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第15話 魔法教室②

 二人の少女は目を瞑り、地面に直接座っていた。シェンズは胡座を組んだ両膝に手を置き、ヴィマラは正座を崩し、足を自分の右側に出した横座りの姿勢で、両股の上で優しく両掌を重ねていた。

 中天に昇った太陽の光が二人を暖かく包み、辺りには風が木々を揺らす音と虫の声だけが響いている。


 しかし、乙女達の瞑想は長続きしなかった。


「ダメだ~。出来ない」


 脚を解いたシェンズがそのまま仰向けに倒れ込むと、ヴィマラも目を開けて小さくため息をついた。


「あれほど『魔法』を使いたがっていたのに、もう音を上げるのかい」


 どこか嘲笑うような、それでいて毒気のない口調でオリガがすぐ側の木陰から現れた。続いてユウやサラ、ハヤル達も思い思いの場所から姿を見せた。


「だって全然わからないもの。強くイメージしろって言うから、私、ずっと火のこと考えてたのに、全く出てこないのよ、火」

「わたしもダメダメだったぁ」


 シェンズの抗議に隣のヴィマラも同調した。


「だいたい、おじさんの説明が下手よ。もっとわかるように教えて」


 槍玉に挙げられたハヤルは、困り顔で頭を掻いた。


「そう言われてもねえ。さっき話したろう。炎の光や熱、物が燃える音なんかを具体的に想像するんだよ」


 ハヤルはその日の朝、二人にしたのと同じ説明を繰り返した。最後に「それから、おじさんは止してくれ」と付け加えることも忘れなかった。


「あと俺の場合は、これ(・・)かな」


 そう言いながらハヤルは右手の人差し指と中指を唇に近づけ、左手でライターに火を付ける真似をして見せた。

 その場の全員がうんざり顔になり、普段は他人の話に口を挟まないユウまでが、「二人とも未成年だし、タバコはわからないんじゃ……」と批難した。


 そうなると、次はハヤルが眉間にしわを寄せて難しい顔をする番である。腕を組み、上空を見上げながら、その場を行ったり来たりし始めた。


 堪え性のないシェンズがヴィマラやサラとおしゃべりを始めても、ハヤルはうんうん唸りながら考え事を続けていた。その様子からハヤルは皆の評価以上に真面目な人かもしれないとユウは感じた。


 女子達の団欒が一段落付いた頃、ハヤルは立ち止まり、その場に腰を下ろした。


「何だ、良い案でも思いついたのか」


 退屈そうにオリガが尋ねると、ハヤルは首を左右に振った。


「駄目だ。簡単に説明するってのは思った以上に難しいぞ」

「ならいっそ、難しいまま説明してみたらどうだ」


 オリガの気まぐれな提案に、ハヤルは一瞬だけ(ひる)んだ。


「難しく説明って言われてもなあ」


 不服を言いながらも、結局ハヤルはその提案を受け入れた。


「まあ、何だ。火ってのはモノが燃焼する時に出る熱や光のことだろう。だから、こう空気中の酸素とモノが結びついて全く別のモノになるような、酸素が無くなっていく所に火が現れるような、そういう化学的なイメージって言うのはどうだろう」


 ハヤルの必死の講義もシェンズとヴィマラには届かなかった。二人の少女は不思議そうな表情でハヤルを見つめるだけである。オリガだけが何やら楽しそうに微笑を浮かべていた。


「なんだ、意外に学があるじゃないか。驚いたぞ」


 オリガの声からは本当に感心しているのか、馬鹿にしているのかわからない。


「あのね、皆さん俺のこと単なるろくでなし(・・・・・)って思ってるようだけど……」


 その言葉に全員がうなずいたが、ハヤルは話を続けた。


「これでも、カレッジ出てるし、まともな仕事もしてたし、向こうじゃ綺麗な嫁さんに可愛い一人娘もいたんだからな」


 一瞬、その場の時間が止まった。全てのモノが凍りついたような、あらゆる生物が呼吸さえも止めてしまったような静寂。

 そして、堰を切ったように喧噪が訪れた。


「ハヤルさんって、娘さんいらしたのですか。というか、結婚されていたんですね」

「おじさんの子どもってどんな子、何歳」

「お前を許容出来るくらいだ、さぞや気立ての良い奥さんだったのだろうな」


 女性達の質問攻めにハヤルはひどく閉口していた。もはや、「魔法」の訓練のことなど誰も覚えていない。


 一人ユウだけが、騒ぎ外からその様子を念入りに観察していた。

 そこまでの話の最中にハヤルが言葉に詰まったり、動揺する様子は見受けられなかった。皆もハヤルに気を使っている様子はない。「旧世界」で別れた家族の話をするにしては不自然なほどに明け透けとしていて、どこか楽しそうにさえ見えた。


 そこからユウはある確信を得ていた。自分がつくった「新世界に悲しみはいらない」という「真理」が間違いなく働いているという確信を。

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