第2話 出会い①
「ユウは日本人なのにアキハバラにも、アサクサにも行ったことがないの?」
不思議そうに自分を見つめるシェンズに対し、ユウは苦笑いで返した。
実は秋葉原には何回か言ったことがあったが、街のことを詳しく紹介できるほど知っているわけではなかったので、尋ねられても曖昧にごまかすことしか出来なかった。
ユウが草むらで話しかけた時のおびえた様子とは裏腹に、打ち解けてみるとシェンズは非常に明るく、よく喋る女の子だった。むしろ、喋りすぎるくらいだ。
自己紹介を始めると、中国沿岸部の生まれであるとか、祖父が日本人で、自分の名前は祖父がつけてくれたとか、猿とウサギと豚が願いをかなえるために旅をする日本の漫画が好きだとか、尋ねてもいないのに止めどなく喋り続けた。
そして、一通り話し終わるとユウにも自己紹介を要求してきた。
しかも、ユウが自己紹介を始めると、話が終わる前から次々に質問を浴びせてきた。
普段なら、ユウは初対面の人間とは距離をつくってしまいがちだったが、シェンズはそれを許さないほどの勢いで距離を縮めてきた。
他人の懐に遠慮なく飛びこむことが出来て、それでいて、相手に煙たがられないだけの愛嬌をシェンズは持っていた。
明朗快活で無邪気。
ユウと話しているときにも、小柄な身体には似合わない大きな身振り手振りをつかい、そして、よく笑った。
持って生まれたものだろうか、などとユウが考えていると、シェンズが顔を覗き込んできた。鼻先どうしがぶつかってしまいそうな距離にシェンズの顔がある。
精神的にだけでなく、実際の距離感もだいぶ近い。
二つの真ん丸の瞳がユウを見ている。
ユウはこれほど近くで女の子に見つめられたことはなかった。
ふつう、年頃の男子は女の子に(あまつさえ、かわいらしい女の子に)、これほど近づかれると、気恥ずかしさで動転するか、まごつくものである。
ユウも、ご多分に洩れず、視線をあちらこちらに移しながら、おずおずと、
「なんだい?」
という言葉を絞り出すのが精いっぱいだった。
やや不満そうに眉を寄せ、唇を尖らせたシェンズは、
「ユウはちゃんと私の話、聞いているの?」
と尋ね返した。
「なんだか上の空だったけど、他に気になることでもあるんじゃない」
シェンズのことを考えていたと、正直に話すのも気恥ずかしく、ユウはとっさに、
「これからどうしようかと思ってさ」
と答えた。確かに、この先のことはどうしたって決めなければいけない重要事項だ。考えていても不自然ではない。
しかし、この問題に対してシェンズはあっさり答えた。
「他の人たち、私達みたいにここに連れてこられた人たちを見つけましょう」
「でも、何の手がかりもないよ。こんな四方草原じゃあ、どっちに行けばいいかもわからないし……」
困惑するユウを見て、いかにも「わかってないわね」というようにあたまを振ったシャンズは、
「どっちだっていいの。方向なんて関係ないの」
と言って立ち上がると、困り顔のユウを見下ろして、喋り続けた。
「だって私が作った真理は、『私はみんなと必ず出会える』なんだからね」
そう言って、やや控えめな胸を張って見せた。
ユウが薄々感じていたように、シェンズはあまり賢い娘ではなかった。
普遍的な世界の法則に、“私”という一人称や、“みんな”などという対象を確定できない言葉を使ってしまうくらいである。
だいたい、真理がどのようなかたちで効果を表すかはわからない。その他にも、この「新世界」はわからないことだらけである。
しかし、そんな不確定な根拠であっても、シェンズの自信は揺るがなかった。
「さ、行こう」
そう言って、シェンズは小さな手をユウに差し伸べた。




