そう言うことか! 確かに使えるな、流石ムクロ様だぜ』
ケルはしようとしていることが分かったのか、賞賛している所にジニーが確認を終えてこちらへと向かってくる。
「確認してきたで、幌の方は少し破れてたけど車輪と車体の方は何の問題もなかった。ちゅうか、あんた何してんの?」
報告を済ませたジニーは馬の死体を確認している私を訝しむような表情を浮かべて見てくる。
「それは良かった、問題なく馬車で進めますね」
「いや、やから何してんの? 死体の馬が引いてくれるとでも言うんか?」
「そうですよ? この馬たちが引いてくれるのです、あの馬車を」
「んなアホな……そないな事聞いたことないで」
さも当然という表情で答えると、呆れた口調で返ってくる。
「知らないのだとすれば、貴女の知識が足りないだけでしょうね」
「なっ! そない言うんやったら、動くとこ見せてみい、ほんまに動いたらキスでも何でもしたるわ!」
私の言い方に腹が立ったのか挑むような発言をしてくる。
「ほぅ、何でもと言いましたね? その約束、後からなしだなんて言いませんよね?」
「当たり前や! 何でも聞いたるわ!」
念を押すように確認をした私は。
ジニーがはっきりと破らないと言い切った瞬間、ニタリと不気味な笑みを浮かべ。
「じ、ジニーさ~ん、そんな事言ったら駄目です~! その約束なしにして下さい~!」
「無理や、一度吐いた唾飲まん主義や、最後までやり通すで!」
エミーが慌てて止めるように説得するも、ジニーは無理だと首を振る。
説得に失敗したエミーが私の方を睨んでくる。
「なんと言われようと、私は約束を守ってもらいますよ? 何せ彼女が言い出したことなのですから」
「うぅ~、ムクロ様は女の子を虐めて楽しいのですか~!?」
正論を言われているせいか言い返す言葉が見つからないエミーが私を非難するような視線をぶつけてくる。
「失礼ですね、私は虐めてなどいませんよ。確認したでしょう、無しにしませんよね? って」
「エミー、あいつの言うとおりやで、これはウチが言い出したことや、黙って見とき」
私の言葉にジニーも同意してくる。
それでも、納得が行かないエミーは賭けが初めから成立していない事を訴える。
「ですけど~! ムクロ様は死者を蘇られせられるのですよ~!」
「んなアホな、それこそ信じられんわ」
エミーが止めさせる為に嘘をついていると判断したジニーは、やれやれといった風に首を振る。
「では、始めましょうか? ケルよろしくお願いしますよ」
『オーケー、しっかり覚えろよ!』
再び波のように押し寄せる情報に、眩暈を感じながらも、今度はふらつく事なく耐え。
死んだ馬を見ながら呪文を唱え始める。
最近執筆が遅くなり、すみません。




