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第28話 仲直り大作戦①

「ユウ、お前ら早く仲直りしろよ」


 何の前置きもなしにペドロから浴びせられた言葉に、ユウはドキリとした。


 ペドロが何の事を言っているのか直ぐにわかった。シェンズとの仲のことだ。

 ユウがヴィマラと空を飛んだ日から、シェンズの態度が明らかに変わった。

 ユウが近くにいると機嫌が悪く、声をかけても取り合ってくれないことが多かった。

 それでいて、いつもユウの方をじっと見ているのだ。


 そんなことが続いたので、この日もユウはペドロ達に交ざって探索に出ていた。

 ユウが探索班として森に入るようになってから、既に三日経っている。

 男性だけの探索班の雰囲気をユウは気に入っていたが、それ以上に居残り班の気まずさがユウを探索班に留まらせていた。


 2人の微妙な空気を周りの大人達も察しているようだ。


「お前らみたいな無邪気を絵に描いたような子どもが険悪だとな、大人は色々と気を揉むんだよ」


 皆がギクシャクして場の雰囲気が悪くなるから早く仲直りしろ、というのがペドロの言い分だった。


「ペドロだって子どもじゃないか」

「俺は悪ガキだから、空気壊すくらいでちょうどいいの」


 ユウは不平を返してみたが、ペドロにさらりとあしらわれた。


 ユウ自身も現状のままで良いとは思っていない。

 しかし、シェンズが何をそんなに怒っているのかわからないので対応に困っていた。


「どうすればいいんだよ。謝ればシェンズの機嫌も直るかな」

「ユウはシェンズの怒っている理由に心当たりでもあるのか」

「それが全然。何でシェンズはあんなに怒っているんだろう」


 愚鈍に能天気を重ねた様なユウの答えにペドロは肩を(すく)めて首を振った。


「い・い・か、良く聞け。理由もわからないのに格好だけ謝ったって、直ぐにばれるぞ。女はそういう感が鋭いからな。そしたら、それこそ火に油だ。治まるものも治まらない」


 やたらと語気を強めるペドロに気圧されて、ユウは一歩退いた。


「じゃあ、どうすればいいのさ。いい考えがあるならペドロの知恵を貸してよ」


 率直に助けを求めるユウの態度にペドロの自尊心は満たされた。

 劇がかった口調でペドロは話し始める。


「いいだろう。この私が迷えるそなたに一計を案じようではないか」


 胡散臭い預言者が神意を伝えるかのような話し方に、ユウは小さく吹き出してしまった。

 真面目に話している最中であっても、ペドロはどこかでおふざけを入れたがった。


「別に機嫌を取る方法は幾つもあるんだぜ。今みたいに笑いに持ってくのも一つの手だし、他にもプレゼントとかな。女っていうのは特別扱いされると喜ぶんだ」


 ペドロの経験則なのか、はたまた一方的な偏見なのか、どちらにしても女性達には聞かせられない言い様である。

 そんなことを話しているうちに、2人と他の探索員達との距離は少しずつ広がっていった。


 気が付くと二人は見たこともない場所に取り残されていた。

 日の光が届かない森の中は昼でも薄暗く、覆い被さる様な湿気が不快感を(つの)らせた。

 虫の音や鳥の羽ばたきに交じって、時折、動物の鳴き声が聞こえる。

 (むせ)るような土と草の臭いがユウの不安をことさら掻き立てた。


 一方ペドロは何かを気にする素振りもない。

 来た道には(しるし)をつけているし、見上げれば天を覆う枝葉の間から目印の大樹も確認できる。


「ユウは心配性だな。せっかくだから、もう少し先まで行ってみようぜ」


 楽観的なペドロに引っ張られて、ユウも先に進むしかなかった。


 進むにつれて、周囲の緑はその色を濃くし、ジワリと湿った空気はユウの肺を圧迫した。


「うわあぁぁぁッ」


 急に何かに飛び掛かられた様な気がして、ユウは大きな叫び声をあげてしまった。

 尻もちをついたまま辺りを見回したが、何もいない。何かが通り過ぎた痕跡さえもなかった。


 少し先を歩いていたペドロが戻ってきて、ユウを引っ張り起こしてくれた。


「何があった。ユウ」


 ペドロの瞳が猛禽類のそれになっている。


「ごめん、何でもないんだ。何かが飛び出してきたように思ったんだけど、気のせいだったみたい」


 大声をあげておきながら、あまりにも苦しい言い訳だった。

 穴があったら入りたい、という言葉の意味をユウは身に沁みて感じていた。


「イタっ」


 ユウの額とペドロの拳が打ち合って、乾いた音が鳴った。


「ユウ、もっと自覚持てよ。それってお前の『魔法』じゃないのか」


 声の調子は軽いが、ペドロの表情は捕食者のままだ。


「ユウは自分で思っているよりもずっと特別なんだからな」


 (たま)に恥ずかしげもなくこういう事を言うのもペドロである。

 むしろ、聞いているユウの方が耳を赤くしてしまいそうだった。


 二人はユウが怪しい気配を感じた方向を見た。

 鬱蒼(うっそう)とした樹々に覆われて、暗い森が2人の行く先に広がっていた。

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