第1話 「新世界」へ
草の擦れる音と土のにおいに気付いて目を開けると、目の前には広大な青空があった。大きな雲や千切れてかすれた雲が流れていく。
身体を起こして辺りに目をやると、周りは見渡す限りの草原が広がっていた。膝丈ほどの草が一面に生えているほかは、何も見当たらない。
自分がどうしてこんな所にいるのかわからず、呆けていたユウだったが、すぐに自分が置かれている状況を思い出した。
ユウがいた世界は何の前触れもなく終わり、新たな世界がつくられた。
そして、ユウは新世界で生きることを許された100人のうちの1人に選ばれたのだ。
どのくらいの間、あの暗闇の中にいたのか、わからない。
不思議と気持ちはスッキリしていた。
しかし、ここが新世界だとして、この先どうすれば良いのだろうか。
どの方角を見ても、限りなく草原が見えるだけで、それ以外のものは目に入らない。遙か彼方に地平線が見えるだけである。
頼れる人もいなければ、帰るべき家もない。
ユウ一人だけが、何もない荒野に放り出されてしまったのだ。
いや、正確には1人ではない。
ユウ以外に99人の人たちが、この新世界にいるはずである。
何の手掛かりもないが、まずは他の人たちを探すことからはじめなければならないように思えた。
見上げてみても、太陽は見つからなかったが、まだ十分に明るかった。
動き出すなら、日のあるうちが良いのだろうが、問題はどちらへ進めば良いのかと言うことである。
進む先を決められず、ユウが周りを見回していると、近くで草がガサガサ、と擦れ合う音がした。
音のした方に目をやると、10メートルほど先で草むらが動いている。
ユウが目覚めた時の、風で葉が擦れ合っていたのとは明らかに違う動きと音である。
何かが向こうの草むらの中にいるのは間違いない。
急いでユウは身をかがめ、草むらの中に隠れた。
向こうの草むらの中にいるものが何なのか、それは必ずしも、ユウにとって安全なものや有益なものとは限らない。
もしかすると、自分に害を与えるものかもしれないのだ。
身を潜め、動く草むらの様子を窺ったが、まだ何も出てこない。
心臓の鼓動がやたらと大きく聞こえる。相手にもその音が聞こえてしまうのではないか、と思えるほどだ。
唾を呑むことさえ躊躇われるかな、急に、嵐のような強風が草原を吹き抜けた。
強風に耐えながら、ユウは強風で押さえられた草むらの中を見た。
「女の子だ」
それは確かに人間の女の子だった。
歳はユウと同じくらいだろうか。
肌の色や髪の色から察するにアジア人のようだが、日本人的な顔立ちではなかった。
おそらく、ユウと同じ生き残った100人のうちの1人なのだろう。
新世界で自分以外の人間を目にして、ユウは少し安心した。
すぐに女の子の所に行って、話をしたいと思った時、重大な問題にユウは気付いた。
相手が日本人でないならば、何語で話しかければ良いのだろうか。
勉強は嫌いではなかったが、英語の授業はそれほど真剣に聞いていなかった。
今更になって、学校の授業をもっと真面目に受けておけば良かったと、過去の自分を恨んだ。
それでも、わからない分は身振り、手振りでどうにかするしかないと心を決め、思い切って向こうの草むらに近づくと、考え得る限りの英語と、精一杯の引きつった笑顔で、ユウは女の子に話しかけた。
「エクスキューズミー?ドゥユースピークジャパニイズ?」
緊張で声が裏返った。
女の子は驚いてユウを見、一旦辺りに視線を逸らした後、再びユウを見た。
何か言いたげに口をパクパクと動かした後、うつむいて、
「わ、私、英語は話せません」
と言った。
消え入りそうな声だったが、自分が理解できる言葉が返ってきて、ユウは心底胸をなで下ろした。




