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最終決戦・レイナス②

 レイナスは報告のために一旦本体に戻ると、予定通りの10分間休憩に入る。

 予定より早めに切り上げたといっても、反動を考えずに動くのは躊躇われたからだ。

 レイナスに発生する反動とは、理力供給を受け付けなくなるというものだ。しばらくの間何もできなくなり、足手まといになる。体が軋むとか痛むとか、そういった事は無いが無視できない反動である。しかも、反動が治まって大丈夫だと思っていたら急に反動がぶり返すこともある。なかなかに油断できない状態だった。

 途中で切り上げた場合、反動の発生時間も短くなるが、ぶり返しが怖いので10分間安静にすることになっている。



 ひとたび休憩に入れば、やることがあるのはリーゼだけになる。

 リーゼの≪サテライトキャノン≫は射程が1㎞と長く、頭上からの攻撃なので距離に関係なく遮蔽物の影響も受けない。なので、一人索敵範囲に引っかかったヴラムを潰している。

 シャルは完全に手持ち無沙汰で索敵を行っている。それしかすることが無いのだ。


 そうやって周辺の状況把握に努めていると、シャルが西の空を睨んだ。


「火が……」


 シャルの感覚で約3㎞先。そこで戦っていた仲間とヴラムが、急に散開した。

 何事かと視線を向ければ、勢いよく燃える炎ともうもうと立ち昇る黒煙。シャルは、ヴラム側が火を放ったと判断した。軍の作戦に火計などないし、この戦場を選んだのはヴラムの動きに合わせての事だ。何らかの仕込みをされたのだと、シャルは判断した。


「やれやれ。無駄なことをするな」


 シャルの反応につられて西の空を見たレイナスはぼやいた。


 通常、森での火計はそれなりの効果を発揮するように思われる。

 しかし、最近雨が降っていないとはいえ、生きている木というのは意外と燃えにくい。表面の乾燥した部分に火が付いたとしても、その中までは通らない。よって、油などを使うか可燃物をうまく置くかしないと火が燃え広がるなどあり得ない。

 それに、煙の規模から広範囲が燃えたようであるが、被害者は人間とヴラム、双方0である。ダルムシュタットの時のような炎の檻ならともかく、普通に火が付いただけなら安全圏まで退けば済む話だ。高い身体能力を誇る戦士たち相手に逃げ場がある状態で使っても効果は薄い。

 風は東、つまりレイナスたちに向けて吹いてはいるが……正直、仕込みも何もないところまで火は燃え広がらない。煙は高いところに行くものであり、近くなら多少被害は出るだろうが、2~300mも離れてしまえば煙害に遭うことも無い。

 つまり、何の意味もない、無駄な行為だとレイナスは断言した。


「火が付いただけのようだが、何か他の狙いがあると思うか?」

「煙が毒かも、って考えたけど、それも無いよね? 風はそんなに強くないし。せいぜい火がついたときに近くで戦っていた人にしか、効果は無いよね」

「炎が壁になるかもと思ったですけど、そんなに燃え広がっていませんですね。私もよくわからないです、先輩」


 レイナスは自分が無駄と判断したことを油断かもしれないと思い直し、二人に意見を求めるが、シャルとリーゼも相手の狙いを看過するには至らなかったようだ。

 感じ取れるヴラムの反応を深く見るが、知っているヴラムばかりで、新種が投入されたとかいった事態にはなっていない。もしかしたら、前回戦った虫型と人間型、双頭種に何らかの能力があり、それを活かすためかもと思った。しかし炎の近くで戦っている者が誰もいないので、レイナスはその考えを破棄する。シャルに聞けば、火を放ったタイミングで戦っていた仲間に被害は出ていない。

 やはり無駄かと結論付けたレイナスは10分の休憩を終え、再び戦場に戻っていった。



 レイナスは最後まで気が付かなかった。

 ヴラーナの狙いは、火ではなく煙にあったことに。

 そして煙に攻撃性は無くとも、意味があったことに。

 ダルムシュタットで自分たちが攻撃のための火計をしたことで、レイナスたちの思考範囲は狭まっていたのだ。


 古来より立ち上る煙は情報伝達の手段として使われる。

 仲間に合図を送るそれは、「狼煙(のろし)」と呼ばれることに、レイナスたちは気が付かなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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