前哨戦
場所を変えなかったのは敵を釣るためだったが、このままこの位置で釣りを続けることにあまり意味はない。距離が遠くなればリーゼへの負担が増大し、倒せる敵の数が減る。塊一つを潰し終えた段階でレイナス達は別の塊を同じ手順で殲滅できるように位置を変更した。
同じことを2度繰り返し、塊二つを殲滅した段階で10分近く経過した。本体より救援が来るまでもう5~10分といったところだろうか。≪サテライトキャノン≫を使っているので敵の位置はおおよそ掴んでもらえるはずだ。ある程度近づけば≪光術≫を使っている反応を感じ取ってもらえるだろう。
「それにしても……なぜヴラムのリーダーはこちらに戦力を回さないのかしら?」
すでに3つの塊、10匹のヴラムを仕留めたところでまた位置を変える。その移動の際にリーゼは疑問に思った。長距離から安全に敵戦力を削れるのはいいのだが、ここまで簡単に事が進んでいることに対する答えが見つからないのだ。
「敵も増援を呼んでるからだろ。お前が最後に把握している20匹から俺たちが到着するまでにどれだけ時間があったと思う? でなければこんな悠長な作戦に付き合ってもらえるはずがないだろ。ずいぶん増えているみたいだしな。取り残された人がまだ生きているのも、餌扱いって事だろ」
隣にいたレイナスは苦い声で答える。
シャルロッテも同じ意見なのか、無言だが肯いている。
「……しばらくはこのまま続ければいいんですよね」
「ああ、乱戦になるまでに少しでも敵の数を削りたい。っと、この位置にするか」
次のターゲットは先ほどまでより多い8匹の塊。先ほどまでの3~4匹と比較し、倍である。
「今度は俺たちも出番がありそうだ」
少し嬉しそうにレイナスが言う。
「理力はまだ8割以上残ってます。あれを殲滅したら6割程度。一旦休憩をもらってもいいですか?」
「うん、基本の6割だからね。いいと思うよ」
「ああ、応援と合流した後に戦えませんとは言えないしな」
基本の6割というのは、理力の残量管理に関する考え方だ。
攻撃側は常に6割の余力を持っておくように言われている。これは4割の力で攻撃した戦場は、6割の力で撤退することになるという経験則だ。戦場には「攻めるは容易く、退くは地獄」という格言がある。撤退戦の難しさを表したもので、新人は可能な限り理力を7割まで残しておくことが求められる。リーゼは今回、敵を全滅させるまで安全が確保できないこと、シャルロッテの基となる理力が最初から低いことが理由で6割までの使用に許可を求めた。言われた方は内心穏やかではないが、理性でそれを妥当と判断する。
また、先ほどの発言では敵が今までと同じくこちらに来ないことを前提に考えてある。本来ならレイナスが最初に言ったように、敵がこちらに来る公算が高いというのもポイントだ。つまり言外に「あなたの手は借りません」という意思表示でもあった。
「では、往きます」
先ほどまでと同じ様に≪サテライトキャノン≫を撃つリーゼ。狙いは違わずヴラムの1匹を仕留める。
だが、ヴラムのその後の反応が今までとは違う。闇を纏った1匹を先頭に、4匹がレイナス達に向かってきた。残る2匹は姿を消した。先陣を切る1匹同様、上位個体である。
今回発見したヴラムは獣型で、黒豹のような姿をしている。体長は2mはあるだろうか、普通の豹と比較しても特に大きいものと互角である。
「シャル!!」
「うん!!」
この展開を待ってましたと言わんばかりの表情で迎え撃つレイナス。自分の信頼する相棒に短く命令をする。
そのパートナーであるシャルロッテも、細かいことを言われずとも言われた内容を把握し使う≪光術≫を選択、準備に入る。
≪光術≫で強化されたレイナス達が1㎞を1分で走り抜けるように、≪闇術≫で強化されたヴラムもまた、同じことができる。先頭の1匹が後続を500mほど引き離し、走る勢いのままレイナスの元へ襲い掛かった。
「せいっ!」
気合一閃、レイナスの剣が闇を纏ったヴラムを捉える。ヴラムの≪闇術≫で強化された爪と剣がぶつかり合い、火花を散らした。だが、爪と剣の拮抗は一瞬にも満たない。剣は爪を斬り飛ばし、そのまま胴をも斬り裂く。
だが、この力比べはヴラムも負けることを承知でやっている。間髪入れずにレイナスの左右からもう2匹のヴラムが襲い掛かった。
先ほどの一振りですぐに反応できないレイナスだが、その表情に焦りはない。なぜなら――
「≪ライトニングザンバー≫!!」
シャルがその2匹に対し、≪光術≫を放つからである。
≪ライトニングザンバー≫は近距離攻撃用光術で、指先から光の刃を作り敵を斬り裂く術だ。高い威力と出の速さで使い勝手がいいのだが、半面、消費の割に飛距離がなく、近距離戦闘が苦手な光姫では使いこなせないという欠点がある。理力の少ないシャルはレイナスに合わせて接近戦をするしかなく、接近戦では光姫の中でも随一の武力を持つ。理力の少なささえ足を引っ張らなければ、高い実力を持っているのだ。
レイナスも自分の目の前のヴラムをすぐさま屠り、残るは下位と思われるヴラム4匹のみとなる。
2人の戦闘能力に呆気にとられたリーゼであったが、すぐにやるべきことを思い出し、後続4匹に≪光術≫を撃つ。ある程度距離を詰められると思っていたので遠距離用から中距離用の≪光術≫に切り替え、≪フラッシュボム≫――指定範囲から数mを吹き飛ばす≪光術≫――を使う。致死性は低くてもそれで十分な足止めをしたところで単体攻撃用の≪ライトニング≫で順にとどめを刺していった。
戦闘開始から約1分の出来事だった。
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