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第11話 動揺①

「哀れなレニーは捕えられ、散々(とが)められた後も恥を忍んでここにいるというわけだ」


 急に話に割り込んだプルチネッラが事の顛末(てんまつ)をまとめてしまった。レナードはプルチネッラを憎たらしげに一瞥(いちべつ)しただけで何も言わなかった。

 話を閉めたプルチネッラは、まだ納得いかないという顔をしているシェンズの方を向くと、少し済まなそうに言った。


「そんなわけで、叶わない『真理』があるってのはわかってくれたかい」


 「最強」を願いながら、たった二人の男に簡単に取り押さえられてしまったのだ。レナードの「真理」が効力を発揮していないのは明らかだった。


「それで、『俺が最強』っていうのの『俺』が誰のことかはっきりしないから駄目だったんじゃないか、ってことになったんだ」


 そこまで聞いてもシェンズは首を傾げている。


「君の考えた『真理』を、もう一度口に出してごらん」


 すかさずフレデリックが助け船を出した。


「えっと、『私は皆と必ず出会え……」


 そこまでいって、シェンズはハッと頭をあげた。自分の「真理」にも「私」という対象が明確でない言葉が入っていることに気付いたようだった。

 恥ずかしいのか、悔しいのか、はたまた腹立たしいのか、或いは全てがない交ぜになったような表情をシェンズは浮かべていた。こころなしか瞳も潤んでいるように見えた。


 こうなると大人は案外頼りにならない。泣く子を黙らせるのは思いのほか難しいということだ。実の子や親しい者ならともかく、先程会ったばかりの子供を厳しく(さと)すのは気が引けるし、かと言ってなだめるのも難しい。

 今にも泣き出しそうなシェンズを前に、プルチネッラやサラ、フレデリックまでが彼女を持て余していた。


「悲しみは無くなったはずなのに」


 その思いに呼応するようにユウの身体は勝手に動いた。シェンズに歩み寄ると、頭に掌をそえていた。


「シェンズ、泣いちゃダメだ」


 言いながらユウはシェンズの額を優しくなでた。


「他の人がなんと言おうと僕は信じているよ。こうして皆に会えたのはシェンズの『真理』のおかげだって」


 涙をためた目でシェンズがユウを見上げていた。もともと備えていた愛玩動物のような愛らしさに、濡れた瞳があいまって、言いようのない魅力をつくりだしていた。


「お嬢ちゃんは泣いてるよりも笑ってる方がかわいいぞ」


 ユウが思っても言えないことを、ハヤルがこともなげに言ってのけた。

 「かわいい」などと褒められることに慣れていないのか、シェンズの顔が真っ赤になっている。


「それに『真理』が無効になるってのはこいつらの憶測だろう。レニーが最強ってのはともかく、シェンズの『真理』がどうなったかはわからないぜ」


 ペドロがユウの陰から出てきて、気さくにシェンズの肩を叩いた。

 ここぞとばかりに他の大人達もシェンズを静めようと言葉を投げかけ始めた。言葉一つ一つに対応して、シェンズの顔は百面相していた。


 右手で涙をぬぐったシェンズは、最後に済まなそうに謝罪するプルチネッラの脛を軽く蹴りつけると、「次に私をバカにしたら許さないから」と笑った。


 シェンズの機嫌がなおり、大人達が胸をなでおろした所で、次はペドロの自己紹介が始まった。


「俺はペドロ。ファベーラ生まれ、ファベーラ育ち。『悪たれペドロ』で通ってたよ。ここは住みやすそうだし、楽しくやっていきたいと思ってる。よろしくな。特に、きれいなお姉さん方とは仲良くしたいね」


 ペドロもなかなかの厚顔ぶりである。ただシェンズと違うのは、盛大な陽気さの陰でどこか皮肉っぽさを感じさせる所だろう。不快に思う者も幾らかいたに違いない。


「お前はどんな『真理』をつくったんだ」


 誰かが尋ねた。確かにこれまで自己紹介を済ませた者は皆、自分のつくった「真理」を明らかにしていた。ペドロだけがまだ「真理」を発表していない。

 しかし、新たな「真理」が示されるのを待つ人々にとって、ペドロの返答は全く想定していないものだった。


「そんなの簡単に教えるわけないじゃん」


 何の躊躇もなく、さも当然なことのようにペドロは言い返した。

 ペドロの言葉を人々が理解するまでの短い静寂の後、ペドロを非難する声が次々に上がった。今度の騒ぎを止める者はいなかった。


「何故だ。どうして君は『真理』を隠そうとする」


 困惑したフレデリックの問いに、あっけらかんとした答えが返ってきた。


「本当にわからないのか、簡単なことだよ。俺はまだあんたらを信用してないの。今は協力するとしても、いつ別れるかわからないからね。敵になるかもしれない人間に、大事な情報を渡したくはないよ」


 いつもまにかペドロの瞳に冷酷な色が浮かんでいた。


「だが、君は他の仲間の『真理』を聞いただろう」


 フレデリックが食い下がった。


「本気で言ってるの。フレディーはもっと賢い奴だと思ってたのにな」


 「悪たれ」の名に違わぬ憎まれ口である。


「自分しか知らない『真理』なんだ。俺以外の奴にとっても最後の命綱のはずだぜ。何で全員が正直に話したって思えるんだ」


 ペドロの一言は大きな衝撃となって伝わった。ほとんどの者が忘れていた「人間は嘘をつく」という真理をペドロの一言が思い出させたのだ。


 遠くの暗闇の中で何かが不安げに鳴く音が響いていた。

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