第17話 親友
「今日は大活躍だったってな、ユウ」
思いがけず飛行魔法を経験した日の晩、ペドロがユウに声をかけてきた。何故だか、ペドロは毎晩ユウと話をしたがった。その日起きたことを細かく質問し、ユウに話させる。
その日の話題は、やはりユウの空中浮遊が中心となった。いつものようにペドロの問いにユウが答える。一通り話が終わると、ペドロは、
「なるほど、それでヴィマラがユウを見る目が昨日とは違ったのか」
と言って、何やら一人で納得していた。
「そうかな、僕は何も変わらないと思うけど」
「この鈍ちんめ、あれはどう見てもお前に“ほの字”の顔だろうが。自分を助けてくれた王子様を見る目だよ」
からかわれているとしても、ユウは悪い気はしなかった。明日をも知れぬ「新世界」で、これほど無邪気にふざけあえる相手はペドロだけだったからだ。
「その様子だと、何でシェンズの機嫌が悪いのかもわかってないな。さすがに、それ自体に気付いてないってことは無いだろう」
「ペドロは良く人を見ているんだね。何でか、ずっと怒っているんだよ。理由を聞いても教えてくれないし」
シェンズの態度に困惑しているユウに対し、ペドロは深いため息をついて首を横に振るだけだった。
「そんな調子じゃ、ここに居づらいだろう。シェンズと仲直りするまでは、俺たちと外に行こうぜ」
唐突な誘いにユウは驚いたが、シェンズに対して居心地が悪くなっていたのも確かだった。
「それにな、明日はきっと何か起こると思うんだよ」
ペドロは周囲を見回して近くに人が居ないことを確認すると、小声でユウに耳打ちした。つられてユウも小声になる。
「何でそんなことがわかるの」
「ちょっとした推測さ。さっき俺たちと一緒に偏屈なじいさんが来ただろう。今日、森で見かけて、フレディが何とか説得して連れてきたんだ。あいつを含めて、ここに集まっている人間は40人になる」
ペドロが話していた老人、カールは皺まみれで、顔の下半分を隠す立派な髭と大きな鼻が特徴的だった。物語に登場するドワーフのような姿だったが、身長はフレデリックやレナードよりも高い。
「話じゃ、あの爺さん、こっちに来て五日間、一人で生活してたいらしい。俺たちと同じ日に、この『新世界』に来たってことだ。俺やユウ、シェンズたちを入れて、20人がその日にこっちに来てる。それで、俺たちより五日前に来たフレディ達も20人だ。つまり……」
そこまで言ってペドロは一息ついた。話の先が気になるユウがペドロを急かす。
「つまり、どういうこと」
「そうだ、俺もその先が聞きたいねえ。子ども二人で内緒話してないで、おじさんにも聞かせておくれよ」
突如発せられた不気味な声にユウとペドロが振り向くと、口元に品のない笑みを浮かべたプルチネッラが立っていた。
「お前みたいな信用ならない奴に聞かせる話はないぜ。あっち行けよ」
ペドロは素気なくプルチネッラを追い払おうとした。
「け、悪餓鬼め。信用ならんのはお互い様だろうに」
プルチネッラは吐き捨てると、人集りの方に去って行った。
「フン、あいつ、自分では何も出来ないから、おべっかと揚げ足取りばかりしてるんだ。あんな大人にはなりたくないよな」
ペドロはまだプルチネッラを追い払うように、手を振る仕草をしている。
「ペドロは僕のこと信用してくれてるんだ」
唐突なユウの言葉に、今度はペドロが軽く驚いた。
「だって今、信用出来ない人には話を聞かせない、みたいに言ってたでしょ。僕には聞かせても良いってことは、そういうことじゃないの」
ユウは考えた通りのことを言葉にしたつもりだったが、予想に反してペドロは笑い出した。
「確かにユウのことは信用してるよ。だってお前、嘘つけなそうだし。それに万が一、ユウが俺を騙そうとしたって、出し抜かれるなんてことあり得ないしな」
ユウは馬鹿にされているようにも思えたが、不思議と嫌ではなかった。
一頻り笑った後、ペドロは話の続きを始めた。
「それでどこまで話したっけ」
「僕たち20人がここに来て今日で五日目、フレデリックさん達20人がその五日前にここに着いたって所までだよ」
「そうだ。つまり、これまでは五日間に一回、20人がここに送られてるってことさ。明日は俺たちがここに来てから六日目、俺の推測どおりなら、新しい20人がこっちに到着する日のはずなんだ」
ペドロの説明が腑に落ちて、ユウは深く頷いたが、一つだけわからないことがあった。
「何で僕を誘ってくれるの」
一時、キョトンとした顔で、無言のままユウを見ていたペドロが再び笑い出した。訳が分からず、間抜けな問いをした、と思ったユウは真っ赤になって黙ってしまった。
「いや、笑って悪かった。お前を誘った理由な、俺は口は上手いけど、腕っ節じゃあ大人に勝てない。何かあった時、ユウなら『魔法』で何とか出来るだろう。それに、ユウといると楽しいからな」
そう言うとペドロはまた、陽気に笑った。




