第4話 出会い③
翌日、明るくなってから歩き始めると新たな発見があった。
真っ平らだと思っていた大地には小さいながらも起伏があったのだ。
どちらを向いても同じような草原が広がるなかで、ユウは錯覚に陥っていたのかもしれなかった。
しかし、二日目になって、やたらと疲れる場所があることにユウは気がついた。
先に行くシェンズに休憩を提案しようと頭をあげた時、シェンズは明らかにユウよりも高い場所を歩いていた。
確かに前日も遠近感がおかしいと感じることがあったが、それは丘や谷のゆるやかな登り下りによっておきたものだったのだ。
二つの小さな丘を越え、三つ目の丘の頂上まで登った時、ユウとシェンズの目に今までにない景色が映っていた。
その丘を越え、坂を下ったすこし先に小さい川の流れが見えた。
二人は顔を見合わせると、川に向かって坂を駆け下りた。
あまりに急いだので途中で脚がもつれ、ユウは倒れそうになった。
転がるようにして川辺にたどりつくと、透き通った川の水を両手ですくい一息で飲み干す。
冷たい水が喉を通り、身体の奥へ流れ込んでいく。
乾いた砂が水を吸うように、身体に水が染み込んでいくのがわかった。
ユウは我慢できず、川の水面に直接口をつけて水を飲んだ。
思い返してみれば、ユウは「新世界」についてから一度も飲んだり食べたりしていなかった。
喉の渇きにも気付かないほど、気が張っていたのかもしれない。
顔をあげて顎を滴る雫をぬぐい隣を見ると、靴を脱いだシェンズが川に向かって走り出すところだった。
ユウが止める間もなく、大きな水音を立てながら、シェンズは川の中ほどよりもやや手前に飛び込んだ。
飛んでくる水しぶきを避けようとユウは手をかざした。その指の間から水面に浮きあがってくるシェンズが見えた。
水に濡れた髪の毛が光を反射してキラキラと輝き、服が身体に張り付いて、たおやかな輪郭が顕わになっていた。
ユウは何か見てはいけないものを見てしまった気がして、とっさに余所を向いた。
先程まで軽口をたたきながら一緒に歩いていた女の子とは全く別の艶っぽさが、その時のシェンズからは感じられた。
ユウの気持ちを知ってか知らずか、シェンズがユウを呼んだ。
「ユウもおいで。冷たくて気持ち良いよ。一緒に入ろうよ~」
「ごめん。僕、泳げないんだ」
とっさにおかしな言い訳をしてしまった。川の水かさはシェンズの胸くらいまでしかないのに。
シェンズは不思議そうに首をかしげながら、
「足つくから大丈夫だよ?」
と手招きしている。
シェンズの一言で自分が混乱しているのに気づいたユウは、余計に慌てた。顔が熱くなる。誰が見てもわかるほどに赤面していたに違いない。
シェンズの誘いを退け、一旦落ち着くために、ユウは再び川に頭をつけた。
水の中で目を開けると歪んだ視界に川底が見えた。
小石が散らばり、水草が緩やかな流れに揺れていた。
奇妙な感覚だった。
視界の中だけでなく、目に見えない小さな生き物やこちらに歩いてくるシェンズの動きまでが、水を通して感じられるような気がした。
意識が自分の身体を抜けて、川の水の中に溶け出していくような気がした。
心地良い脱力感とともに、ユウの意識は薄れていった。




