うちのお姫様の秘密 その1
ソレに気づいたのは、姫という名の白い猫が千晶の暮らす部屋に居座るようになってから割とすぐのこと。
白いワンピースを着た十四、五歳の少女の姿を度々目にするようになった。
投げやり、と言われればそれまでだけど環境が環境だっただけに、今更ユーレーくらいではビビらない―――…ビビってたらやってけない。その少女が、本当に幸せそうに笑っていたからかもしれない。普段どんなに温和なユーレー等と対峙する時にだって少しは必ず感じる、いわゆる邪気だとか重たい空気だとかが何も感じられなかったからかもしれない。
「なー、慎吾、見える?」
「あん?んー…、いるな…珍しい。お前、家の中に入れたん?」
「いや、ソレこっちのセリフだから。お前もう少しこの部屋のセキュリティ強めた方がいいんじゃねぇの?慎吾の役目だろ。―――…つか、寧ろ姫が無反応なのがビックリなんだけど」
リビングの一角に置いてある座り心地の良いソファ。その特等席とも言えるソファに丸くなって眠る姫の姿に重なるように見える少女の残像。姫と同じように四肢を折り曲げ、体を丸めて無心に眠りについている。
どこか、朧げに。
けれど、鮮明に。
通常、動物というものは人間なんかよりも遥かにそういうモノに敏感だと言われている。本当かどうかは別として、姫に憑いているのであれば何らかのアクションはあるだろう。が、それがない。
「オレ、思うんだけど。アレて霊じゃないんでない?」
この同居人は普段ものっっっすごく馬鹿だけれど、不意にこういうこと言い出したときにはそれなりに根拠というものが存在するのだ。
「なんで」
「ちゅーか、姫本人だと思いマース」
「だからなんで」
「あの子、姫の雰囲気にそっくりじゃない?」
言われて、再度まじまじとユーレー(と思しき存在)を観察する。
姫から香る日の匂いが安らかな寝顔を晒している彼女から香ってきそうで。まろい頬にさらりとかかる白く長い髪と白いワンピースが、姫の毛並みの感じにとてもよく似ていて。
「―――…姫、かな」
「だろ?」
満足そうに笑い、歳に似合わない金髪の同居人はキッチンへとその姿を引っ込めた。
別に負けたとかそんなのないけれど、なんとなく釈然としない気持ちを抱えながら、千晶は姫が寝ているソファへと近づいた。少女の残像には触れることができないけれど、そっと手を伸ばし、替わりとばかりに姫本体に触れる。一定速の呼吸と共に上下する腹部はいつもと変わらず温かかった。
飼い猫がもしかしたら普通の猫じゃなくて、多少変わった動物かもしれないと気づいた人間にしては、千晶の表情は穏やかだった。寧ろ、微笑みさえ浮かべていたのだ。
今更、はみだし者が増えたとしてそれがどうだというのだろう。
ふと窓の外を見上げると満月が優しく見下ろしていた。彼は姫を抱え上げ、自らの体をソファに埋め、彼女を膝に乗せた。
「お前にも、色々あったんだなぁ、姫。絶対お前俺らの言うこと理解してる風だったもんなぁ」
気持ちの良い毛並み―――…手入れしているのはもっぱら同居人だけれども―――…を撫でながらぼんやりと思う。
今晩の夕飯はなんだろう………。
すごく平和な日常のある一コマ。




