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第5話 出会い④

 ユウが目覚めると、すでに周りは暗くなっていた。

 ユウは川辺の平らな場所に仰向けで寝かされていて、近くには、どのようにしておこしたのか、焚き火が暖かな光を放っていた。

 頭だけを上げて辺りを見回したが、シェンズの姿はなかった。

 代わりに、焚き火のかたわらに一人の少年が座っていた。


 炎の光が強くないために良く見えなかったが、少年の肌は黒く、手脚は細かった。

 もっとよく見ようと、ユウが用心深く上体を動かした時、少年と目が合った。

 切れ長の目がユウを見ている。

 獲物を狙う捕食者のように、冷たくて油断のない視線にユウは身体を強張らせた。

 ユウが本能的に「しまった」と思った時、少年の厳しい目が急にゆるんだ。

 目尻が下がり、口を大きく開けた満面の笑みで、少年はユウに近づいてきた。


「おお、目が覚めたのか。良かった、良かったなあ」

「大丈夫か。もう起きても良いのか」

「ボーとしてるな。どうした、元気ないか」

「取り敢えず、これでも食べろ。少しは元気になるぞ」


 次から次にしゃべりながら、ユウの身体を揺すったり、叩いたり、抱きついたりした。

 遂にはユウの口の中に何やら土臭いものを詰め込んで、満足そうにしている。

 何がおこったのか全くわからず、ユウがキョトンとしていると、何者かに背中から勢いよく抱きつかれた。

 振り返ると、そこには、眉をつり上げながら半分泣きのシェンズがいた。


「もうっ、心配したんだから。ユウったら急に倒れちゃって、呼んでも返事しないし、目覚まさなかったらどうしようかと思ったんだから」


 今にも泣き出しそうな表情で、両手で背中を叩くシェンズをなだめながら、ユウは意識を失っている間に何があったのかを、二人に聞いた。



 二人の話によると、少年の名はペドロといい、ユウやシェンズと同じく、昨日、「新世界」にやってきたばかりだった。

 一人で知らない土地に投げ出されたペドロは、同じ境遇の人間を探して歩き回った。

 川の流れに沿って歩いていると、川辺に倒れていたユウとずぶ濡れのシェンズを見つけたので、声をかけ、ユウの看護をしてくれたのだそうだ。

 近くの林から小枝を集めてきて、火をおこしたのもペドロだった。



 ペドロはとても陽気で、よくしゃべる少年だった。

 端整な顔立ちに引き締まった長身の持ち主で、黙っていれば二枚目俳優といったなりをしていた。

 それでいて、周囲を良く見ていて、気が回る。

 ちなみに、ユウが目覚めた時、ペドロが口に入れてきたものは植物の根っ子だった。

 食べれば少しは回復の足しになるだろうということだったようだ。


「ここじゃあ、飢えることなんてないはずなんだけどな……」


と、独り言のようにつぶやいていたが、その意味はよくわからなかった。


 三人は草の根をかじりながら(苦々しい顔をしていたシェンズは、早々に根っ子を吹き出して、食べるのをやめてしまったが)、色々なことを話した。

 自分たちのこと、「新世界」に来てからのこと、この先のことなど、話の種は尽きなかったが、話し合いはあまり煮詰まらなかった。

 ペドロがやたらと話を広げたがるのも一因だった。

 

 どのくらい話したのか、ペドロが、

「そんなことよりさ……」と、新しい話題を持ち出そうとした時、急にシェンズが目を見開いて震えだした。


「どうしたんだ、シェンズ。悪魔か亡霊でも出たのか?」


と、冗談交じりに尋ねるペドロには答えず、シェンズは視線の先を指差した。

 ユウとペドロがシェンズの示す先を見ると、石と石の間から白い蛇のような生き物が、鎌首をもたげて進み出たところだった。


 その生き物は火の一番近くに座るシェンズの方にまっすぐに地を這って来る。

 それは、けして大きくはなかったが、ユウは金縛りにあったように動けない。

 ただ、自分の近くをそれが通り過ぎるのを目だけで追うのが精一杯である。


 いよいよそれがシェンズの目の前までやってきた時、それまで全く動かなかったペドロが後ろからそれに飛びついた。

 首の後ろの辺りを掴むと、足下の石の上に思いっきり打ち付けた。

 ユウとシェンズが呆気にとられていると、手頃な石をつかんだペドロは、動かなくなった蛇の頭を石で叩き潰した。

 その後、手際よく身から皮を剥がすと、流水で軽く洗い、焚き火の周りにある大きめの石の上にそれを置いた。


 蛇の肉が焼けていくのを黙ってみている二人の視線に気付いたペドロは、


「これはやらないぞ。俺の獲物だからな」


と言って、蛇の上に覆い被さるような姿勢をとった。


その言葉で我に返ったのか、シェンズが、


「何で、何で分けてくれないのよ。ケチッ」


と不満げにまくし立てた。


 ユウはとても蛇を食べたいとは思えなかったが、そこは三人の生きてきた文化や境遇の違いだろう。

 ペドロはシェンズの言葉など気にする素振りもなく、


「俺も二人を完全に信用したわけじゃないからね」


 と返した。表情は先程までの笑顔に戻っている。


「俺が苦労してとった食料を、今日会ったばかりの奴に、ただで分けてやることは出来ないよ」


 シェンズはおなじみの眉をつり上げて唇をとがらせた顔で何か言いたげにペドロを見た。

 それに気付いたペドロは、


「どうしても分けて欲しいなら、二人とも俺の家族になれよ」


と提案した。


「家族?」


 驚いたユウとシェンズが、すっとんきょうな声で聞き返すと、


「シェンズが俺の女になって、ユウが弟になれば良いんだ」


 平然とペドロは答えた。


「馬っ鹿みたい」


と、シェンズは頭を振って冷ややかな目でペドロを見た。


 その視線を受け流しながら、


「じゃなきゃ、俺と対等の相棒になるんだな」


 そう言って、ペドロが満面の笑みを浮かべた時、近くで何かが草を掻き分ける音がした。

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