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ダルムシュタット、消滅

 シャルを使った理力回復は、一定の効果があった。

 手順としては、回復させたい光姫とレイナスの間で契約を交わし、シャルの理力をレイナス経由で対象の光姫に移すのだ。

 多少は理力の変質があったが、その後の自然回復で誤差の範囲内に収まっている。変質した理力の使用がどのような影響を及ぼすかレイナスは興味を持ったが、その件については試す時間も無いので自重していた。もっとも、戦後にそんなことを研究して意味があるのかもわからないが。


 シャルの理力の低さから、一回でできる回復の手助けは微々たる量だった。しかし、光姫の回復した理力を彼女の戦騎に供給し、減った分を補給することで効率を上げた。

 その結果、光姫10人分の理力を7~8%程度回復させることに成功した。全体で見れば、≪ライトニング≫100発分程度の回復量である。シャル自身は何度も完全回復しているので、余剰分を他に回せたことになる。

 今はそれだけでも大きな違いになりそうなほど、戦力はカツカツだ。上手くいったことにレイナスは安堵する。





 レイナスたちが理力の回復をしている間に、ヴラムの方も準備が整ったらしい。

 ヴェロニカによる救出劇からおおよそ1時間。ついにヴラムが動き出した。


 ヴラムは閉じられた門に見向きもせず、広範囲に散らばって内部に侵入を試みる。

 軍の側にそれを阻止する手段はない。重要な物資に関しては、下水道経由で理力を最低限供給しただけの戦騎らに運ばせているので問題視もしていない。


 軍は壁の一部に全員集まり、迎撃を行っている。何日も前から準備されたとある作戦のため、敵を集める必要があったからだ。過半数は壁の上から攻撃を仕掛け、残りは外壁の内側から≪サテライトキャノン≫などで壁にとりついたヴラムを攻撃する。また、内側にいるものは街中に侵入したヴラムの迎撃もしている。

 基本的に、軍はその場にとどまり応戦する。自らを餌として、敵を釣り上げるために。


 案の定、10分もする頃にはほとんど全てのヴラムがその場に集まってきた。

 といっても、一度に大勢で押しかけるような真似はしない。≪薙ぎ払え≫を警戒しているのか、横に並んで断続的に襲ってくる。一回倒せば一呼吸おいて次が来る。それを繰り返しているのだ。

 この場合、乱戦や混戦に持ち込まれることは無いが、少ない理力を節約する意味では嬉しくない。できれば塊になってもらったところを≪薙ぎ払え≫で一掃したいのだが、このままではかなわぬ夢想に等しい。


 だから、策を打つ。



「行きなさい!」


 壁際で防衛を始めて20分程度。

 戦場のヴラム、過半数が集まったとヴェロニカは判断した。

 よって、作戦の決行を指示する。


 動いたのは、壁のそばにいた戦騎数人だ。

 彼らは壁に食い込ませてあった杭をハンマーで打ち付ける。

 そうすると、壁の中でレンガが押され、それが連鎖して外壁を崩しだした。


 崩された外壁は、街中から崩れ始めたにもかかわらず外に向けて倒れる。

 高さ10mの外壁は、壁の形を保ったまま取りついていたヴラムを押し潰した。


「「「≪薙ぎ払え≫!!」」」


 それと同時に、戦騎に抱えられて無事着地した壁の上にいた光姫が≪薙ぎ払え≫で敵を一掃する。

 壁の倒壊から逃れようと後退自したヴラムは、後方に控えていた他のヴラムに合流してしまったので、一瞬ではあるが狙いやすい塊になっていたのだ。軍にしてみればそれは狙ってやったからであり、上手くその隙をついた形だった。



「さあ、全員引き揚げなさい!!」


 当然、一つの策がうまくいったからと言って戦況が大きく変わったわけではない。「やってやったぜ」という高揚感とともに、軍は全員撤退を開始する。

 わざと街中を駆け抜け、途中、仕掛けてあった落とし穴を使ってヴラムの数を減らす。逃げる際中の追撃は後方を疎かにするが、「罠に嵌めるために移動する」という意識を持たせることで攻撃的で、かつ慎重な撤退を行わせる。ヴラムの側も、罠を意識してしまえば動きが鈍る。



 最後に、殿を務めたヴェロニカは、仕上げを披露する。


「生き残るため。迷わず逝きなさい」


 手にした松明を、壁のとあるポイントに投げつけた。

 油を塗られた外壁は松明の火で燃え上がり、次々に延焼する。

 燃え盛る炎は外壁を優先して燃え上がり、炎の檻を作った。約100㎞に及ぶ長さの外壁が、ヴラムを焼き滅ぼす武器になる。

 外壁の対岸まで炎が進めば、次は街中であった。

 石造りの建物が多い大都市の建築物であるが、木材の類がないわけではない。それに、この日の仕込みで持ち込まれた可燃物がダルムシュタットの至る所に置かれており、火炎をより一層燃え上がらせた。



 ヴラムの体は、ただの炎で10分ほど焼かれただけなら「ダメージを負う」程度で済む。

 しかし、この規模の火災は大災害へと姿を変えるのだ。


 ダルムシュタットの南から吹く風が、外壁を使って旋風となり、炎にあおられ竜巻と化す。

 火炎竜巻だ。

 燃え盛る炎の狂乱は1時間以上続くこととなった。


 さすがにこの規模の火災となれば、生命力の弱い通常種や双頭種、人間型には耐えられない。

 ヴラム側はこの一戦により、1万4千の群れを3千まで減らすこととなった。



 人間側もヴラム側も、死に体と言えるほど、ボロボロである。

 戦場はダルムシュタットからアイレンに移り、最後の局面を迎えようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、日本語の間違いなどありましたら指摘をお願いします。


2014年3月14日 誤字修正

× 火災をより一層燃え上がらせた →

○ 火炎をより一層燃え上がらせた

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