最終決戦・ヴェロニカ
配合種は苛立っていた。
先ほど痛い目を見せてくれた憎き怨敵は、何度突進をしてもひょいひょい躱すのだ。
苛立ちが募り、思わず怒声が口を吐く。
すると、自分の体を覆う黒いモノがわずかに減ったが、目の前の倒木を吹き飛ばした。
面白い。
そう考えた配合種は、二度三度とそれを繰り返し、コツをつかむ。
配合種は獰猛な笑みを獣の顔に浮かべ、敵を睨んだ。
放たれる衝撃波は射程800m、幅10m程度。
一瞬のタメがあるから発射を見切ることはできる。
よって800mどころか500m先で使われても回避可能だが、100m程度の距離から使われれば、まず間違いなく命中するだろう。
攻撃力の低さなどを考えると、薄くした≪薙ぎ払え≫のようなものと考え付いた。
レイナスは、目の前でわざわざ情報をさらけ出している配合種の衝撃波を見てそう判断した。
いつまで遊んでくれるかわからないが、この練習時間はレイナスたちに味方した。ヴェロニカ到着までの残り時間を稼いでくれたのだ。
「お待たせ――って、何をしているのかしら?」
レイナスの頼みを聞き届け、ヴェロニカは彼のもとに駆け付けた。
が、不機嫌を隠そうともせず、レイナスに食って掛かった。
すぐ近くで配合種が何かやっているが、ヴェロニカは目の前の光景――レイナスがシャルをお姫様抱っこしている――に。
これは嫉妬などの感情ではなく、「走って逃げるぐらい、自分で出来るわよね?」という意味だ。ヴェロニカ自身がそれをこなせる光姫であるため、いくらか自分に劣るとはいえ普通の光姫よりは動けるはずのシャルがそのような事をしている理由に思い至らず、そのような声音になったのだ。なんだかんだ言って、ヴェロニカはシャルを高く評価しているのだ。
そんなヴェロニカに、レイナスは冷静に返す。
「逃げるのにその方が都合が良かったから、ね。長時間の逃走だと、シャルの理力が持たないし」
「あの『大きいの』が遊んでいるのに?」
「いつこっちに来るかわからないからね」
「まあ、いいですわ。今、問い詰める必要もありませんし」
抱きかかえたシャルを下ろす気配のないレイナスに、ヴェロニカはため息を吐く。
正直、レイナスを別行動させた方が作戦上は選択肢が増える。シャル自身もそれなり以上の運動能力があり、通常の身体強化で戦騎と同等の――いや、精鋭クラスの戦騎と同等の動きができるのだ。遊ばせておくのはもったいないと感じてしまう。
しかし、シャルの理力量が少ないことはヴェロニカも聞いている。普通の光姫と同じ感覚で考えてしまったことをわずかに悔い、それを誤魔化すように感情の矛を収めた。
「で。何か案はありますの?」
「シャルがあと二発、正面から当てればトドメを刺せるんじゃないかって、ね。さっきまでは攻撃準備に必要な時間が確保できなかったんだよ」
「では私は囮役ですのね。一人の方がなにかと動きやすいでしょうし、合図程度に≪サテライトキャノン≫でも撃ってくださいな」
レイナスから作戦を聞き、必要な役割を自分で選ぶ。
誘導された形であるが、その程度ならヴェロニカも異論はない。なんだかんだ言って、最後に危険な目に合うのは彼女たちなのだ。ならば多少早めに危険なことをするのを躊躇うことなど、ヴェロニカには無かった。
ヴェロニカは囮となるべく、配合種に挑む。
話し合いが終わろうとヴェロニカが向かおうと、今の配合種は自分の新たな力を試すことを優先している。シャルから目線を逸らさないが、それ以外にはまだ目を向けていない。
好都合、とばかりにヴェロニカは配合種の左側面に回ると≪エルフィンボウ≫を七発同時に撃ち放った。
奇しくも配合種が衝撃波を使う瞬間にそれは着弾し、眼球から脳を貫くように命中する。
「あら?」とヴェロニカが驚くのも仕方がなく、あっけなく横倒しになる配合種。
「飛び道具を使っているときは守りが落ちますのね……」
あまりの展開にしばし呆然とするヴェロニカだが、半分条件反射で≪薙ぎ払え≫を使う。
今度は攻撃に魔力を使っていない万全の状態だったからか、ほとんどの場所は傷一つつかない。唯一、先ほどダメージを与えた左目近辺のみが削れたが、それだけだ。多大な消費に見合う結果とは言い難い。
「だったら」と接近して≪ライトニング≫を連射するヴェロニカ。守りが解けていない以上、まだ生きているという前提で攻撃を重ねる。
左目周辺をボロボロにして、そろそろ耳まで破壊できるのではないかという所で配合種はふらつく体を無理やり起こし、再び四本の足で立ち上がろうとした。
だが。
「時間稼ぎ以上だな、ヴェラ」
「みなさん! 往きます!!」
そこに駆けつけたレイナスたち。
好機と見れば素早く動き、攻撃を開始する。
≪プリズム≫で≪薙ぎ払え≫を今度は収束させるもいくつかの光束にして放ち、全身を削り取る。
光は確かに配合種を削り取り、消し去ろうとした。
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