表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/100

最終決戦・シャル

 レイナスが再び参戦してから15分ほど経過した。


 戦況は酷くはないが、油断できるほど良くも無いといったところ。一進一退という訳ではなく、完全に消耗戦の様相を呈していた。


 まず、ヴラム側は二つの指示を受けて行動している。

 一つは軍と戦うヴラム。

 もう一つは、軍を無視してアイレンを狙うヴラム。


 軍を無視し、アイレンに向かうヴラムは囮である。軍の作った列を抜けようとすれば、戦騎や光姫は後ろを向かざるを得ない。そうやって振り回し、攻めるためのヴラムに攻撃のチャンスを与えるのだ。

 ただし、実際にアイレンに向かったところで散発的な攻撃は意味がない。よって、軍の後ろを取っては無事な者同士で集まり、群れとなってから軍に襲い掛かる。


 この場に展開している軍を潰せば自動的に勝利というほど甘くはないが、潰さなかったら勝利条件を満たせないヴラム側は軍を執拗に狙っている。

 波状攻撃というのは意外とスタミナと集中力を奪うのだ。そこに勝負をかけているのだ。


 結果として軍の損耗はすでに1割に及び、保険のはずの後列に少なくない犠牲が出ている。逆に数多くヴラムを相手する前列の方に被害が少ないのは、単純に戦歴の差だろう。

 ヴラム側の損耗は約3割、5千匹程度とかなりハイペースだ。単純計算で一人5匹となっている。開戦より30分程度の戦闘時間であることを考えれば、これまでにない偉業にも見える。

 ただし。その内訳の8割が通常種となっており、(ヴラム)は本命を温存していると考えれば、総じて被害は双方同じぐらいではないかと思われた。むしろ、理力の消耗という点を考えれば、軍が押される可能性が高かったりする。



 この戦い、少々どころかかなり厳しい。応戦に出た軍の中には、全滅するかもしれないと不安を抱える者が出始めた。

 そんな時だった。

 奴が、現れたのは。



 最初に気が付いたのは軍側の、北の部隊に所属する戦騎だった。

 彼が索敵術を使っていたとかそんなことは無い。地面の揺れを感じ取っただけだ。

 一定のリズムで振動する地面。響き渡る爆発にも似た轟音。

 木を蹴り森の上に出れば、広がる視界に移る漆黒のオオカミ。それは10㎞以上も離れているというのに、はっきり姿が見えるほど巨大で。夏に見た強襲型が足元のみ黒炎で守られていたのに対し、全身を黒炎で覆い隠し。遮るものなど何もないと言わんばかりの勢いで木々をなぎ倒し近付いている。

 ソレを見た戦騎は、先ず自分の正気を疑った。


 実際時速400㎞と、生物としてあり得ない速度で駆けているのだ。身体能力を強化した戦騎や光姫でも時速100㎞程度がせいぜい、強襲型だって半分の時速200㎞を出せるかどうかといった話なのだ。彼の反応は正常な人間として間違っていない。

 間違っていないのだが、それでもただの現実なのだが。


 最初にそれを見たのは彼だったが、同じ理由で状況を確認した戦騎や光姫はかなりの数になる。レイナスやスティーヴ、ヴェロニカも自分の目でそれを確認した。


 確認できてしまえば、ある程度の対処法は存在する。

 前回は、防御の弱い背中を狙って攻撃した。速度は2倍以上とタイミングがシビアになったが、同じことが出来ないわけでもない。接敵された戦騎の一人は弾き飛ばされる木を足場に、超巨大オオカミの背中に≪ライトニング≫を撃ち込む。彼の光姫や仲間の従騎はすでに離脱している。

 ≪ライトニング≫は確かに超巨大オオカミを捉えたが、強襲型よろしく、効いた感触は無い。強襲型の足のようなものかと、その戦騎は納得した。


 次に仕掛けたのは、シャルやリーゼといった光姫たちだ。

 彼女らは北部東端の≪薙ぎ払え≫要員であり、本来なら広域殲滅のために余力を残しながら戦っていた。しかし戦況が思わしくなく、それでも命令だからと切り札を温存していたのだ。当然、全力を振るいたいという思いがあったが、自分たちの行動が戦局に大きく影響を及ぼすと考えると、勝手な行動はできなかった。

 そんな感情を命令で押さえつけられた彼女たちにとって、この新たな敵は即座に排除すべき相手となった。広域殲滅など無視して動かなければ、相応の被害が出ると決断したのだ。


「皆さん、よろしくお願いします」

「貴女に任せます、シャルロッテさん」


 一人だけ一歩前に出たシャルが他の光姫に挨拶をする。

 それに返すのはこの場の代表を務める光姫。彼女が≪薙ぎ払え≫の音頭を取るのだ。

 では、シャルはなぜ一人、他の光姫と向き合っているのか。

 その答えは簡単だ。


「では、いきます。≪プリズム≫!」

「「「≪薙ぎ払え≫!!」」」


 シャルが先行し、≪プリズム≫を使う。両手を天に掲げ、その手の中に透明な結晶を作る。

 それは三角柱のような形をしているが、陽光を浴びてようやく形が判別できるほどに透明だった。

 そして一拍遅れ、光姫たちによる≪薙ぎ払え≫がシャルの作った結晶に放たれた。

 放たれた≪薙ぎ払え≫の閃光は全て結晶が吸収し、一瞬不発にも似た静寂が訪れた。

 しかしその直後、結晶は吸収した閃光をレーザー化し、超巨大オオカミへと撃ち出した。



 通常、≪薙ぎ払え≫は広域殲滅用の光術であり、使用者――複数で使う場合はその代表者――の腕の動きに合わせて薙ぐように放たれる。

 当然、広がるように放たれるそれは大軍を殲滅するのに向いているものの、単位面積当たりの火力、破壊力という観点で言えば、そこまで強くは無い攻撃だ。ただ、普通にヴラムの相手にするには十分な威力を持っており、それ以上は理力の無駄遣いという事で、威力上昇などこれまで誰も考えようとしていなかっただけだ。


 それが夏の大討伐後で登場した強襲型への対策という事で威力向上を考えるよう頼まれたシャルが、自分なりにできることを考えた結論がこれである。

 最初は自分の光術を高威力化しようとしていたがすぐに限界が訪れ、リーゼと二人で戦っているからと、二人で≪薙ぎ払え≫をベースにいろいろ考えてきた。最終的に、仲間の放った光術を制御・高威力化する術式を考え付き、≪プリズム≫に至る――。



 シャルの結晶に制御された光術は超巨大オオカミへと吸い込まれるように命中し、その胴体を貫いた。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ