最終決戦・終
レイナスの剣が、化人の背を斬り裂いた。
驚愕の目でレイナスを見る化人だが、その顔は怒りのそれに変わる。
化人の剣がレイナスを襲うが、すでに二人の距離はかなり近い。レイナスは二歩分踏み込み、黒炎の剣ではなくその剣を持つ手を狙い、手首から切り落とした。
レイナスはさらに追撃をしようとするが、化人は膝に衝角を作ってこれを迎撃。レイナスは化人から距離を取らざるを得ず、二人は10mほど離れた。
距離を取ったところで化人は切り落とされた手首を再生させる。先ほどまでシャルに向けていた意識をすべてレイナスに対しぶつける。
現在、レイナスは“双姫の加護”を使っている。
タイムリミットは理力を抜きに考えて10分程度。理力の残量を考えれば、5分持つかどうかといったところだった。それまでに最低限の仕事をするため、レイナスは大きく息を吸う。
「黒い炎が出てこない! こいつも限界なんだ!」
レイナスが叫ぶ。
今、リーゼの理力が尽きれば戦う手段がなくなる。最低限、他の者の士気を回復させる必要があった。
あとはシャルに目配せ一つ。追撃の要求だ。
収束攻撃が無効化されたことが衝撃的だったとはいえ、意識がいっていなかったのは間違いだ。相手が消耗してくれたのであれば無駄ではなく、効果があったとみるべきなのだ。そしてこの人数、あと2~3回は≪薙ぎ払え≫を使い挑戦できるはずであり、畳み掛けるように挑めば届くかもしれない。
黒炎の守りが展開されないこと、レイナスの剣が届いたこと。その二つは事実として戦騎と光姫の間に染み渡る。
実際は剣を作っているために守りに回すリソースがないだけだが、それでも目に見える希望を手にすれば、人は動くことができる。80人近い人間が、雄叫びとともに化人に挑みだした。
戦いの半分は、数で決まる。
「戦争における王道とは、質の高い兵士を数多く揃える事だ」とはどこぞの国の兵法家の言葉だ。
光術が飛び交い、化人を襲う。化人は再び黒炎の守りを展開するが、それは攻撃手段の喪失を意味する。槍で限定的に対処しようとするが、剣と守りを同時展開できないことを知ってしまえば精神的な余裕もできる。つまり、「攻撃している間は守りが弱まる」という事実の確認ができたわけだ。
槍が向かってくることが自身のピンチではなく、仲間のチャンスと考えてしまえば戦騎たちに気合も入る。剣ほどの密度を持たない槍であれば捌くことも容易であり、攻撃の密度が増す。
≪薙ぎ払え≫要員の光姫とシャルを含む三人の≪プリズム≫担当は理力を温存するが、他の光姫は全開だ。≪ライトニング≫≪エルフィンボウ≫などを使い、攻め立てる。
レイナスも主力として剣を振るう。
他の者の攻撃は今一つ効果が薄いが、レイナスの剣のみ、黒炎の守りを斬り裂き、化人を傷付ける。
戦の均衡は人類の側に流れ、化人は次第に追い詰められていった。
馬鹿な、と化人は思う。
先ほどまで優勢に進めていたこともあり、慢心していたことに気が付かない化人は絶え間ない攻撃と斬り裂かれる苦痛に混乱していた。
もとが生まれてから一月もたっていないヴラムである。個性を有し、人間以上の思考能力を持っていたが、いかんせん経験が少なすぎた。現状を理解できず受け入れられず、己の境遇を呪うしかできない。
高い学習能力で体の使い方を周囲の人間から学びそれを実践したとしても、その意味までは理解できていないし、考察できない。まだ獣の姿の方が戦いやすかっただろうが、それをいまさら言ってもしょうがないのが現実だ。再び体を作り替えるには“材料”が足りない。
スペックだけなら、まだ何とかなった。
経験不足による判断ミス。
それが全てである。
死を受け入れるには化人の心はまだ折れておらず、足掻き続けるが現状を覆すには足りない物の方が多い。
しかし逆転の一手は、化人になかった。
完全に折れるまで、あと少しだった。
“双姫の加護”のタイムリミットが残り5分のところですでに勝敗は決した。
化人の戦闘パターンは全員が理解し、守りが薄くなった時にタイミングを合わせればダメージが通るようにもなっている。回復されはするが、消耗させ続ければいずれ追いつかなくなる。勝てるだろうと、誰もが思っている。
これ以上、化人に手はないとレイナスは安堵する。
シャルとリーゼの理力は残り少なく、途中で仲間が参戦し、消耗を抑えることができたからもう少しいけるのだが、それでも無理をする必要はない。レイナスは一旦戦列から離れ、シャルの側の経路を切る。“双姫の加護”は終了し、一時的な能力ダウンによる倦怠感がのしかかるが、それについては根性で耐える。
あとは収束攻撃を連続で仕掛け、黒炎の守りを力技でブチ破るだけ。
そのはずだった。
「ッ!? 散開!!」
攻め立てていた戦騎の一人が、慌てたように叫ぶ。
見れば化人は再び剣を作ってそれを振り回している。
剣の攻撃範囲は1mと少し。剣の攻撃力を考えると、迂闊に踏み込むことができなくなった。
光姫たちはここが勝負だとばかりに≪ライトニング≫などを使うが剣に斬り裂かれ、届く攻撃は少ない。かろうじて届いたとしても単発では僅かばかりの傷しか負わせることができず、効果が薄い。
ならばと背面へ攻撃を集中させようとするが、それらはほとんどが躱された。
状況は、あまりよくない。だが、致命的というわけでもなく、攻めきることができないわけでもなさそうだった。
「レイナス、何とかできるかしら?」
「……理力がもう少しあれば、何とでも。シャルとリーゼの分だけじゃ、たぶん足りないよ」
「リーゼでなく、私と契約しなさい。それなら十分よね」
「当然だな」
敵から目をそらすことなく、ヴェロニカとレイナスは言葉を交わす。
どうにもならない現状に絶望した化人は怒り狂い、最期の悪あがき、捨て身の攻撃に出た。
そのまま戦うなら相応の被害を覚悟しなければならないが、それに付き合う義理はない。できるだけ被害を抑えるためにヴェロニカはレイナスに経路をつなぐ。
「シャル!」
「分かってる!」
レイナスとシャルの間には少し距離があったので、少し大きく声を出しやる事を伝えようとするが、シャルはすべて理解したうえで答える。
そのやり取りに満足したレイナスは再び“双姫の加護”を使用。化人のもとに駆け出した。
その後、レイナスの一撃を受けた化人はとある光姫の収束攻撃に滅ぼされた。
始まりこそ激戦だったが、終わりはとても、あっけなかった。
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