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第3話 出会い②

 ユウとシェンズは、夜になるまで草原を進み続けた。

 一度歩いた場所は草が踏み倒されるので、同じ所を堂々巡りする心配だけは無かったが、ユウもシェンズも、自分たちがどちらに向かっているか、わかっていなかった。

 それでも、揚々と進むシェンズの後ろについて、ユウも歩き続けた。

 歩く間もシェンズの話が途切れることはなく、シェンズの口は枯れない泉のように言葉を紡ぎ続けた。

 

「私、学校では一番足が速かったのよ。男子にだって負けないんだから」


と、得意気に笑ったかと思えば、


「でも、勉強は苦手。試験の時は友達に教えてもらって、落第点だけはとらないようにしてたんだ」


と言って小さく舌を出したり、他にも、日本に一度行ってみたいとか、自分の父親は世界で一番格好良いとか、色々なことをしゃべった。


 時には、唐突に質問が飛んでくることもあったので、ユウは相づちを打ちながら、シェンズの話に耳を傾けていた。

 適当に聞き流し、生返事などしようものなら、シェンズがまた不満げな顔を近づけてくるかもしれない。

 ユウは、シェンズを嫌っていたわけではなかったが(むしろ好意的に思っていたのだが)、あの距離で見つめられるのは勘弁して欲しいかった。シェンズの顔が鼻先にあったのを思い出しただけで、耳まで赤くなりそうだった。


 そうやってシェンズと歩きながら、時折、ユウは遠くに何かの気配を感じて立ち止まることがあった。

 周囲を見回しても、草原が何処までも広がっているだけで、物音が聞こえたわけでもない。

 ただ、直感のような曖昧なものではなく、例えるなら、そよ風が頬を撫でていくような、優しくも確かな感触をユウは肌越しに感じていた。


 少し先でユウが着いてこないことに気がついたシェンズが振り向いて、戻ってきた。


「急にどうしたの?何か見つけた?」


 シェンズに尋ねられ、どのように答えて良いかわからないユウは、


「いや、向こうに何かいる気がしたんだけど、気のせいだったみたい」


と言って、誤魔化した。

 シェンズも、ユウが指差す先を見たが、「私は何も見えないよ」と言うと、そんなこと気にしないで早く先に進もうとばかりに、ユウの手を取って歩き出した。


 夜になると辺りは真っ暗になってしまったので、二人は歩くのをやめ、その場に留まることにした。

 草の上に横になると、空には大小幾つもの星が輝いていた。それはさながら、黒いキャンバスに宝石をちりばめたようで、どこか現実離れした光景だった。

 「旧世界」にいた頃、ユウは星空を眺めて興奮を覚えることなどなかった。

 その感動を共有しようと隣を見ると、シェンズは眠たそうに目をこすりながら、大きなあくびをしていた。


「明るくなったら出発しよう。おやすみなさい、ユウ」


 そう言うと、シェンズは身体を丸めて目をつぶり、すぐに静かな寝息を立て始めた。


 こうなると、先ほどまで星の輝きに心を奪われていたユウの中に、別の感情が首をもたげだす。

 自分の邪な感情に気付き、いたたまれなくなったユウは、シェンズに背を向けるように寝返りをうった。

 それでも、二人の間の距離は背中越しに相手の体温を感じられる程度しかない。

 無防備に眠るシェンズの、スー、スー、という寝息の音にさえ、ユウは心を乱されてしまう。


 急にシェンズが寝返りをうち、ユウの方に身体を転がした。

 シェンズの頭や手がユウの背中に触れている。

 居ても立ってもいられず、自分がどうしたいのかもわからないまま、ユウは振り返った。

 昼間、顔をつきあわせた時と同じくらいの距離にシェンズがいる。

 シェンズの息が鼻先にあたって、少しくすぐったい。

 

 暗闇の中でユウが見たシェンズの寝顔は、何の不安も感じていないような安らかな表情であった。

 生まれたばかりの赤ん坊の寝顔に近いのかもしれない。

 シェンズの無邪気な寝顔を見て、ユウの緊張は一気に解けてしまった。

 毒気を抜かれ、我に返ったユウは、小さなため息をひとつすると、


「明日もがんばろう」


とつぶやいた。


 全く起きる気配のないシェンズの頭をひと撫ですると、ユウは少し離れたところに横になった。

 程なくして辺りは静まりかえり、闇夜に聞こえるのは草むらの中の二人分の寝息の音だけになった。

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