第7話 仲間②
ユウ達がサラと歩き出してから幾らか経った。
周りの景色はすでに川辺ではなく、高木が居並ぶ林に変わっている。
先頭を歩くサラのすぐ後ろにシェンズがぴたりと付いて、何やらしきりに話しかけている。
サラも話に耳を傾けながら、時折優しい口調で相づちを返す。
先程まで怯えて震えていたのが嘘のように、シェンズはサラと打ち解けていた。やはり、シェンズには人に気に入られる素質があるようだ。
二人から少し遅れてユウが続き、さらに少し間を置いてペドロが付いてくる。
ペドロは未だサラを信用したわけではないようで、何かあればすぐに対応できるだけの距離を確保していた。
ユウはというと、今までに感じたことのない奇妙な高揚感に包まれて、夢うつつの心持ちで歩いていた。
原因はユウ自身もわかっていた。シェンズを助けるために柄にもなく大きな声を上げてしまったことである。
元々ユウは困っている人を見ると助けたいと思う質の人間だったが、尻込みしてしまって行動にうつせないのが常だった。
電車で妊婦や老人に席を譲ることも、迷っている人に道を教えることも、落とし物をした人に声をかけることさえ出来なかった。
それが、昨日出会ったばかりの女の子のために、思いがけず大声で警告をしたのである。
ユウは自分が何かとてつもない偉業を為したような気分に浸っていた。
シェンズにかけられたお礼の言葉も、ユウの気持ちの高まりに拍車をかけた。
三人がサラの提案を呑んで川辺を出発する少し前、シェンズが小走りにユウの隣にやってきた。
何か話でもあるのかと、ユウはそちらの方に顔を向けた。
シェンズはユウだけに聞こえる声で、
「さっきは勇気づけてくれてありがとう。ユウ、かっこ良かったよ」
とだけ言って微笑むと、サラ達の方へ戻っていった。
ユウにとって、女の子から(もちろん男子からも)、「カッコ良い」などと言われたのは初めてだったし、人に面と向かって感謝の言葉をもらったのも初めてだった。
そんな訳で、ユウが地に足がつかない心地で歩いていると、暗い林の先に赤い光が見えてきた。
夜空の星にしては低い所に光が見えたので、ユウ達が脚を止めて良く見ようとすると、先頭を歩いていたサラがその光を指差して「あそこよ」と、後ろに続く三人を促した。
近づいていくと、光が大きな炎であることがわかり、人の雑多な話し声も聞こえてきた。
声の感じから推測すると、ユウが考えていたよりも多くの人が集まっているようである。
ひときわ大きな広葉樹の横を抜けると、開けた土地が現れた。地面は茶色い土があらわになっていて、今通ってきた道なき道のような苔や下草は見られない。
中央に大きな焚き火があり、その周辺に性別も年齢もばらばらの人達がたむろしていた。
サラが手を振りながら仲間達に帰還を告げると、何人かが振り返り彼女を迎えた。
「少しここで待っていて。皆に報告してくるから」
そう言うと、サラはユウ達をその場に残して人の輪の中に入っていった。
サラや他の人達が何を話しているのか、ユウには聞こえなかった。
サラの報告が終わったのか、ざわめきが収まると、一人の男性がユウ達に向かって歩み出た。
男性はきれいな栗色の短髪で、均整のとれた体格をしていた。何より姿勢が良く、それが体格以上に男性を立派に見せていた。
男性はユウ達に大きな掌を差し出しながら語りかけた。
「初めまして、私はフレデリック。フレディと呼んでくれ。ここでは皆のまとめ役のようなことをやらせてもらっている」
「ここまで大変だっただろう、もう安心だ。我々は君達を受け入れる。さあ、こっちに来て君達のことを皆に教えてくれ」
そう言うと、フレデリックはユウ達の手を引いて、輪の中心に連れて行った。
輪の中心にはすでに二人の人間が立っていた。
一人は柔和な表情を浮かべた初老の女性で、もう一人は肌の色が濃く、目鼻立ちのくっきりした神秘的な雰囲気の女の子だった。
フレデリックの話によれば、二人はユウ達より少し早くにここに辿り着き、自己紹介をしている最中だったという。
ユウ達を含めた五人の新参者に集団の目が集まった。ユウ達に近い場所にサラの姿もある。
何をすれば良いのかわからずにユウが困惑していると、見かねたフレデリックがしゃべり始めた。
「皆、今日は新たに五人の仲間が我々に加わってくれることになった。大変喜ばしいことだ」
低くて落ち着いた、それでいて良く通る声だった。
「先程既に紹介が済んでいるが、サラが連れてきた三人のためにもう一度紹介しよう。こちらの女性はオヨンチメグさん。モンゴルの方だ」
名前を呼ばれて、初老の女性がにこりと微笑んだ。
「彼女は『この世界は有限だが、人が端まで辿り着けないほどには広い』という真理をつくったそうだ」
そこまで話し終わると、フレデリックは「次は君の番だ」というように女の子の背を優しく押した。
一歩前に出た女の子は、小鳥が鳴くような声で紹介を始めた。
「わたしの名前は、ヴィマラっていいます。ムンバイで、お父さんと、お母さんと、暮らしてたの」
のんびりとしたヴィマラのしゃべり方に、場の空気は緩みに緩んだ。だが、彼女の次の一言で、場の空気は大きく変わった。
「わたし、『この世界では魔法が使える』と良いなあって、お願いしたの」




