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第9話 魔法②

 ハヤルは順を追って「魔法」の仕組みを明らかにしていった。

 先ず、ハヤルは「人間は感覚的に外部の環境に干渉できる」という「真理」をつくった。

 そして、「新世界」に来てから色々な方法を試したらしい。詳しくは教えてくれなかったが、呪文を唱えたり、地面に魔法陣を描いたりしたのかもしれない。(いい大人がこれをやっている様を想像すると少し可笑しい)

 結局のところ、意識を集中して実現したい現象を強く思い描くことで、掌の上に火の玉をつくり出せたということだ。


 同時にハヤルは自分の行為が「魔法」であることを自覚した。言われてみれば、ハヤルが火の玉を出して見せた時、それが手品ではないかと疑問を呈するものは誰もいなかった。ユウと同じようにそれが「魔法」なのだ、本能的に理解したのだろう。


 つまり、この世界の「魔法」は、ハヤルの「人間は感覚的に外部の環境に干渉できる」と、ヴィマラの「この世界では魔法が使える」という二つの「真理」によって成り立っているのだ。


「煙草もないのに、こんなしみったれた火の玉出せたってな……」


というのがハヤルの談である。

 最後に、


「おれ以外にも、『魔法』の使える奴はいるんじゃないのかな」


 ハヤルはそう言って話を終えた。


 こうなると辺りは再び喧騒に包まれる。たちまちのうちに魔法使い探しが始まった。騒ぐ人々に交じって、口を真一文字に結んだシェンズとヴィマラが自分の右拳を凝視している。


 混乱を遠巻きに眺めるフレデリックとハヤルの隣に立って、ユウはある思いを抱いていた。


「僕も『魔法』が使える」


 それは願望とか憶測とは違う、確信と呼べる感覚だった。

 省みれば、「新世界」に来て以降、ユウは自分と世界の境界があいまいになるような違和感に襲われることがあった。

 はるか彼方の草原で何かが動くのを感じたり、水中で目に見えない魚や人の動きを知ることが出来たり、自分と隔たった場所の音や熱を皮膚感覚でとらえたこともあった。

 今はその違和感こそが「魔法」だったのだとわかる。

 ただ、言い出そうにも目の前の無秩序がユウにそれを許さなかった。


 事態を治めたのはやはりフレデリックだった。

 ヴィマラの時と同じように、一声で仲間たちを静まらせたフレデリックは、「魔法」については翌日話し合いの場をつくることを提案した。反対する者は一人もいなかった。


 夜もだいぶ更けていたので、残るユウ、シェンズ、ペドロの紹介を済ませたらその晩はお開きということになった。

 まだ興奮冷めやらぬ者もちらほらと見受けられぬなか、シェンズは自信満々に一番手を買って出た。


 張り切って話し出したシェンズの勢いは、ユウに話した時以上のものだった。ヴィマラとハヤルの向こうを張って、自分も場を盛り上げようとしたのかもしれなかった。

 名前や生い立ちに始まり、日本のラーメンは最高においしいだとか、母親がとても美人なので大きくなったら自分も母親みたいになりたいだとか、果ては好きな芸能人の話までする始末である。

 フレデリックが「そろそろ次に替ってくれないか」と割って入るまで、その場はシェンズのひとり舞台と化していた。


 渋々と提案を受け入れたシェンズは、最後にこれだけは言っておかなければとばかりに、胸を張ってうそぶいた。


「ここにいる皆がこうやって無事に会えたのは、私がそう願ったからなの。『わたしはみんなと必ず出会える』ってね」


 これを言っても相手に不快感を抱かせないのは、もはや人徳のなせるわざである。派手にみえ(・・)を切った少女を微笑ましく思いはしても、あからさまに馬鹿にする者はほとんどいなかった。


 それでも、人の輪の隅でくすくすと失笑する声がするのをシェンズは聞き逃さなかった。

 声のした方を睨みつけると、文句でもあるのかと笑った人間を指差す。

 見つかってしまった男はすぐに両手で口を抑えると、悪びれる様子も見せずに見た目ばかりの謝罪をした。


「ごめんよ。別にお嬢ちゃんを嘲ったわけじゃないんだ」

「ただ……、君の『真理』はきっと効果を発揮してないと思うよ」


 男のゆるみきった口許と、鼻につく喋り方にシェンズの顔は熟れた桃の様に紅くなっていった。今にも湯気が吹き出しそうな勢いだ。

 男は少女をからかいすぎたことに気付くと、すぐにシェンズをなだめ始めた。


「いや、本当に嬢ちゃんを笑ったんじゃないんだよ。ごめんよ、俺が悪かったよ。機嫌を直しておくれよ」


 弁明はさらに続いた。


「でも、無効になる『真理』があるのも嘘じゃないんだ。なあ、そうだろ、レニー。この嬢ちゃんに聞かせてやってくれよ」


 何人かが“レニー”と呼ばれた男の方を見て、何やら納得した顔で頷いている。


「気安く“レニー”って呼ぶんじゃねえよ、プルチネッラ。何で俺様が、お前の尻拭いに自分の恥を話さなきゃならないんだ」


 そう返事した男は見るからに無法者という風体で、右腕には髑髏をあしらった刺青が彫られていた。


 プルチネッラと“レニー”の掛け合いは、事情を知らないユウたちを置き去りにして続いた。

 “レニー”がどうしても話したがらなかったので、最終的にフレデリックが代わりに話すことで落ち着いた。

 咳払いを一つしてフレデリックが語り始めたのは、彼や、“レニー”ことレナード、プルチネッラやサラ達が「新世界」で出会った時の話だった。

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