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最終決戦、開幕

 レイナスらがアイレンに戻ってから2日。

 ヴラムはアイレンの南側より東に抜けようと移動を開始した。


 この頃にはダルムシュタットからの帰還組も十分な休息を取り、全力戦闘が可能なところまで回復していた。

 もっとも、多くの仲間を失った血戦で精神面にダメージを受けた者も少なくなく、本当に全力で戦えるかは疑問の残るところであったが。


 アイレンで総指揮を執るヴェロニカはすぐさま迎撃を指示。

 戦場はアイレンの西南、高低差のあまりない深い森の中で行われることになった。



 アイレンから西の方は、もともと物資搬入の理由がなく、開拓村の数もほとんどない。よって、森は切り開かれることなく、手付かずのまま残っている。ただ、下水施設に使われる川がありその周辺のみ開かれているというのが現状だ。

 この場合、大規模殲滅が難しいように思われるかもしれないが、索敵術のおかげで敵の位置が把握でき、森への被害なんて配慮する必要がない事から、あまり影響がない。きちんと隊列を組んで戦うのであれば、木々が邪魔だとかいう事も無く。戦闘に、特に影響はない。


 逆に敵であるヴラムから見た場合、平野の方がありがたいという話でもある。

 人類側の索敵術はヴラム側のそれを大きく上回ること、そこから相手は視認せずともヴラムの種類などを特定でき、戦力を把握できるというのにヴラム側はそれができないこと。

 唯一の利点は連携を取るための声の通りで、木々に音が遮られたりすることで200mも分断すれば連携を取れなくなる人類側と違い、獣の特徴を持つヴラムなら1㎞は連携を取れることである。前回のように混戦に持ち込んだ時のように、広く分断すれば一方的に叩くことが可能となる。

 しかし、それに対する対策を取っていないなどとはヴラーナも考えておらず、利点をどこまで生かせるかは微妙なラインだ。


 戦力的には、軍はダルムシュタットから戦い続けた戦士700人にアイレン防衛部隊の300を加えた1000人のみ。

 ヴラム側は1万8千匹で、主力の通常種が1万近くと他多数。

 正面からぶつかり合えば、ヴラム側がやや優勢と言ったところか。人類側にしてみれば広域殲滅をうまく使えばひっくりかえせる戦力差であるが、何も考えずに戦うならそれができるはずもなく、兵の配置と戦況の操作でどこまで戦場の誘導ができるかがカギとなる。

 逆に言えば、ヴラム側は戦場の拡大と混乱を主任務にすることが最優先となり、行動目標をアイレンと以東の大都市に分散させることが予想された。本来、数が多い側がやる包囲殲滅戦を10分の1しかいない人類側がやらねばいけないという事であるが、その難易度は容易に想像できる。


 アイレンのみならずエルグライア大陸全てを守ろうとする、この一戦に全てを賭ける人類側の勝機は薄いように見えた。





 軍がとった戦術は至ってシンプルである。

 2層横列陣による、「面」の迎撃だ。

 まず、アイレンに向かわれないよう北を中心に戦う部隊と、他の大都市に向かわれないよう東から戦う部隊の二つに分けた。

 次に、主戦力を前面横一列に並べ、迎撃を行わせる。後列にはアイレン防衛兵という戦い慣れていない者が横一列に並び、討ち漏らしに備える。

 それでも完全に防ぐことは難しいと予想されるため、アイレンは残りの防衛兵と多少戦えるようになった住人すべて使い、自衛させる。これは他の大都市についても同じ考えで、この場では敵の数を減らすことを最優先。それ以上はできないと諦める決断を強いられた。手持ちの戦力が少なすぎ、ダルムシュタットでの大敗が影響した形である。

 また、北と東の部隊の間には隙間を作り、その間を抜けようとするヴラムが出るように調整している。うまくやれば、そこで渋滞が発生し、広域殲滅ができるという考えだ。もちろんその考えを読まれる前提で、反対側の端にも広域殲滅が行えるものを配置しているのだが、相手次第という、半ば運任せに近い。出来ればヴラムを押し込むことで密度を高め、≪薙ぎ払え≫を使いたいのだが、面を広くとるために殲滅力が足りず、そこまでできないという事情もあった。


 対するヴラムはというと、最初から2つに部隊を分けており、その部隊も≪薙ぎ払え≫を警戒して密集しないように隊列を組んでいた。一撃で数10匹のヴラムを消し飛ばす殲滅力は当然のように警戒する対象であり、その点に抜かりはない。もっとも、戦闘が始まってしまえば理想論による部隊運用などできるはずもなく、使われる危険性を重々承知しているのであるが。

 配置は北のアイレンに向かう部隊を多くして、アイレンを複数個所から攻める算段になっている。東に向かうのもブラフで、最終的には全戦力を用いた包囲殲滅戦を仕掛ける気だ。東に抜けようとすればそれを当然のように止めようとする部隊が出てくると見越しての判断だ。

 しかし。この戦術ではヴラム側も損耗率が大きく、各個撃破の可能性を大いに含む。つまり、この一戦に限っては有利であるが、その後が続かず、いずれ自滅する。



 互いが戦術的に最善を目指し、戦略的には穴のあるこの一戦。

 勝者が出るか分からない戦いが始まろうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。

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