ワンルーム幽霊事情
最近、私の家に見知らぬ人がいる。
初めて気がついたのは今から一週間ほど前のこと。
特にすることもなく部屋の隅でボーッとしていると、部屋の中に断りもなく女が入ってきた。赤い服の女だ。彼女は我が物顔で部屋を物色し、やがて気が済むと何も言わず帰っていった。
私は恐ろしくなって、ふとこの部屋に引っ越して来るとき、大家の言っていた奇妙な話を思い出した。
曰く、この部屋には幽霊が出る。
男であるのか女であるのか。どんな姿をしているのかなどは分からないが、ここに住んだ人が出ていく際、必ずそういった話をするのだと言う。
故にこの部屋は曰く付き物件として格安の家賃で提供されており、生活に困窮していた私が即決して住み着いたというわけだ。
それから、幽霊なんて一度も現れていなかった。
所詮は迷信なのだろうと安堵していた矢先だ。あの女が現れるようになったのは。彼女こそが噂の幽霊なのかもしれない、と私は恐怖した。
しかし、特に何か危害を加えられるわけでもない。
彼女は最初、ほんの短い時間だけ現れた。だがある日を境に、頻繁に私の前に姿を現すようになった。
一人暮らしの部屋が、狭くなる。
低家賃だけが取り柄の手狭なワンルームにて。
私と彼女の、奇妙な同居生活が始まりを告げた。
ふとあることに気づいた。
女には、私の姿が見えていないらしい。
変な話である。私は幽霊である彼女を見ることができるのに、幽霊である彼女は私を見ることができないのだ。
長く生活を共にする内に、女に対する恐怖心は薄れていった。
むしろ親しみのようなものが湧いてきて、部屋に彼女がいることが心地好くさえあった。
そんなある日。
女の様子がおかしいことに気づいた。
辺りを訝しむように見回し、何か異変を感じ怯えている様子だ。
すると、ふと女の視線が私の方に向いた。
パッと目を見開いた女が、甲高い悲鳴を上げる。
そして震える足で部屋を出ていった。慌ただしく閉じられた扉を見つめながら、私は何がなんだか分からなかった。
初ホラーです。
残酷描写もなく、ホラー要素も控えめ。
次にこのジャンルで書くときは、もっと問題のあるヤバイものを書こうかと思っています。




