アイレン 一時の猶予
「訓練の進捗はどうなっていますか?」
「身体強化の出来る者が500人、簡単な治療の出来る者が20人。遠距離攻撃系の光術が使えるようになった者はおりません」
「そうですか……。民兵は自衛を主任務とし、いざという時の脱出時に動いてもらいます。引き続き、訓練をお願いします」
「はっ!」
ヴェロニカは約1月という短い期間ながら結果を出した民に安堵するとともに、先行きの見えない不安に駆られる。
光術というのは軍とごく一部の人間に独占された、危険な技術である。
身体強化を行えば、子供が大人以上の働きをする。分別のつかない幼いうちから使えるようになろうものなら、どんな事件を起こすかわからないといった危うさを孕んでいる。
犯罪に使われるかもしれない。無知から事件が起きるかもしれない。
光術は誰にでも扱えるものではないが、殺傷能力の高い武器のようなものなのだ。
よって、国が管理し、独占することは平和のための、当然の行動だった。
しかし、人類存続の危機においてそのようなことを言い続ける力を国と軍は失い。
管理しきれない多くの民たちにその情報を開示してしまった。せざる得ない状況に追い込まれた。
これは軍の上層部の意向であり、ダルムシュタットへの遠征が決まった段階で説明されていた話である。最悪を想定してダルムシュタットを使い潰すこと、そして民に光術を教えること。それがあの時にみんなが驚いた方針だ。
滅びるよりはマシだが、その後の混乱は避けきれない選択をしたのである。
ヴェロニカは暗い想像を振り払うために明るい未来を想像しようとして、無駄だと思い直して考えることをやめた。
軍というか、学院生は家柄を持ち込むことが禁止されている。
そのため、家名を名乗るのは本当にごく一部だけだったのだが……ヴェロニカは故人となった軍最奥指令の孫であったのだが、それが大々的に発表され、例外の一人となった。
それに加え、ダルムシュタットでの英雄的行動と陣頭指揮を理由に、暫定ではあるが軍の代表という形に収まった。というか本人の意向を無視して無理矢理そうなった。
ただし、代表であって最高司令官ではないというのが重要だ。
最高司令官の仕事となると、どちらかといえばではなく完全に頭脳労働であり、周辺との調整などが主になる。ヴェロニカにその手の仕事ができるわけもなく、他のできる人間に任せられている。
軍の基本方針については前任者のそれを流用し、自ら打ち出すことは無い。この場合の基本方針とは戦略的なものであり、年単位で先を見越した話である。専門知識と経験のない人間にどうこう言えるものではない。
では、何をしているかというと、全体の把握である。
戦略的な話はできないが、戦術レベルであれば十分に通用するノウハウを持っている。
戦場において「機を見るに敏」であり、本人の戦闘能力も高い。
戦術レベルの指揮官なら、逆にとても優秀なのだ。
それにヴェロニカには実績ができたことで発言に説得力が出ている。
身を挺して仲間を救ったことで仲間達から人気があり、戦意高揚には打って付けというのも大きい。外見の良さも相まって「戦場の女神」と呼ばれつつあることを知ったヴェロニカは本気で頭を抱えそうになったが、士気の高さは重要なのでその話は民間レベルまで広められた。最高司令官を亡くし遠征軍が半壊した現状では、明るいニュースは貴重なのだ。
何せ、まだ2万匹近いヴラムとの戦いが残っているのだから。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。
前回まで戦っていたのがブライザッハとククスハーベンのヴラムで、残り2万の大半はフルダで生産されたヴラムです。
2014年3月14日 日本語修正
× 軍最奥指令のお孫さんであった →
○ 軍最奥指令の孫であった




