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軍代表、起死回生の策

 軍全体の把握というと、何があるか。


 軍の人員、特に重要な者の名前と能力。

 協力者たちから差し入れられる物資。

 現在行われている作戦とその進捗。

 前任者の遺産だけでも、1日2日では把握しきれないほど膨大な量がある。


 それだけではない。

 周囲の地形と気候特性。

 それらを最大限使った策の草案。

 求められているのは目の前の脅威を打ち払う希望。


 有限な時間の中で、最大限の努力を求められている。



「シャル、戦死者リストと生存者のリストのまとめが終わった」

「先輩、遠征中に成長した分の書き出しが終わりました」

「ヴェロニカさん。軍の戦力分析レポート、作成が終わりました」


 代表としての仕事すら、ヴェロニカ一人でこなせない。

 一人でできない時、どうするか?

 知り合いを、巻き込むのだ。


 ヴェロニカと互角に渡り合える人間は少なく、そのほとんどがすでに重要な仕事――アイレン学院の生徒会長などはすでに街の商工会と丁々発止のやり取りをしている――を任せられている。

 だから手が空いていて(手を空けさせられ)気心の知れた(無茶振りできる)相手となるという事で、レイナスたちに白羽の矢が立った。

 レイナスは“双姫の加護”の応用発展を調べておきたいのだが、重要度が低いのでヴェロニカの要望が優先される運びとなった。



 アイレンには防衛兵が500人ほど残っていたが、戦歴を見れば新兵に近い。

 激戦を潜り抜けた兵は3000人を700人まで減らしている。

 2万匹のヴラムと戦うなら、最低でも2000人は欲しい。それも、それなりに経験を積んだ戦士を、である。


 前回のような都市一つを使ったトラップは今回使えない。

 アイレンを焼きたくないという感情的な理由ではなく、単純に、仕込みの時間が無いのだ。あれはダルムシュタット奪還直後からあの決戦に至るまでかなりの時間を使った大仕掛けに、周辺の地形と風の流れを利用した、「あの時あの場所」でしかできないものだったからだ。

 アイレンで似たようなことをやったとしても効果が期待できず、損失の方が圧倒的に大きいので別の手法を考えなければいけない。



「そういえば」


 書類に目を通し、データをまとめ直しながらレイナスはふと思い出したことを口にした。


「あの時、あの戦場にヴラーナはいたのか?」

「「……」」

「そのような報告は受けてませんわ」


 レイナスの言葉にヴェロニカが答える。

 敵の首魁(ヴラーナ)について、誰も情報を持っていない。

 あの規模の群れがいて、こちらを出し抜きダルムシュタットを落とそうとした。しかも、自分の拠点を捨ててまでの博打で。そうなると、あの場にいないという事はまず考えられない。こっそりと隠密型と別行動していた場合、運悪く軍の誰かに出くわすだけで「詰む」からだ。リスクが大きすぎる。

 情報収集といえばリチャードを思い出すのだが、彼すら「ヴラーナらしき存在は見ていない」と言っていた。

 彼以上に索敵術を得手とする使い手などいないので、結論としては「わからない」となる。


「リチャード隊長だったら、もし一つ二つ変わった魔力を持った奴がいたとして――それを見逃すなんて、ありえない。そうなると、ヴラーナはあの場にいなかった」


 「それとも」とレイナスは間を置き


「ヴラーナは魔力も理力も持っていない。つまり、戦う力を持っていない」

「あら? 隠密型のようにかくれんぼが得意かもしれませんわ」

「隠密型はたいして強くなかったよな」

「隠密型の能力を持つのなら、他のヴラムの能力も持っているかもしれませんわね」

「根拠の無い、類推だよな」

「お互いさまにね」


 レイナスとヴェロニカは、書類仕事をこなしながらも会話を続ける。

 二人はここしばらく顔を合わせていないし、去年1年のブランクもある。だが、お互いの呼吸は合わせようと意識せずともかみ合っている。


「前回の戦いで見たので新種は打ち止めだったよな。という事は、身を隠すなら隠密型しかない」

「超広範囲に、低威力でいいから、光術を打ち込むのかしら?」

「隠密型の防御力を突破できる程度には欲しいけど」

「≪薙ぎ払え≫のような光術は無理ですわね。となると≪ライトニング≫をベースに、弾数と射程を延ばすのが良策かしら」


 二人がぽんぽんと言葉をつなげるので、シャルとリーゼは口をはさむ余地がなかった。

 が、長考に入り、途切れたところで口をはさむ。


「≪ライトニング≫だと、どうやっても射程が足りないよ? それなら≪エルフィンボウ≫の自動追尾を無くして、制御の手間を無くしたほうが早いと思う。でも、それをやるより――」


 シャルはここが勝負の決め手とばかりに自分の考えをつらつらと並べる。

 「理力の低さをカバーする」ためにいろいろと考えてきたが、「カバーしきれず試すこともできないアイディア」の方が圧倒的に多い。そのため机上の空論ではあったが、他の誰も試そうとしてこなかった考えをいくつも持っていた。

 そのうちの一つ、複数人数でやる光術、≪薙ぎ払え≫の応用についてシャルは考えを述べた。


「そうなると、ヴラムの位置誘導が重要だよな」

「アイレン近郊だと、地形を使って集めるのは難しいと思うわよ?」

「囮も前回使ったし警戒されているだろうな」

「逆に警戒を逆手に取るとか、どうかしら?」

「……囮作戦がうまくいったとき、失敗した時の両面で作戦を考えればいいんじゃないか」

「そうね。あからさまに誘導せずに、さりげなくやればいけそうね」


 シャルの考えた光術は汎用性や実用性以前に、実戦でうまくいくか(コンバットプルーフが)試されていない(ゼロである)

 ただの学生、それも去年まで劣等生扱いの彼女が考案した光術など、今まで試されることはなかった。が、今はワラにも縋る思いの軍代表が聞いているのだ。それに、理論上の矛盾なども聞いた限りでは無かった。急ぎ人を呼び、試させる事となった。


 その数分後、実験の成功とともに勝利するための、わずかな希望が繋がる。

 あとは得た結果をもとに、作戦を組むだけである。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。

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