俺の高校の野球部は死ぬほど弱い2
こんなにも評価を頂けるなんてビックリです。
おかげで続編を出すことを決めました。ありがとうございます。
9回裏ツーアウト。ランナー一塁。
その点差6点。
鷺沼先輩がランナーとして出塁し、首皮は一枚繋がった。しかし、この逆鏡はこの程度では縮まらない。
1番は奈須堂先輩。これで終わりだろう。
俺は6番なんて回るとはほとんど考えていなかった。それが行動に出てたのか、クリーンナップで3番を打っている三重坂先輩が声をかけてきた。
「おい、どうした。ボーとして」
「・・・いえ」
三重坂先輩は俺の隣に座る。
また俺とともに試合を見守る。
カウントはツーストライク。ノーボール。奈須堂先輩は追いつめられていた。
「なあ、奈須堂の試合成績ってわかるか?」
三重坂先輩は急にそんなことを聞いてきた。
勿論、俺は誰かの試合成績なんて知らない。だが、少なくとも、奈須堂先輩はほとんどヒットを打っているところは見たこともない。
「さあ?でも、あんまり良くないんじゃないですか」
俺ははっきりとそう言っていた。失礼なことを言ってたが、自分がカリカリしていることもあったのかあまり気にならなかった。
はははと三重坂先輩は軽く笑う。
「そうだな。ヒットは打たない。だけど、それこそ奈須堂の強みでもあるんだよ」
「?」
俺は三重坂先輩の言っている意味が分からず、困惑する。
「フォアボール!」
俺は判定を聞き間違えたのかと思った。
けれど、しっかりと奈須堂先輩は一塁へと進み、鷺沼先輩も二塁に進塁していた。
「竹寺」
名前を呼ばれてビクッと反応する。三重坂先輩はネクストバッターサークルに行こうとしていた。
「野球はなヒットが打てないチームが負けるんじゃない。塁にでて点を取ったチームが勝つんだ」
「・・・・・・・・」
俺は黙って三重坂先輩の背中を眺めていた。
ツーアウト。ランナーは一、二塁。これで2番の小野宮先輩がホームランを打ったとしてもまだ3点差。
全然これでは足りない。
「あいつは何をやってんだ?」
部長が二塁にいる鷺沼先輩に対して呆れている。
鷺沼先輩は相変わらずへらへらと笑いながら謎のダンスをしている。
何をやっているんだろうこの人。
「タイムをとれってことッスかね?」
同級生である岸本がそういうと、部長がタイムをかける。
鷺沼と数秒会話した後、小野宮先輩に一言何か助言をし、部長がベンチに帰ってくる。
何やら、溜息をついている。
「どうしたんですか?」
と、俺が聞くと、「いや」とそれ以上何も教えてくれなかった。
「今から、ド肝抜くぞ」
部長が言っている意味がすぐ分かった。
相手ピッチャーが投げると、ランナーが一、二塁走り出す。
そして、小野宮先輩が振りにいく。
「ツーアウトでヒットエンドランッスか!?」
「いや・・・」
部長は首を振る。
すると、小野宮先輩はスイングするかと思いきや、バントの構え。
さすがの俺も驚愕。
バンドエンドラン。
この土壇場でしかもツーアウトで。鷺沼先輩は馬鹿か。心底そう思った。
ボールはフェアゾーンに転がる。
ピッチャーも内野も予想外だったようで運よく不意をつく。
やはり、というべきか頭の回転は速いようですぐにピッチャーはボールを掴む、そして送球。
「セーフ!」
危機一髪だった。
これでツーアウト満塁。
「鷺沼が言ってたんだ」
と部長は呟くと、
「あのピッチャーは制球力がないからセーフになる。当てて転がすだけなら誰でもできるからやらせろって」
「よく信用する気になれましたね」
「そりゃそうだ。あいつは元ピッチャーだからな。参考にもするさ」
それは初耳だった。
てっきり、失策の多い一塁手かと思っていた。
「さて、これで満塁だな。」
部長は本当に野球を楽しむかのような無邪気な表情をしていた。
「こういうのがあるから野球は面白いんだ」
俺は部長を見送りながら次の打者を見た。三重坂先輩だ。その顔に諦めの様子はない。
いまも変わらぬ6点差。しかし、はたしてこの試合は6点差の試合なのかと思うくらいに異様な緊張感に包まれていた。
「野球はなヒットが打てないチームが負けるんじゃない。塁にでて点を取ったチームが勝つんだ」
三重坂先輩の言葉を思い出す。
そうだ。まだ、試合は終わっていないんだ。
気軽に感想・評価をよろしくお願いします。
続編は考えております。
長いなぁと思いつつもお付き合いください。